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賑やかな夕食の最中に、 そういえばとアイシャがお布団の値段を言ってきた。

銀貨四枚ね。OKOK♪♪


「それでお願いしますって伝えてくれる?」

「わかった。そしたら一日もあれば出来るそうだから、明後日に取りに来られる?」


私はちょっと考える。


「明後日かぁ。カゴを取りに行く事になっているから行くのはいいんだけど…。カゴ十個とお布団は持てないな。どうしよう…」

「時間は少し遅くなるけど、俺の仕事終わりでよかったら馬車で運びますよ」


「美味しい美味しい」と言いながら、ちょっと残念スパゲティを食べていたサイードが顔を上げて言った。


「わぁ助かる!ありがとうサイード!じゃあ、昼間の内に私たちはカゴを取りに行くから、サイードとアイシャはお布団を持ってきてくれる?」

「わかったわ。サイ兄お店で待ってるね!」

「OK。なるべく早く終わらせていくよ」


やった~!

これで明後日からお布団で眠れる!!

カゴもくるし、早く椅子と桶もできないかな~!


と、それも嬉しいけど、同じくらい嬉しい事があったのだ!スーさんに頼んでいたトイレね!


夕食後、子供たちに水洗トイレを見せると、お風呂の時と同じに驚いていたけど、よくわからないまま受け入れてくれた。

使い方と衛生的な事を教えると喜んでいたよ。

特に女子が!だよね~!


今日はやっと字を教えられたし♪

子供たちは好奇心旺盛で覚えも早い!

いや~、うちの子たち優秀♪と、しっかり親バカになっている。


とまぁ、充実した日々を送れてますわ♪ 




翌々日、今日はカゴを受け取りに行く日。

午前中に家事を終わらせて、お昼ご飯を食べたら出発だ。


この何日かで通い慣れた道をみんなで歩く。

カゴは十個あるから、一人二個ずつ持つ事になる。

軽かったらいいなぁ。軽くても三十分以上持って歩くのは大変かもしれない。

なんて事を話しながら歩いていると


「あっ…」


ふいに大きな声が聞こえて、反射的にそちらを見る。

そこには大きな声に見合う大柄な男の人がいた。


うわ~。

思わずジッと見てしまう。


同じ年くらいかな?

身長は百八十センチ以上…、もしかしたら百九十センチ近くあるかもしれない。

服の上からでもわかるがっしりとした体格。

黒っぽい濃いグレーの髪はさっぱりと短く、瞳の色は濃いグリーン。

めっちゃタレ目なのに強面というギャップにグッとくる。けっこう好みかも。


何故かジッと見つめ合う事、数秒…。


「……あの時はありがとう」


深みのあるハスキーボイスでそう言われたけど…。

はて?どなたでしたでしょう??


私が頭の上に?マークを並べていると、エラムが袖を引いた。


「この前の冒険者さんだよ」


え!あの時の血だらけの方々の誰か?

私は必死に記憶をたどる。

そういえば職業柄なのか、大柄な人が多い中で、男の子を抱えていた人がひときわ大きかったような…。あの人かな?


しかし何故ありがとう? 

お礼を言うのはこっちじゃない?


「いいえ?お礼を言うのはこちらでしたよ?」


訳が分からず疑問形な返事になってしまった。


男の人はちょっとはにかみながら(大柄強面のはにかみ!)


「あの時、あんたがあぁ声をかけてくれたから、あの場の雰囲気が変わったんだ。言われている事はその通りだったけど、あんたの一言で俺たちは救われたから。礼を言わせてほしい」


あぁ…。そうか、うん。

確かにあの時の雰囲気は悪かったね!

温和な私が(温和なんですって!)ブチ切れる程には。


「いいえ。こちら側の当然のお礼ですよ。

そういえばみなさんだいぶ傷ついていたように見えましたが大丈夫ですか?あの時支えていた男の子はどうなりました?」


よく見ると、冒険者さんは大きなガタイに合わない小さな杖をついている。……折れそうだな。

右足首というか、足の甲というか、何かもうその辺が青黒く腫れ上がってるし!

靴を履いてないから丸見えだよ。まぁこれじゃ履けないだろうけど。


私の痛々しい視線に気づいた彼は、恥ずかしそうに言った。


「ドジを踏んじまって」


それから少し暗い目の色になった。


「俺が抱えてたヤツは…。あまりよくない…」


え! 

