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翌日。昨日よりも早い時間、上の子たちが仕事に出てすぐくらいにクバードがやって来た。

いくらなんでも早すぎるでしょ!!

 

「松葉杖!コハルに早く見せたくて!教えてくれてありがとう!すげぇ楽なんだよ!

って、こんなに早くすまねぇな。これでも昨日の夕方から我慢してたんだ!」


大興奮である。

クバードってちょっとクールな感じかと思っていたから意外だった。


「そりゃあよかった。お役にたてたなら何より♪」


そんなに喜んでもらえたなら私も嬉しい。

べつに発明したのも作ったのも私じゃないけどね!


「昨日アゼルも連れて行ったんだ。こいつを見てその場で注文してたぜ。アイツの方がひどいから譲ってやってもよかったんだけど、背丈が違うから合わなくてな」


あらま。

クバードだって不便だったでしょうに、そんな風に思うなんて!

兄さん、好感度が上がっちゃうよ!


優しい人は好きだ。こっちまで優しい気持ちになれる。

嬉しくなって笑顔になると、クバードは赤くなった。


「別にいい人って訳じゃねぇ」


あら、考えた事が見えましたかね?


「ところで他のみんなは? クバードは朝ご飯は食べたの?」

「他のヤツらは昨日と同じくらいにくる。俺は、まぁ、待っていられなくてな。 

……ガキみてぇで恥ずかしくなってきた」


と、また赤くなる。


「そんなに喜んでもらえたなら私も嬉しいよ。 

みんなは後から来るのね。じゃあクバード、朝ご飯がまだなら一緒にどう?私たちもこれからなんだ」

「朝飯前だったか! ほんとにすまねぇ!」


子供たちが、恐縮して遠慮するクバードを引き入れる。


「コハルさんは、朝ご飯も美味しいよ。食べないと損だよ」

「そいつは食べない訳にいかねぇな」


エラムがコッソリ言うと、クバードもコッソリ返事をしている。

君たち、なんでひそひそ話をしてるんだぃ?


それからみんなでご飯を食べて、ナルセたちがくるまで家事をする。

クバードには洗濯チームになってもらった。

絞るくらいなら座ったままでできるからね!

ちなみに、洗濯機様を見て驚いていたよ。




今日も昨日と同じに過ごす。

ナルセ達が来たら、クバートも温泉に行ってもらう。

洗濯の途中だと言ったけど、君は元々温泉治療に来てるんだからね!と追いやる。


お昼の鐘がなったら、今日はエラムが呼びに行かなくてもケガ人たちはご飯に降りてきた。


お昼ご飯は昨日に引き続きカレーだ。

昨日のお昼に、夕ご飯もカレーにしようと話していた時の五人の顔ったら!

自分も食べたい!!と訴えていた。

そんなに気に入ったなら明日もカレーにしてあげよう、ってね♪


それと今日はあっさり葉野菜のお味噌汁。

ご飯もしっかり二鍋炊いたよ!


そんなカレー、今日も美味い美味いと大合唱しながら食べている。


すごい食べっぷり…。


もしかしてこの人たち、この一食しか食べてないのかな?

働かなかったら収入もないし、食べられないのかもしれない。


なんて心配していたら、そうではないらしい。

たんに手が止まらない程美味しいんだって!

それならよかった。


「コハルありがとう。ずいぶんよくなってきたから、明後日からは仕事に出ようと思う。明日もう一日世話になっていいか?」

「もう大丈夫なの?しっかりよくなるまで来てくれていいんだよ?」

「いや、いつまでも休んでいられねぇ。身体も鈍るし懐事情もある」


そう言われちゃ、止められないわね。


「じゃあ、明日のお昼はちょっと奮発しちゃおうか♪」


子供たちが、わーい!と声を上げた。

もちろんケガ人チームも、(こんなチームいやだわ!)おぉ!なんて声を上げたり、小さく握り拳を作ったりしている。


「ふふふ。楽しみにしててね♪」


するとアゼルが焦って小さく言った。


「すまないコハル。俺とクバードはもうちょっと世話になっていいか?」

「ケガ人が遠慮しないで! あ、でも…」


懐事情は大丈夫?とは言えなかったけど、アゼルには通じたようで。


「これでも一応Aランクなんだ。こんな時のために少しは蓄えもある。まぁ足がどうにかならねぇと仕事もできねぇってのが本音だ」


アゼルとクバードはいいな~!とか、俺も骨折すればよかった!とか、お仕事復帰組が冗談にならない事を言い出したよ!


