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一難去ってまた一難。いや、難って訳でもないか。

エラムが旅立って、次の問題が出てきた。


来月、八月で十二歳になるユーリンは、どこかの見習い仕事に就く事になるんだけど、私には伝手がない。

今まではスーさんがどうにかしてくれてたらしい。


う~ん…。

いやね、スーさんに話を聞けばいいのはわかっているけどね…。

可愛い可愛いうちの娘を、孤児だからって理由で傷つけられるとわかっている荒波に出すのが…、はっきりいってすごく嫌だ。


いや、わかっているのよ?世間にもまれるのも必要だって。

いい事ばかりじゃない、人生には嫌な事もそりゃあもうたんまりとあるって、わかってはいるんだけどさ…。


十二歳。

小学生だよ?まだ甘えててもいい年だよね?

そりゃまぁ元の世界ではだけどさ…。


それに、もうずっと心に残っている言葉があって。

それも色々考えちゃう原因になっているんだな…。




―――温泉に入って癒されて、美味い物を食わせてもらって、のんびり過ごす…。ずっとこんな風に過ごしてぇもんだ。


―――贅沢をいうなら…。がむしゃらに働いて、たまにこんな風に過ごせたら…、何もいう事ねぇや。




クバード達の、思わずと言ったように零れた本音。

心の底からっていうのがわかっちゃうような声音。


クバードたちだけじゃない。

過酷な労働や危険な仕事なんか、心身ともに疲れている人なんて、そりゃあもうたくさんいるんだろうと思われる。


お医者もお薬もろくにないようなこの世界。

せめて湯治ができたら、少しでも癒されるんじゃないかな~なんて事を思っちゃったりする…。


温泉…。 有効利用できないかな…。

日帰り温泉とか、温泉お宿とか。

できたら…、どうだろう? なんて考えちゃったりする。

小規模の家族経営なら、ムリなくできるんじゃないだろか?


とりあえず、オーナーのスーさんに相談しようか…。




午後のお勉強の時間、子供たちにはおさらいをさせておいて、裏の源泉にやってきた。


「スーさん、スーさん。聞こえますか?ど~ぞ」

『……おぉ、コハル。今度は何だ?』


相変わらずの艶っぽいいいお声だ。

何となくホッとする


「ちょっと子供たちの事について…。 来月ユーリンが十二歳になるんですよ」

『もうそんな頃か。見習い先の事か?』

「まぁそうといえばそうなんですけど…。スーさんはうちで商売を始めようと思う事をどう思いますか?」

『ん?商売?何を始めるんだ?』

「商売というか…、お宿というか…」


そこで私が思い悩んでいる事や、考えた事を話した。


「ユーリンもシリンもお料理が好きですし上手です。女性が料理人になるのは厳しい世界と思いますが、自分のうちなら自由です。

まずスーさんに相談してからと思って、まだユーリンには話してませんけど、本人の意思を聞いて、やりたいと言ったら…、やってみてもいいでしょうか?」

『なに、わたしの了承などいらぬわ。やりたい事はやってみればいい』

「ありがとうございます! ユーリンと、シリンにも聞いてみますね!結果はまたお知らせします」

『あぁ、楽しみに待っている』


オーナーからのOKがでた。

まぁスーさんが反対するとは思ってなかったけどね!

やってみろと背中を押されるのが踏ん切りになるというか、スイッチになるというか。


とりあえずユーリンとシリンに話してみよう。

その気がないなら見習い先を探せばいいんだしね!




お勉強の休憩時間に(おやつの時間ともいう)さっそく話てみる。

まずは希望を聞いてみよう。

希望通りに就職できるかはわからないけど。


「ユーリンは来月十二歳になるじゃない?上の子たちみたいに見習い仕事に就く歳になるんだけど、ユーリンは何かやりたい事ってあるの?」

「え…」


ユーリンはフォークを置いて、口の中の物も飲みこんで、黙って私を見た。


ちなみに今日のおやつはパウンドケーキね。

パウンド型なんてないから、お鍋で作った丸いパウンドケーキ。

オレンジのジャムを入れて甘酸っぱい仕上がり。

なかなか上出来である♪


「……」


俯いて黙っている。

いつも元気にハキハキものを言うユーリンらしくない。将来の事だし、やっぱり不安なのかな。


あら、シリンとローラまで食べるのを止めているよ。


「私…、私たちみたいなものは、雇ってくれるならどこでもありがたく行かなくっちゃってわかってる。 

やりたい事とか…、選べるとかないよ…」


なんて顔色して、なんて事を言うの!


私は一瞬で心が冷えて、そのまた次の一瞬で燃え上がった。

こんな子供にこんな風に諦めさせてる、そんな世の中くそくらえだわ!


甘ちゃんだろうとダメな大人だろうとかまわない!私は私の思うまま、この子たちに選べる未来を作ってあげると決めた!


「ユーリン、シリンも聞いて。君たちはお料理が好きだよね?」

「「うん…」」


いきなり何の話?と、二人の頭に?マークが並ぶ。


「二人はお料理が上手だし、手際もいいしセンスもある。 

でね、もしも、お料理する事が仕事にできるなら…、どう思う?」

「え…」


二人はキョトン顔だ。

ふふふ。言った言葉が理解できるまでちょっと待ってあげよう。


「やってみたい?」


問いかけに二人は、やってみたいという希望と、そんな事できるのかという諦めの表情になる。


「やってみたいなら小春さんは応援するよ。というか、料理人として雇うよ。まぁしばらくは修業してもらうけどね!」


大丈夫!と、強気に笑う。


「コハルさん…。 雇うって…?」


ユーリン、ちょっと面白そうな顔になってきた。

そうそう、君はそうでなくちゃね!


「上の子たちにも聞いてみないとだけど、いいって言ってくれたら、温泉お宿をやってみたいと思いま~す!」

「「温泉お宿?」」


三人の頭の上には相変わらずの?マーク。


「温泉お宿とは、小春さんがいた国にあった温泉に入れる宿屋だよ」

「温泉!クバードたちが入りに来たみたいな感じ?」


お。シリンは鋭いなぁ。


「そうそう。病気やケガなんかで困ってる人に、うちの温泉に入って元気になってもらいたいなぁって思うんだ。

私のいた国のお宿は世界でも高評価でね、やるなら同じレベルのサービスを目指そうと思う。お料理も接客も最高のものを提供したい。小春さんは厳しく仕込むよ。君たちやる気はあるかぃ?」

「「やる!やりたい!!」」


二人は即答した。


「ローラは来年王都に行く予定だから、それまではお手伝いしてね。自分で働いたお金で王都に行く支度ができるよ!エラムを驚かしてあげよう♪」


ニヤリと提案すると


「うん!」


笑顔で頷いた。


「ところでコハルさん。温泉お宿はわかったけど、それ以外は言葉が難しくてよくわからなかったよ。もう一度わかるように話して」


ユーリンが情けなさそうに言った。

あら、十一歳にはわからなかったか。ごめんよ。




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