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「薬湯がケガや病気を癒すと言っていたが…、本当にこれ程の効果があるなんて驚いた…」

「私たちは沐浴してるって言ったじゃない?うちはみんな元気だから、私もこういう効果は初めて見たわ」


でもこれだけの効果があるのなら…、セラムたちも入らせてあげたいなぁ…。

 

クバードと目が合うと、彼も同じ事を考えているとわかった。


「うちの子たち全員に聞かないと答えられないけど、頼んでみるわ」

「世話のかけ通ししですまないが、そうしてもらえるとありがたい」


自分のためだけではなく、人のために考えて行動できる。クバードはいい人だ。

そう思ったらそのまま声に出ていた。


「クバードはいい人だねぇ。みんなに慕われてるでしょ?」

「っ!! …そんな事はない」


眉間にしわがよる。

強面に力を入れて言ってるけど、めちゃタレ目だしね。うっすら赤くもなっちゃってるしね、全然怖くないよ!

 

そういえば四つも年下の子だ。

いや、男の子って見た目じゃないけどね!

私はニコニコしてしまった。

クバードはますます赤くなっていった。



「ただいま。桶と椅子運べたみたいだね。

……(誰?)」 ←視線で問う。

「ただいま。家の前の馬車どうしたの? ……どなた?」

 「ただいまー。腹減ったって……、

(誰?)」 ←無言で問う。

 「ただいま!あれ昨日サイ兄が言ってた貸し馬車? あれ?誰?」


子供たちが帰ってきた。

みんな同じ反応をしていて笑ってしまう。


「おかえり、昨日話した冒険者さんだよ。名前はクバード。ほら、ご挨拶して」


みんな一斉にクバードに向かってお礼を言った。

 

「こんにちは。町を守ってくれてありがとう」

「魔獣を倒してくれてありがとう。私たちまだ町の外に出た事ないけど、おかげで安心して暮らせます」

「ありがとう」

「ありがとう。わっ!ほんとだ痛そう!大丈夫?」


子供たちに人見知りはない。

私にも初対面から親しんでくれたしね。


口々にお礼を言われるクバードは、いやとか、仕事だからとか、もごもご言っていた。

きっとお礼を言われ慣れてないんだろうなぁ。ちょっと耳が赤くなってるしね。


「ほら君たち、とりあえず手洗いうがいをしておいで! そしたら相談があるんだ」

 

子供たちは、はーいと井戸に出て行った。

 



戻ってきた上の子たちに、今までの事情を説明する。

ちなみに下の子たちにはすでに了承を得ているよ。


「でね、まだこんなにすごい色をしてて腫れもひどいけど、これでもずいぶんマシになったのよ。そこで相談なんだけど、昨日話した教会にいるケガがひどい人たちも、うちの温泉に入れてあげたいと思ってね…、君たちいいかな?」


上の子たちは即答してくれた。


「私はいいわよ!温泉でケガが早く治るなんてすごいじゃない!」

「俺もいいよ。温泉はコハルさんが作ったんだ、コハルさんがしたいならそうしよう」

「うん、俺もいいよ」

「いいけど…。一緒に入るのはちょっと…」


概ね了承だけど、あぁそうだね。年頃の女の子は気にするところだよね!


「一緒には(一緒の時間帯という意味)入らないよ。 

クバード、上の子たちもいいっていってくれたから来てもらっていいんだけど、昼間だけって事でいいかな?この子たちが帰ってきてからは家族でゆっくり過ごす時間にしたいからさ」

「もちろんだ。おまえたち、受け入れてくれてありがとう。恩に着る」


話しが終わったなら意識は夕食だ。


「クバードもご飯食べていくの?」

「いや、返事がきけたからもう帰る」

「食べていきなよ!コハルさんのご飯は美味しいよ!」

「それは知っている」


その返事にはちょっと笑った。


「もうこんな時間だし食べていきなよ。クバードの分も作っちゃったよ」

「いや、そんなつもりではなかったんだが…」


私たちに押し切られるようにして、クバードも一緒にご飯を食べる事になった。


なんてったって減らない食材がある。

こういっちゃ身も蓋もないけど、懐が痛まないから誘えるんだよね。

キャリー様とリュック様のおかげだわ。

ありがたや。




さて、今夜のメニューは鳥南蛮定食だ♪

下味をつけた鳥胸肉に片栗粉をつけて揚げ焼きにする。からりと揚がったら、揚げている間に作っておいた甘酢タレに漬ける。

なんちゃってタルタルソースも作った。

たっぷりの葉野菜サラダは、今日はドレッシングなし。揚げ物にタルタルだからこっちはサッパリ系にする。

後は具だくさんのお味噌汁と、冷たく食べたいから、冷奴は食べる直前に出そう。

ご飯はユーリンたちが炊いていてくれた。

二人は段取り上手だし、本当に気が利くよ!


