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良くいえば目標に向かって脇目もふらないタイプ、というかまぁ、ストレートにいってせっかちで大雑把な私は、知らないうちに痣や擦り傷を作っている事がよくある。
小さいものなら構わないんだけど、ギョッとするような濃い痣や、流血する程の傷を負っている時もあって、大人の女性としてどうよ?と肌色の絆創膏と消毒液は常に持ち歩いているのだ。
「私の持っている消毒液を使ってみてもいいですか?」
「…あぁかまわない」
小さくそう聞くと、クバードは諦めがまざった悲痛な声で了承してくれた。
男の子の名前を聞いて、そっと話しかける。
「ナルセ、消毒液をかけてもいいかな?少しでも楽になれたらって思うの」
ナルセは熱で潤んだ目でクバードを見た。
クバードが頷くのを見ると、私に目を戻してかすかに頷いた。
「ごめんね。ちょっとしみるかも」
奇跡起これ!!
私は祈りながら、大きな傷に消毒液をかけた。
「わっ!」
驚いた!
クバードも大きく身体が跳ねたよ!
消毒液をかけた傷には、猛烈に泡が立っている。
もちろん泡が立つのは知っていたけど、私の知っている泡立ち方の何倍にもなってるよ!
何なのこの泡!どうなっちゃってるの??これ、大丈夫なの?!
三度のパニックだ。
少したって、泡が消えると…。
化膿していた傷は、すっかり綺麗な新しいピンクの肌になっていた!!
「ナルセ…。 お前…、どうなんだ?」
「痛く…、ない? 苦しくない…。 え?
……え?」
奇跡きたーーー!!!
やったやった!! 異世界産すごーい!!
こういうのなら、私はどんどん受け入れるよ!!
「ごめんね、ちょっと触るよ」
断りは入れたけど、返事を聞く前に触っちゃったからか、ナルセはビクリと身体を震わせた。
「あぁまだ熱はあるね。痛みが軽くなったからってムリしちゃダメよ」
ホッとして笑顔で言うと、ナルセもふにゃりと笑った。
「ありがとう…」
そう言うと、いきなり、 寝た?!
気絶か?!どうした?!どうなった?!
「やっと眠れたんだろう。今まで眠れているとはいえない状態だったからな。あの泡には驚いたけど、ありがとう。こいつに代わって礼を言う。
ところでそれは高回復薬か?すまない、高価なものを使わせてしまった」
パニクッてあわあわしている私に、クバードさんが言う。
「眠ったのね! ……よかった。よかった!
ビックリしたよ~!!」
さっきとはまた別の意味でホッとした。
「あぁ、これは回復薬ではないので回復はしないですよ?ただの消毒液です」
「あんな傷が治ったのに、ただの消毒液って訳がないだろう?」
いえ消毒液です。いや回復薬だろう?と言い合いながら、別の重症者を見て回る。
後の三人も大きな傷を負っていて、骨折もしてそうな人もいた。
傷にはナルセと同じく消毒液をかける。
かけると同じくビックリする程泡が立って、泡が消えると傷が治っていた。
骨折?には効かなかったけど、痛みは半分になったと三人からお礼を言われた。
異世界産すごいな。
私はしみじみ消毒液を見た。
「では痛みを軽くする薬と、他に何か効きそうなものがあったら持ってきます!」
部屋を出て子供たちに事情を説明してから、クバードさんにそう声をかける。
「また来るのはいいけど、コハルさん、カゴはどうするの?」
「忘れてた!シリンありがとう!先にカゴを取りに行って、置いてからまた来ることになっちゃうな。君たちいい?」
「「いいよ!」」
すっかり忘れてたよ!
私は子供達に笑顔でお礼を言って、クバードさんに向き直る。
「クバードさん、ちょっと遅くなります」
「あぁ、それはかまわないが…。やっぱり俺が一緒に行こう。そうすればあんたたちがまた来る手間が省ける。
や、すまない。もらう立場で偉そうに」
「ダメですよ!クバードさんだって足を痛めてるんですから!ここで待っててください」
クバードさんは私をジッと見て、深みのあるハスキーボイスで言った。
「クバードでいい。コハル」
グッ! 好みの男性の不意打ち!!
いや、私はここに恋愛をしに来たんじゃない。
子供たちもいるし、浮ついてちゃダメだ!
私は緩んだ気持ちを蹴とばした。
ついでに、丁寧語で話さなくてもいいと言われ、流れで年齢の話になった。
クバードは二十八歳だって。
同じくらいか、少し上かと思っていたら四つ下だったよ。
クバードも私が四つ上と知ると驚いていた。私とは真逆の意味で。
「じゃあクバード。なるべく早く戻るから!」
「すまない。待っている」
年下なら特に遠慮はしない。
私たちはちょっと急ぎ足でカゴ職人さんのお店に向かった。
「こんにちは~。お願いしていたカゴを取りに来ました」
「はーい。待ってましたよ」
教会からカゴ職人さんのお店は近かった。
元々近くまで来ていたしね。
おかみさんに愛想よく迎え入れられると、作業中だったご主人はわざわざ立って、出来上がっているカゴを渡してくれた。
「お前さんの言っていたように作ってみたが、気に入らない所があったら言ってくれ」
持ったカゴは軽くて丈夫そうだった。
見た目も、記憶にある温泉や銭湯にある物と同じような感じだ。
「ありがとうございます!とても素敵です!」
「そりゃあよかった」
私が笑顔になってお礼を言うと、ご主人も満足そうに笑った。
後金を払って、みんなでカゴを二つずつ持つ。
このくらいの軽さならいけそうだ。
「またご用の時はぜひどうぞ」
「はい!その時はお願いします」
おかみさんに見送られて、いったん家に帰る。
「ローラ、重くて大変になったら持つから言ってね」
「ありがとう!まだ大丈夫!」
「コハルさん、ローラの分はおれが持つよ。コハルさんだって大変になるよ」
十歳の子に心配されてる…。
もっと体力をつけようと決意した。
家に着くと、子供たちにはおやつを食べさせる。
エネルギー補給だ。
その間に私は持っていくものを用意する。
痛み止めと、一緒に飲む胃薬と、冷却シート。
あまりあっちの世界の物は見せないほうがいいと思うけど、冷却シートはそのままじゃないとダメだよね。
とりあえずカラフルなイラストの箱からは出して、家にある適当な物に入れ替える。
痛み止めと胃薬は一粒ずつシートから外して小さい入れ物に入れる。
包帯はいるかな?あぁもう傷はふさがっているからなくて大丈夫か。
こっちの世界にあるかわからない綺麗な色のタオルはやめて、元々家にあった古い手ぬぐいを(タオル地じゃないから)持つ。
これなら血で汚れてもそのまま捨てちゃっていいし。
食べ物は…。こっちの世界でも変じゃない物はパンくらいしかないな。
血が足りなくなってるならお肉か?お肉は調理しなければならない。
時間的にそんな余裕はないし、普通は胃に負担のない軽い物から食べていくよね?
うちの夕ご飯を作る時間もあるし、今回はパンだけ持っていく事にする。あ、ハムがあったか。
「コハルさん、食べ終わったよ!」
「私たちもう行けるよ」
「ちょうどよかった。こっちの支度も終わったよ」
エネルギー補給した子供たちは元気いっぱいだ。
私たちは、また町まで歩いて行った。




