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お腹一杯食べたっていうのに、ちょっとして今はマスカットを食べている。
甘い物は別腹っていうけど、みんなよく入るなぁ。といいつつ自分もだけど。
まぁ別腹といっても満腹なわけだし、ガツガツはいかないわ。
お肉で脂っぽかった口の中が、果物でサッパリするよ。
みんな思い思いに草の上に座ったり寝転がったりしている。
日差しはあるけど吹く風は涼しいし、お腹いっぱいだし、眠くなってくるようなのんびりした時間だ。
「何だか別世界だな……」
「平和だな~」
ポツリとカシムが言うと、サリナもほのぼのと答えた。
「こんな風に過ごした事はなかったな」
「俺もねーな。温泉に入って癒されて、美味い物を食わせてもらって、のんびり過ごす…。ずっとこんな風に過ごしてぇもんだ」
「だな!でも世話になりっぱなしって訳にもいかねぇし、稼がない訳にもいかねぇ」
「そりゃそうだ。だけどまぁ、贅沢をいうなら…。
がむしゃらに働いて、たまにこんな風に過ごせたら…、何もいう事ねぇや」
「違いねぇ!」
枯れを通り越して悟りめいた事を言い出したから、つい突っ込んでしまった。
「お嫁さんは?独身の私がいうのもナンだけど、愛ある家庭はいいみたいだよ~?」
全員ちょっと沈黙。
「そりゃあいいとは思うけど…」
「可愛い嫁が美味い物を用意して待っててくれる家…」
「お帰りなさい、お疲れ様。なんて言われてな!」
「おぃ!その顔でそんな事言うな!痛すぎる!」
「うっせーよ!想像くらいいいだろ!」
「空しい想像だ…」
「俺早く恋人作ろう…」
何だか大騒ぎになってしまった。
「まぁ、嫁は置いといて。こんな風に過ごせた事は、何ていうか…、すごくよかったって言いたかったんだ。 コハル、ありがとな」
あぁ、そういうこった。 ありがとな。 うん。ありがてぇな。 ありがとう。
みんな口々にそう言う。
ちょっと赤くなってるのが可愛いけど、そこは突っ込まないでいてあげよう。
「またいつでもおいでよ。がむしゃらに働いたらさ♪」
ニヤッとして言うと、コハルには敵わねーなと笑いが起きた。
荒っぽい職業の、ガタイのいい、どちらかというと強面な男たちがほのぼのしている。
彼らの仕事は、大ケガや、もしかしたら死んでしまうかもしれない厳しいものだろう。
温泉でケガを癒す以外にも、少しでも気が楽になれたのならよかった。
「世話になった。じゃあ…」
「またね!」
「おう!」
「コハルちゃん、この恩はしっかり返すから」
「町を守ってくれてるだけでおつりがくるよ!気をつけてね!」
「まかせとけ!」
「コハルさんありがとう!」
「ナルセは一番大ケガだったんだからムリしちゃダメだよ!」
「はい!」
「クバードとアゼルはまた明日ね」
「すまねぇ、もう少し世話になる」
日が傾いてきた頃、お仕事復帰チームは名残惜しそうに帰って行った。
クバードとアゼルは松葉杖なのに、みんなに遅れもせず行くのがすごいな。
クバードといえば、もう色も腫れもすっかりよくなっているけど、まだ治ってないのかな…?
アゼル一人にしないように付き合うっていう感じなのかな?
まぁその辺はお任せするか。
それにしても……
―――温泉に入って癒されて、美味い物を食わせてもらって、のんびり過ごす…。ずっとこんな風に過ごしてぇもんだ
―――贅沢をいうなら…。がむしゃらに働いて、たまにこんな風に過ごせたら…、何もいう事ねぇや
しみじみ落とされた言葉が、心に残った。
さて!
私たちだけお昼に楽しい思いをしちゃったのは気が引ける。
今夜は上の子たちが喜びそうなものにしてあげよう♪
という訳で
「今夜はハンバーグにしま~す♪」
「ハンバーグ?」
「うん、まぁお肉料理よ。上チームはお昼にお肉を食べられなかったでしょ?だからガッツリ肉!にしようと思ってね」
「そりゃあ喜ぶね!」
「コハルさん、私夜はお肉いいわ。まだお腹に残ってる…」
「私も…」
女子チームが弱々しく言う。
そうだね。うん、小春さんもそうだよ。
「エラムは?夜もお肉食べる?」
「俺もまだ肉が残ってる気がする、けど、ハンバーグも食べてみたい」
おぉ、男の子だねぇ。そうくるか!
「じゃあエラムのは小さく作ってみよう。私たちは胃に優しいものにしようか」
という事で、メインのハンバーグを作り出す。
後はトマトのサラダと、冷奴も夏の定番になりつつあるなぁ。
それといつもの具だくさんお味噌汁。ちゃんと野菜のレパートリーは変えてあるよ!
ご飯も炊きたてだ♪
「「ただいまー」」
「おかえり〜!手洗いうがいしておいで!すぐご飯ができるよ」
と、いつものやりとりをして子供達を井戸にやる。
それじゃあハンバーグを焼きだそうか♪
焼き汁にケチャップとソースをからめるという、元の世界でよく作っていた簡単な味付けにする。
お皿に盛ってからハンバーグにスライスチーズをのせると、テーブルに行くまでにとろけてすっごく美味しそうに見えちゃうところがチーズハンバーグマジックだよね!
「わぁぁ!!」
「美味しそう!!」
そうでしょそうでしょ。
子供はハンバーグ好きだよね~!
「すっごい美味い!!」
「なんて美味しいの!」
食べ始めたら、またひと騒ぎ。
上の子たちがあんまり美味しそうに食べるもんだから
「コハルさん、また作って。今度は私も食べたい!」
と、素麺を食べていた女子チームが言い出したほどだ。
OKOK♪♪
「君たちそんなにがっつかない!よくかんで食べなさい!そうそう、食後はマスカットもあるからね♪」
「はーい!」
「やったー!」
またひと騒ぎ。毎度楽しい食卓だよ。
後からやって来たサイードにも同じ事を言うとは思わなかったけどね!
サイードさんや、君もいい大人なんだし、この子たちと一緒なのはどうかと思うわよ?
なんにしても、上の子たちと下の子たちに差をつけないですんだかな。
こういう不公平って地味に不満になると思う。
食べ物の恨みは恐ろしいっていうしね。
この国は王政と聞いた。
この町だってどこぞの領の管轄下にあるらしい。
ちゃんと調べた訳ではないけど、異世界ものあるあるの設定なら、たぶん不平等な世界だろう。
家の中でくらい、心安らかに楽しく暮らしたいもんね♪
こうして今日も、平和に一日が過ぎていく。




