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「待ててくれたの?ごめんね、遅かった?急いだんだけど」


教会の前で待っていてくれたクバードに駆けよる。


「いや。 本当に戻ってきてくれたんだ……」


クバードは何とも言えない顔をして言った。


え?何で?戻ってくるって言ったじゃん? 

出来ない約束はしないし、わざわざそんな嘘をつく理由がないよ…?


よくわからないけど、時間が少ない。

さっさと動くよ!


クバードに案内してもらって、みんなで水を汲みに行く。

重いから、ユーリンエラム組とシリン私組で一つの桶を持つ。ローラは応援ね☆

クバードも持つと言ったけど却下です!


水を汲んでくると、いったん子供たちにはドアの外で待っててもらう。

水にぬらした手ぬぐいでケガ人の顔と手を拭く。

これで少しはスプラッタ感がなくなったかな。

窓を開けて換気をしたら、子供たちを呼び入れる。




「この透明な紙をはがして、額にのせて。私の国では発熱した時にこれで熱を下げるの。温くなってきたら取り替えてね」

「本当に透明だ…。何だそのスライムみたいなものは…」


興味津々のクバードに説明する。

何時間後とか、時計がないからわからないよね。

ザックリでいいだろう。


「ナルセ、ちょっと冷たいよ」


眠っているナルセに小さく声をかけて冷却シートを額にのせる。

あぁ冷たかったね、ごめんね。 

ナルセはピクッと反応したけど、目覚めはせずそのまま眠り続けている。起こさないでよかった。

 

後の三人にもシートを説明して、渡そうとすると「ナルセにはしてやったのに…」だって!

 

あんたら起きてるし!しかもいい大人じゃん!(いや、年下の可能性は十分あるけど)

でもまぁ…。

少々呆れながらものせてあげる。ケガ人だもんね。さっきまでだいぶ重症だったもんね。


「使い終わった透明な紙とシートは、入れてきたこの入れ物の中に戻して返してね。私の国のものだからこの国にあるかわからないし、騒ぎになったら面倒だし、この事はみんな内緒にしてね」

「確かに見た事がないな。わかった、口外しないと約束する」

「コハルは命の恩人だ。絶対言わないよ」


うんうんと頷くケガ人たち。


「言わないからコハルちゃん、また来てよ」


と言われたのには笑った。


 


「また明日のお昼過ぎに来るね。みんな、痛みが軽くなったからといって痛みの元がなくなった訳じゃないんだから、まだムリしちゃダメよ」

 

ケガをしている人たちみんなの早い回復を願うけど、やっぱりうちの子と変わらない年のナルセが一番気にかかる。

せめて元気になったところを見届けたい。

 

「せっかく救ってもらった命だ、ムリはしないし大事にするよ」 


一人がそう言ったのに、みんな頷く。


「じゃあお大事に」と帰る私たちを、痛みが軽くなった笑顔が見送ってくれた。

  

さて、急いで帰って夕ご飯の支度をしなくては!



 

次の日。連日のお出かけだけど、元々今日は椅子と桶を受け取りに行く日だ。


昨日は待望のお布団も来たし、安眠できた小春さんは元気いっぱいだよ!

子供たちにアラサーの体力を心配されたままじゃあ、保護者としてちょいと情けないもんね!


大荷物を持って移動はできないから、木工師さんのところに行く前にお見舞いに行く。

昨日の時点で何だか大丈夫そうだったから、血を増やすためにお肉の差し入れをしよう。

炭水化物も一緒にとれるようにと肉巻おにぎりにする。

ジダンのところで大好評だったらしいから、やっぱ男は肉!なんだと思う。


という訳で、今日のお弁当は肉巻きおにぎり。居残り組の(といいつつお出かけするけどさ)お昼も肉巻おにぎり。

いっぺんに作っちゃうから時短なのだ♪


午前中に家事を終わらせて、ちょっと早めのお昼を食べたら出発!

お見舞いと、昨日サイードから聞いた、椅子と桶を運ぶための貸し馬車も頼まないとだから、今日も忙しくなりそうだ。




「こんにちは~。調子はどう?」


教会のみんながいる部屋のドアを開けると、骨折している人以外起き上っていた。何だか元気そうだ。


「ナルセ、もう起きて大丈夫なの?」

「コハルさん、助けてくれてありがとう。もう大丈夫だよ」


本当かい!

みんな元気そうに見えるけど…。

この世界の人はこういう作りなのか?

ファンタジー設定はわからん。


「みんなも元気そうに見えるけど、大丈夫なの?」

「何、丈夫さだけが取り柄だからな」


いや、あなたバックリ切り裂かれてたじゃん…。


「冒険者なんてやってたら、このくらいはケガの内に入らねーよ」


いやいや、めっちゃ大ケガでしたからね!!


「俺は足をやっちまってるけど…、こいつがくっつけば大丈夫だ」


くっつくまで結構かかるでしょうが!

全然大丈夫じゃないよ!!


脳内ツッコミをしながら、この人たちのお気楽さに呆れるやら感心するやら…。


「ところで…、なんだかすごく美味そうな匂いがしてるんだが…」


クバードが、スンスン鼻を鳴らしながら言う。 

あぁ、そうそう。


「お見舞いね。みんなだいぶ出血してたでしょ?肉巻おにぎりを作ってきたんだけど、食べられるかな」


ニクマキオニギリ?と皆さん頭の上に?マークが並んでいる。


この光景、日常茶飯事になりつつあるなぁ。


説明するより見てもらったほうが早いと、風呂敷代わりの包みを解いて入れ物のふたを開ければ、食欲をそそる匂いが部屋中に充満した。


「「おおぉぉぉ!!!」」


何というか…、魂の雄叫びのようだ!野太い声に驚いたよ!

私は驚いたけど、子供たちは引きつりながらも、当然!という顔をして


「とっても美味しいんだから!」

「コハルさんのご飯はすごく美味いよ!」


ドヤ顔で自慢する。

君たち、嬉しいけど…、小春さんちょっと照れるわ。


「食べられるようならどうぞ」


声をかけると、我先にと手が出る。

そして美味い美味いと手が止まらない。

よかった。これだけ食欲があるならきっと大丈夫だろう。

一番気がかりだったナルセも大丈夫そうだ。


回復力抜群のファンタジー設定に安心して、次の予定に向かう事にする。

食べ終わった入れ物を回収しながら聞いてみた。


「誰か、貸し馬車屋さんの場所って知ってる?」

「知っているが、貸し馬車で何をするんだ?」

「これから発注していた椅子と桶を取りに行くんだけど、十個ずつあるから私たちだけでは一度に運べないでしょ?貸し馬車を使えばムリなく運べると言われたのよ」

「そんなに多い特注を? 貸し馬車屋の場所は知っているから案内しよう。だが、御者はどうする?できそうには見えないが」


御者? ……って、馬を操る人だよね。

私は子供たちを見る。

子供たちはいっせいに首を振った。だよね。


「貸し馬車屋さんって御者さんも頼める?」

「あぁ、頼めるが…。俺がやろうか?」

「え!だってクバード足は?」

「足は使わないから大丈夫だ。馬車に乗ったほうが歩くより負担がない。たいした礼にはならんがやらせてくれ」


なんて言い合っていると


「ちょっと待ったー!礼というなら俺がやる!」

「いや、俺がやる!」

「くそー、足が折れてなかったら俺だって!!」

「礼なら俺もしたい!」


謎の御者の争奪戦になってきた!

何でこんなに元気なんだ!回復したとはいえ昨日まで重症だった筈なのに!


まぁ…。元気なのはいい事だけどね。




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