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「失礼いたします。食前酒と前菜をお持ちいたしました」


食事の時間になり、食前酒と先付をお運びする。

湯上りに飲むなら爽やかな柑橘系がいいだろうと、缶酎ハイをグラスにいで持ってきた。アルコール度数も少ないしね

先付は食前酒と合わせてあっさりとしたものだ。


私が魔王様に、マリカがスーさんに配膳する。

スーさんマリカをジッと見てるなぁ。

気持ちはわかるけどやめてあげてよ。柄にもなく緊張しちゃってるじゃないか。と、目でうったえる。

スーさんは名残惜しそうに視線を外した。


前菜の次は椀物だ。

残念ながら漆器がないので陶器でお出しする。


「蓋を取らせていただきますね」


蓋を取ると、ふうわりと出汁の香りが立つ。


「おぉ、いい匂いだな」

「ほぉ…」


中には鳥のつくねと季節の野菜が見栄えよく盛りつけてある。

柚子っぽい黄色が綺麗だし、香りもよいと思います!


今度はユーリンがスーさんの配膳をする。

またもやスーさん、ユーリンをじっと見る。

以下略…。


食前酒の次はビールをお出しする。これもグラスに注いで持ってきた。


「さっきの酒もよかったが、これもよいな」

「うむ。苦みがよい」


お気にいってもらえたようで、よかったよかった。


次はお造りといきたいところだけど、この世界なのかこの時代なのか、お魚の生食文化はなかった。

というか、生食できる鮮度のいいお魚がない。この町は海から遠いらしい。


という訳で、鶏むね肉で作った鳥ハムを生野菜と一緒にお出しする。

生ではないけど冷めているし、カルパッチョ風に。


「これも綺麗だな」


スーさんの関心する声。

そしてもちろん三人目のシリンの事もガン見している。以下略。


次は焼き物になる。卓上での陶板とうばん焼きだ♪


陶器で出来た直火にかけられる皿は特注で、今のところうちにしかない。

毎度発明ギルドに申請してあるから、そのうち広まると思うけど。


焼くお肉はめちゃくちゃ美味しいよ!

これはナルセが獲ってきてくれたもので、調理しやすく解体ずみだったからどんな動物かわからないけど、味としては豚肉っぽかった。

それを分厚く切って、シンプルに塩コショウだけで味付けしてある。


「おぉ!卓上で調理とは!面白いな」

「美味そうな匂いだ」


美味しいですよ!

これ、試食した時はみんな絶句。しばらく恍惚としていた程だったんですから!


それに、目の前で焼かれたものを熱々のまま食べられるって贅沢ですよね♪

ちなみに固形燃料的なアレは火の魔獣さん(炎にしか見えない)ね。


お次の炊き合わせは旬の野菜であっさりと。

焼き物が脂ののったジューシー豚だったからね。


ついでに飲み物もビールから日本酒に変える。

朝晩は肌寒くなってきたといっても、かんにするほど寒くない。冷や(じょうおん)でお出しする。

この酒器も特注だ。片口とぐい飲みのセット。

希望通りの出来に、とても気に入っている♪


「この酒もなかなかよいな。料理に合う。料理に合わせて酒も変えているのか?」

「はい。私がいいと思う相性でですけど。先ほどのビールがよろしかったらお持ちしますよ。あれは何にでも合います」

「いや、これでよい」


あら、魔王様もよろしいようで。よかった♪


次の台物は一人用土鍋で、すき焼き風にしてみた。この土鍋も特注だ。


そしてこのお肉もナルセが獲ってきてくれたものね。豚と同じく解体ずみの物を持ってきてくれたから、これもどんな動物かはわからなかったけど、味は牛っぽかった。なのですき焼きにしてみた。


この町で手に入る、元の世界で食べていたおなじみの野菜に近いもので作れたよ!