初めての甘酢味。子供たちの反応はどうかな~?

あ、クバードもね。


なんてまぁ、心配はしてなかったけどね!

毎度みんな、美味しい美味いと食べている。


食べ始めると、少ししてサイードがやってきた。

サイードは仕事柄時間が読めないし、来るとも約束できない。といいつつほぼ毎日来てるけどね!


という事で、夕食は待たない事になっている。

子供たちは成長期の腹減らしだし、サイードも待たれてたら気になっちゃうからね。


「ただいま~。 っ!!失礼しました。 …コハルさん、どなた?」

「あぁ、昨日話してた冒険者さんのクバード。食べながら説明するから、手洗いうがいしておいでよ」

「うん」


戻ってきたら、サイードとクバードお互いに自己紹介をしてもらって、それからまた、サイードに上の子たちに説明した話を繰り返す。


「そんなに効果があるなんて。俺も疲れがとれるとは思っていたけど、もっとすごかったんだ…」

「だよね~?私も驚いたよ!」


今日あった事をみんなで話しながら楽しく食事をする。

暗いのが嫌だからロウソクをたくさん灯していて(お金ならあるからね!現代人にはあの暗さは耐えられないよ!)明るい部屋で、美味しいご飯を食べながらみんなで過ごすこの時間が大好きだ。


「サイードは毎日ここに?」

「まぁ、元々育った家ですし、こいつらもコハルさんも来いって言ってくれるから甘えちゃいましてね」

「毎日こんな美味い物が食えて、あの薬湯にも入れて、なにより…。 うらやましい」


サイードがニコリとした。


ん? 

一瞬ピリッとした空気が走った気がしたけど…。

穏やか兄さんのサイードはニコニコしているし、タレ目のクバードは美味しそうにご飯を食べているし…、気のせいだったかな?




その後、貸し馬車を返してくれるクバードを見送って、入浴をすませたサイードも帰って行った。


クバードには、明日来られるなら着替えも持ってくるように伝えてもらう。

今日の話では、教会のみんなは明日かあさってから働きに行くって言ってたからね。

働かなければ食べていけないこの世界、懐事情もあるからムリに誘えない。


ナルセ達三人はわからないけど、クバードは、アゼルは(骨折の彼)どうにかして連れてくると言っていた。

ナルセ達も来られたらいいな。


シャンプー類、どうしようかな…。




翌日、いつものように慌ただしく朝ご飯とお弁当を作って上の子たちを見送ったら、ちょっとだけゆっくり朝ご飯を食べる。


今日はお昼の支度があるから、洗濯はエラムとユーリンに任せて、私とシリンが掃除をする。

掃除の前にご飯を炊きだして、大きな鍋に野菜と肉を煮込みだす。

ローラには火の番を頼む。

さっさと掃除を終わらせるぞ~!


掃除も半ば、クバート達がやってきた。

やっぱ朝が早いな。


見るとナルセ達もいた。

来られたんだ!よかったよかった。

傷がふさがったとはいえ、治ったのかどうかもいまいちわからなかったし、だいぶ出血もしてるだろうし、すぐに働き出すのは心配だったんだ。

余計なお世話だけどさ。


「いらっしゃい!アゼル、どうやって来たの?足は大丈夫?」

「時間はかかったけど、まぁなんとかな。コハル、今日は世話になる」

「今日だけじゃないって!三日続けてだ」

「違ぇねえ!すまねぇな。世話になります」

「コハルさんありがとう。お世話になります」


大柄な人たちがなんとも可愛らしく見えるのは、たぶんみんな年下だからだろう。

冒険者という職業柄、荒っぽい人が多いイメージだったけど、勝手な思い込みだったかも。


「じゃあさっそく温泉にいこう♪ こっちだよ。 

エラム~!お願い」


エラムに声をかけて一緒に行く。

服を脱いでの入浴の作法はエラムに頼んである。

さすがに私って訳にいかないからね。


う~ん…。シャンプーとか、どうしようかな…。

もう冷却シートは見せちゃってるしな。

うちに入れたって事はいい人認定されているし…。 まぁいっか。


「誘っておいてお願いとかナンだけど…。クバードに聞いたとは思うけど、うちの温泉とか、これから見せる液体石鹸なんかの事は他で言わないでほしいの。いいかな?」

「おぅ。言うなっていうなら言わねえよ!」

「コハルは命の恩人だ。その人の言う通りにするぜ」

「何を見たって絶対何も言わないよ」

「ありがとう」


スーさんの結界はいい仕事してるね! 

うん。やっぱりいい人たちだ。




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