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翌朝はがんばって早起きした。慣れない台所だからね!
見習いがどんな仕事かわからないけど、育ち盛りの子供たちに朝ご飯を食べさせないで行かせられない。お弁当も作らなきゃだし。
竈の使い方は昨日教わって練習した。
火加減はちょっとあやしいけど、だんだんに慣れていくでしょ。
ご飯を炊いて、鮭の切り身と玉子を焼く。
お弁当はおにぎりで、居残り組もお昼はおにぎりにしちゃおう。
海苔も買っておいてよかった~!
私はおにぎりが大好きなのだ♪
ちなみに、普段はご飯を土鍋で炊いていたので、ここでも何とかなるだろうとチャレンジしてみた。
竈に鉄鍋だけど!
炊き立てご飯は(ギリOKの炊きあがり!)熱くて握れない。
広げて冷ましていると、ゾロゾロと子供たちが起きてきた。
朝ご飯は簡単にチーズトーストにする。
ヨーグルトと、フルーツと野菜の100%ミックスジュースもキャリーケースから出す。
「顔を洗ったら席について!仕事に行くのはみんな時間が違うの?出る子からどんどん食べちゃってね!
ユーリン、ジュースをついでくれる?シリンはヨーグルトをお願い!」
「コハルさん、ローラもお手伝いする!」
「ありがとう!ローラはお皿を運べる?パンが熱いから気をつけてね!数があるからエラムもお願い~!」
慌ただしく食事を始めた上四人は大騒ぎになった。
「すっごい美味い!目が覚めた!!」
「初めて食べるけど何これ美味しい!!」
「朝から濃厚ね~!やる気になるわ!」
「美味い」
そんなに喜んでくれて嬉しいわ。
不慣れな台所に不慣れな量。慣れるまでこんな感じの簡単なものになりそうだけど。
「もうちょっと台所に慣れたら、もっとちゃんとしたものも作れるからね~!」
せっせとおにぎりを作りながら声をかける。
「全然!これで十分だよ!」
「私毎日これが食べたいわ!」
「私も食べたい。お腹すいた」
「ローラも食べたい!」
「お手伝いありがとう!食べられるようになった子から食べちゃいなさい!」
声が飛び交い大騒ぎだ。
誰が何を言ってるのやらわからない!
とりあえず四人分のおにぎりを作り終わってラップにくるむ。
これ、大丈夫かな~。この世界にラップってあるのかな。でも他におにぎりをくるむものがないもんね。布に直接くるむ訳にいかないし。
「はい、お弁当!私の国のお弁当の定番なの。この透明な紙を(といえばわかりやすいかな?)とって、中身だけ食べるんだよ。透明な紙は持って帰ってきてね!」
ラップにくるんだおにぎりを見せてから、ハンカチのような布に包んでキュッと縛る。
うん。見慣れたおにぎり弁当になった。
「その黒いの食べ物なの?」(海苔の事ね!)
「そうだよ!私は大好物なんだけど、今日食べて苦手だったら言ってね。明日は変えるから」
「コハルさんの作ってくれたものなら美味しいって!」
「うん、そうだよね」
あら。ずいぶん信頼してくれてるのね。嬉しいじゃないの♪
まあ今のところ食べ物だけかもだけど。
四人はおにぎり弁当を持って、順々に「いってきま~す!」と出て行った。
「はぁ~…。さて、私たちはゆっくりご飯食べようか」
やっと席に着くと、ユーリンがジュースを、シリンがヨーグルトを持ってきてくれた。ありがと。
パンは自分で持ってきたよ。
「コハルさん、さっきのあの黒いの、私にも教えて!」
「そうだね。じゃあ自分の分は自分で作ってみようか?」
わーい!と歓声が上がる。
喜ぶ子供たちの後ろが目に入った。
台所は戦場の後だ…。
私はそっと目をそらした。
とりあえず、ゆっくり朝ご飯食べよ。
ゆっくりご飯を食べたらみんなで後片付け。
スーさんの教えがよかったのか、みんな文句も言わず共同作業はスムーズだ。
朝ご飯の後は、最初に洗濯をしよう。乾かす時間があるからね!