……それって、死んじゃいそうって事?


私は血だらけだったあの人たちを思い浮かべる。

血の赤と泥汚れでどんな症状だったかまったくわからなかったけど、あの子がそんな重症だったなんて!


「お医者さんは何て?そんなに重症なんですか?」

「医者? ……あぁ薬師の事か。薬師は町長のところの騎士にかかりきりだ。俺たちにはギルドで買える薬くらいだな」


その薬は効くんだろか?

薬師というのは、私の知っているファンタジー小説に出てくる薬師のイメージで合っているんだろか?

あれ?薬師ってお医者ポジだったっけ?

薬師の薬とギルドで買える薬は違うの?


今まで経験した事のない人の死の近さに、脳内がすさまじくパニくっている。


「何か…、私にできるお手伝いはありますか?」


思わず、震える声でそう言っていた。


「コハルさん…」


繋いできたローラの手も震えている。


「ローラたちみんな一緒にいるから大丈夫だよ!」


元気づけるようなローラの声で気づく。

あぁ、震えているのは私の方だったのか。

 

……しっかりしろ!

私はこの子たちの保護者なんだから!!


「大丈夫だよ。ごめんね、小春さんこういうの初めてでビックリしちゃって。 

君たち、もしも何かお手伝いができる事があったら、一緒にしてくれるかな?」


「いいよ!」

「もちろん!コハルさんがするなら一緒にするよ!」

「ありがとう!」


私たちは、何とも言えない顔をしている冒険者さんを見た。


「病院ならその場でできる事はないと思いますが、洗濯物とか…」

「ビョウイン? …って、何だ?」


え! ……病院ないの?

私は子供たちを見る。みんな頭の上に?マークを並べている。

マジか!病院ないのか!! 

じゃあケガや病気になった時って、みんなどうしてるの?!


「みなさん、今はどちらに?」

「教会の一部屋に寝かせてもらっている」


それってどんな感じなの?!

もうもう!!日本の常識では想像もできないよ!!




「何ができるかわかりませんが…、必要な物があったら差しあげられるかもしれません。連れて行ってもらえますか?」


とりあえずその場を見させてもらおう。

清潔なタオルならいくらでもあげられるし、薬は…、痛み止めと冷却シートくらいしか使えないかもだけど。


「あぁ…、そりゃかまわないけど…。女子供が見るもんじゃないぜ」

「お気遣いありがとうございます。では子供たちは部屋の外で待たせます」


冒険者さんは器用に小さい杖を使いながら歩き出した。

何でこんな体格に合わない杖を使っているんだろう?松葉杖はどうした?


「冒険者さん…。あ、失礼しました。私は小春と言います。あなたは?」

「クバードだ」

 

子供たちの紹介もしていると、教会にはすぐについた。

クバードさんはちょうどそこに向かっているところだったらしい。


「ここには動けないヤツらがいる。あんたには厳しいぜ。覚悟しろよ」

「…はい」


子供たちにはドアの前で待っていてもらう。


ドアを開けると、まず初めに血の匂い。込み上げる物があってとっさに口を押えた。

着替えもさせられていない服は乾いた血の色。

床にそのまま寝かされている冒険者さんは四人いた。

 

ベッドがあったとしても木の床と変わらない硬さだけどさ。

何というか…!これでいの?!激しく戸惑う。


「クバ…」

 

うっすらと目を開けた男の子が掠れた声を出した。あの時の子か!


「水だ。飲めるか?」


男の子の腿には大きく裂けた切り傷が見える。化膿していて痛々しい。たぶんこれのせいで発熱もしているんだろう。


「あの…、薬って?」

「血止めと、低回復薬を飲ませている」

 

回復薬って、ファンタジーによく登場するポーションってやつだろうか?

飲ませているのにこれなの?効かないの?低だから効きが悪いの?

抗生物質なんてないよね?化膿止めみたいなものとかもないの? 

またもや軽くパニくる。


……もしかしたら、こういう時のお約束。


異世界産だ。奇跡が起きるかもしれない! 

いや、起これ!!

私は持っていたトートバックから携帯用消毒液を出した。




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