そんな中、そういえばとクバードが聞いてきた。


「コハル、今日は午後から何か予定があるか?」


昨日と同じく、子供たちに勉強を教えようと思っていたくらいだ。

特にはないよと答えると


「松葉杖を登録しに、一緒に発明ギルドに行こう」

「発明ギルド?」


って、何だ? 

まったくわかっていない私に、クバードが説明してくれた。


それによると、発明ギルドとは、元の世界の特許関係の組合っぽい。

発明ギルドに登録すれば、松葉杖が広く知れ渡るかな…。


「君たち、午後からお出かけしていいかな?」

「いいよ~!」

「そういえばコハルさんお買い物もしてみたいって言ってたし、ついでに市場も行こうよ」

「市場!いいね!」

「わ~い!決まりね~!」


という訳で、午後は発明ギルドに行く事になった。




「ここが発明ギルドだ」


そう言って、クバードが先に入って行った。

私もすぐ後に続く。


子供たちは広場でナルセと一緒に待っている。

品物の注文の時もお店に連れて行っていいのか迷ったけど、こういった事業所は余計子連れでは行きづらい。

助かったわ。ナルセありがとう。


ギルドに入ると、クバードが受付の女性に要件を伝えてくれる。

私もいい大人なんだけど…。

勝手の違う世界だし、おかしなボロが出ないように頼ってしまおうか。


「この道具が今までなかったか調べてほしい。なかったら鑑定と新規登録を頼む。こっちが発明者だ」

「承ります。ご案内しますので、こちらにどうぞ」

 

結果からいうと、松葉杖は正式に新規の発明品として登録された。


発明者の名前がいるから(本当は私が発明したんじゃないけど!)コハルで登録したけど、特許で発生する利益等の権利は放棄した。

その代り条件をつける。作るのは誰でもいいけれど、売り物にするなら二本で銀貨四枚を上限にしてもらう。一本なら銀貨二枚ね。

これはクバードが作ってもらった金額を参考にした。


ケガをした人って、その日から収入がなくなるかもしれないでしょ?

それなのに悪徳商人なんかに暴利をむさぼられたらますます困っちゃうからね。


私がそう言うと、ギルド職員さんとクバードは唖然としていた。


別にいい人ぶってる訳じゃないよ?お金は大事だ。それはわかっている。

でも私はキャリー様とリュック様のおかげでお金には困ってない。

私が発明したんじゃないし、困ってる人に役立ててほしいと思っただけだ。


それに、もしかしたら突然元の世界に戻るかもしれないしね。

受取人がいなくなったらギルドの人が困るでしょ?

私はなるべく私の痕跡を残したくない。


子供たちは大丈夫だ。

私にもしもの時は、スーさんが何とかしてくれる事になっている。


さぁ、子供たちが待っているよ!

私たちはギルド職員さんに挨拶をして発明ギルドを後にした。


広場に行くと、コハルさ~ん!と子供たちが走ってくる。


「おまたせ~! お買い物に行こうか♪」







◇◆◇◆◇◆




後日、町中で松葉杖を使っている人をチラホラ見かけるようになった。

役に立っているかな~と嬉しく思う。


何年かして、松葉杖は大陸中に広まったと聞いた。


「利益契約をしていれば莫大な金が手に入ったのに…」


それを知ったクバードが心底悔しそうに言った。

そんな事を言われたら、ちょっと惜しい気がしちゃうじゃないか。 


いやいや


「そんな事を言いなさんな。それだけの人に役立ってるなんていい事じゃないか」


ほっこり笑えば、クバードは諦めたように遠い目をした。


「コハルはそういうヤツだもんな」




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