それぞれ家事分担があるらしいけど、今日はみんな一緒にやってもらう。
この世界の家事を教えてもらわないとならない。
台所の勝手口(って、こっちでも言うんだろうか?)から外に出ると井戸がある。
井戸には大きな木の桶が(これ、たらいっていうんだよね)立てかけてあって、それをローラが地面に置いて、エラムが水を汲みだした。
ユーリンとシリンが汚れ物を持って来る。
基本洗濯は毎日はしないらしい。汚れたらするんだって。そもそも着る服がそれほど多くない。
え!マジか!現代日本に暮らしていた私としては、毎日同じ服を着るのは厳しいよ…。
清潔に暮らしたいしさ。
これは最優先で何とかしよう。
たらいに水を汲み終えたら汚れ物を投入。
そこにローラが何やら灰色のものを入れようとした。
「ちょっとまったー!ローラ、それ何?」
「灰だよ?」
ローラがビックリしながらも答えてくれた。
灰かぁ~。そういえば何かで読んだか時代劇で見たか、昔の石鹸やら洗剤やらは灰とか糠とかって、おぼろな記憶がある…。
現代でも、お掃除時に重曹を使うとか生活の知恵的なものもあるしね。
でもね!それでも汚れは落ちるのかもしれないけど、小春さんは、たぶんも~っとよく落ちる洗剤を持っているのだ♪
柔軟剤なんてものもあるのだよ♪
「ちょっとまってて」と、私はキャリーケースの中から洗剤と柔軟剤を持ってくる。
「これは私の国の洗濯洗剤と、服を柔らかくする液体だよ。今日はこっちを使ってみよう」
いったん汚れ物を取り出して洗剤を入れる。
水によく溶かしたら汚れ物を戻してごしごし始める。
「わあ!いい匂い!何これ?!」
「汚れがよく落ちるね!何で?」
「泡がすごいよ!おもしろ~い!」
子供たちはキャッキャと楽しそうだ。
エラムがもうひとつのたらいに水を汲み始める。
あ、ゆすぎですね。
たらいに半分ほど水がたまったら、洗ったものを絞ってそっちでゆすぎだす。
先のたらいに新しい水と洗剤を入れたら、洗いの第二段だ。
ゆすぎの水は三度ほど変えてよくゆすぐ。
「エラム、水を汲むの大変でしょ。変わるよ」
と言ったのはいいけど、たらい一回分汲んだら腕がパンパンになった。
井戸はつるべ式で、水の入った木の桶を引っ張り上げるのは想像以上に重かったよ!
「エラムはすごいね~。さすが男の子だよ。頼もしい」
無言で水汲みを変わってくれたエラムを褒めると
「別に男ならこれくらいできるし」
そっぽを向いてつっけんどうにそう言っていたけど、ちょっと顔が赤かったから照れていたんだと思う。
それから、柔軟剤の匂いにまたみんなひと騒動したけど、初めての洗濯は無事終わった。
張ったロープに綺麗になった洗濯物が干されて風にゆれている。洗剤のCMみたいだ。
達成感はあるけれど、おしゃれ着洗い以外で手洗いした事なんてなかったよ。
これは重労働だ。そりゃ毎日洗濯するのはイヤにもなるわ。
これはほんと早急に何とかしなくちゃ!
それと洗っちゃって今更だけど、この世界にはない洗剤を使った水、流しちゃったけど大丈夫だろか?後から気づいたよ。
生活排水や日本から持って来たもののゴミとか。そういった事も全部考えなくちゃならないな。
さて、お洗濯が終わったら、もうお昼になる頃だ。家電がないと時間がかかる。
お昼ご飯は、朝ご飯の後にみんなで作った鮭と玉子焼きのおにぎりだ。
お弁当組には悪いけど、居残り組はお味噌汁も作っちゃう。簡単にお豆腐のお味噌汁にしてみた。
「美味しい!」
「黒くて不気味と思ったけど食べたらいけるね!美味しいわ!」
「このスープも初めて食べる味だよ。白い柔らかいのも美味しいね」
「おみそ汁っていうんだよ。白いのはお豆腐ね!」
「ローラおみそ汁お代わり~!」
「はいはい」
お米とお味噌、和食は受け入れられたっぽい。
よかったよかった。
お弁当組はどうかな~。
帰ってくるのを待ちますか♪