私的にはまぁまぁの出来♪


このすき焼きも、試食した時はやっぱりみんな絶句、からの恍惚。(笑)

そしてもちろん固形燃料係は火の魔獣さんね。


「これも卓上で火を入れるのか。いい匂いだな」

「はい。全体に火が通ったら、お好みで溶いた卵に絡めて召し上がってみてください」


魔王様は手酌でグイグイお酒を飲んでいる。

日本酒、お気に召していただけましたか♪


あとは茶碗蒸しをお出しする。

茶碗蒸しは好物で、元の世界でもたまに作っていた。蒸し器がなくてもわりと作れるもんなんだよ。


「コハル、まだあるのか!」

「もうこれで後はご飯になります。お腹がいっぱいのようでしたら、しばらく間をあけますから、召し上がれるようになったらお呼びください」


この後はご飯とお味噌汁香の物で終わりだ。

まだいけるようなら果物もお出しするんだけど…。


私個人としては、夕食をたらふく食べて飲んだ後に、もう果物は入らない。

この辺はお客様のお腹具合と相談してもらおう。


と…。

私が食べた事のある旅館の料理ってこんな感じだったんだけど。


なんせ日本の旅館はたくさんお料理がでてくる!

覚えきれなくて、なんとなく思い出したものを献立にしたんだけど…。

スーさんと魔王様、満足してもらえたかな?




「コハル、どれも全部美味かった。初めて食べるものばかりだから珍しいのもよい。この味なら上手くやっていけるだろう。四百年、人間界に住んでいたわたしが言うのだ、自信をもっていいぞ」

「ありがとうございます!そう言っていただけると安心できます!」


食器を下げに来た私を呼び止めてスーさんが言った。

オーナーにお墨付きをいただけて安心だ。


「子供達もだいぶしっかりしたな。たった半年くらいでずいぶん成長したように見える」

「子供達にはいつも助けられてます。スーさんのお仕込みがよかったようで手もかかりませんし」


スーさんは母のような顔をして嬉しそうに笑った。


「ほかの子供達も見てみたい。明日の朝見る事にしよう。朝食も楽しみにしている」

「おまかせください! ……では、おやすみなさいませ」


よかった。喜んでもらえているようでまずまずだ。

なんとか初日は乗り越えたぞ。


私はホッとして夜空を見上げた。

空には大きなお月さま。明日も晴れそうだ。


明日も朝ご飯からがんばるぞ!




翌朝。今日も張り切っていってみよー!


朝ご飯はいっぺんにお出しする。

熱々の炊き立てご飯に、熱々のお味噌汁。


お魚は自前の鮭の塩焼きにした。ボーナス後だったからちょっと奮発していい鮭を買っていたのだ。

役に立った♪


それと厚焼き玉子と、青菜のお浸し、煮物の小鉢もつけて。おっと浅漬けもわすれちゃいけない!

ザ・日本の朝ご飯だよ。


これ、食べた事のないスーさんと魔王様大丈夫かな?

昨日の和食を美味しいって食べてくれたから大丈夫と思うんだけど…。

子供達もサイードも、クバードたちも美味しいって食べてたし。


なんて、心配はいらなかったわ。

スーさんは大満足で、たぶん魔王様も、悪くはなかったくらいは思っていただけたと思う。

ペロリと完食だったしね!やったね♪


食後のお茶をお出しする。


「さっき仕事に向かう子供たちを見た。あいつらもずいぶんしっかりしたように見えた。コハル、感謝する」

「感謝するのはこっちですよ!何から何までお世話になって。私、スーさんがいなかったらどうなっていたかわかりません。本当にありがとうございます」


ちなみにこういう話をする時は、ちゃんと私一人の時ね。


「エラムも見てみたいが…。王都か」

「長期のお休みの時にエラムが帰ってきたらお声がけします!」

「それは嬉しい。頼む」


スーさんは、エラムを除く子供たち全員を見て安心したようだ。


母だなぁとホッコリする。

あ、ここにいた姿はおばあちゃんだったか。

まぁどっちにしても母性だよね。


そうして、午前中をゆっくり過ごして、お二人はお昼前にお帰りになった。


「よい宿だった。また来よう」


魔王様からもお褒めのお言葉をいただいたよ!

うわ~!これ励みになるわ!!

スーさんからもたくさん褒められたしね!


「「ありがとうございました! またのお越しを心からお待ちしております」」


深々と頭を下げて、スタッフ全員でお二人をお見送りした。




「お疲れ様!最初のお客様に喜んでもらえたね!これからも初心を忘れず頑張っていこう!」

「「はい!!」」


こうして初仕事はまずまずの手ごたえを感じて終わった。スーさんは身内だけどね。

でもまぁ、順調な滑り出しになったんじゃないだろうか。ホッとしたよぉ。




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