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「ところでスーさんとは、わたしの事か?」


あらま、脳内で呼んでいたまま口にしていたよ。


「すみません勝手に…」

「いや、なかなかいい愛称だ。わたしの事はスーさんでかまわぬ。そういえばそなたの名前を聞いておらなかったな」


気に入ったようでよかったよかった。

魔王妃様にスーさんなんて気安すぎだもんね。

うっかりポロリ焦ったわ!


「小春といいます」

「コハルか。コハル、そなた行くあてはあるのか?転移者では知人もおらぬだろう?」

「行くあて、ないですね~。もちろん知人もいませんよ!」


ちょっと自棄っぽく答えると、スーさんはいい事を思いついたというように顔が輝いた。

美人がさらに眩しいわ!


「ならばうちにくればよい。そなた成人はしているようだし、わたしがそなたを雇えば職にもありつけるだろう?」

「……職って、もしかして?」

「コハルは察しがいいな。子育てだ」


やっぱりー!

この展開ではそうなりますよねー!


「いやいやいや、私日本に帰りますから!すでに就職してますから!ここで職に就くわけにはいきませんよ!」

「帰り方がわかるのか?わたしの知る限りでは帰れた者はおらぬが…」

「え!私の他にも転移者っているんですか?で、その人たち帰れてなくて今もいるんですか?」

「たしか…、二百年ほど前と百年ほど前に一人ずつ現れた。とっくに亡き者になっておるわ。この三百年ほどは転移者の当たり年だな」


何それ!百年にひとりの割合で転移ってあるの?!いったいどういう事よ!

というか、そのお二人ってこの世界に骨を埋めたって事?

なにそれ。なんでよ?なんでこんな事になってるの?!帰れないの?


私はいきなり盛大に泣き出した。

もうもう!! 脳内大パニックで、自分でもどうしようもなかった。


「泣くなコハル。いい大人がみっともない」


と言いつつ、スーさんはふんわりと抱きしめて背中をなでてくれている。


「成人しているように見えたが、まだだったか?単に老け顔か?」

「失礼な!しっかり成人している三十二歳ですよ!実年齢よりは多少若くは見られますわ!」


スーさんのあまりな言いように、吹きだしていいのか怒っていいのかわからなくなった。もう!!


「その意気だコハル。泣いていても何も変わらぬ。もっと建設的に考えて行動せねば」


魔族から建設的だなんて言葉を聞くなんて!


と、ここでふと疑問が浮かんだ。

私たち言葉が通じていますね~。

いわゆる異世界補正というやつだろうか?自動で脳内言語変換がされているとかいう。


まぁいいや。建設的だなんて現実味のある言葉を聞いてしゃっきりした。

うん、確かに泣いていても何にもならないね!


大好物で読みあさった異世界物は、主人公が幸せになるものばかりではなかった。過酷な目に合うものもけっこうあった。

そう考えれば、今こうやって手を差し伸べてくれる人がいるだけでもありがたい。


先の事はわからない。

もしかしたらまた突然帰れるかもしれない。それまで生きなければ!

それにはまず食べる事と住むところ、職だ!


「私は独身で子育ての経験はありませんが、子供は好きです!精一杯頑張ります。スーさん私を雇って下さい!」


私は独身だけど、妹二人はすでに結婚していて母になっている。

姪や甥はめちゃくちゃ可愛い。私は自他ともに認める伯母バカだ。


「なに、好きという事が一番だ。コハルが子供たちを見てくれたら、わたしも魔界に帰れるし助かる。こちらこそよろしく頼む」


こうして私の就職は決まった。




林はなだらかな傾斜になっていて、少し下ったところに建物が見える。そこがスーさんと子供たちが暮らす家なんだそう。

家は町の外れに建っていて、敷地とその周りの土地(この林を含む)はスーさんの私有地との事。


どこからどこまでなのかちょっとわかりづらいなと言ったら、スーさんの土地と外の土地の境には結界が張ってあるからわかると言っていた。

それって目に見えるものなんですかね?


さっそく、子供たちに紹介すると坂を下って行くスーさん。

道々「そうそう、子供たちにはこっちの姿だ」と、ふっくらとした優しげなおばあさんの姿になった。 


おぉっ!さすが魔族、魔法ですか!


「コハルのその姿も目立つな。少し色を変えておこう」


この世界には黒髪黒目はいないらしい。

このままでは一発で(わかる人には)転移者とわかってしまうとの事。そうなったら色々ややこしい事になるそうで、落ち着いて子育てができなくなると。

それは困るので、ここらでも馴染みやすい茶髪に茶目に見えるようにしてくれた。

鏡がないから自分では見えないけど。


スーさん、四百年も同じ場所に住んでいるけれど、幻術が使えるので(魔法とは違うのか?)問題なく住み続けていたそうだ。姿も時々で変えていたらしい。

あの美人さんの姿のままだと男性からのアプローチが多すぎて面倒くさかったんだって。

既婚者だしね。嫉妬した魔王が世界を滅ぼしちゃうから!


ついでに。

スーさんがしゃがんでいたところには温泉が湧いていた。

何やら魔界と地脈が繋がっているらしく、それで家出してきた先がここになったんだとか。


スーさんが魔界に帰っちゃっても、その源泉を通じて話ができるらしい。

それも心強いけど、何より温泉に心が躍った!

私は基本引きこもりだけど、大の温泉好きなのだ。どうにかして温泉で浴場を作ろうと思う!




舗装されていないデコボコ道を大きなキャリーケースとゴロンゴロン歩く。

下り坂だから勝手にいかないように押さえながらで地味にきつい。

リュックも重いし、早くおろしたい。


「コハル、何だその不便な物は。大変そうだな」

「舗装されている道なら大変便利な物なんですよ!」

「それにさっきからずっと気になっていたのだが、ものすごく美味そうな匂いがしている」

「ケン○ッキーですね。これです。チキンにハーブやらスパイスやらで味つけて揚げてあるものです。美味しいですよ」


私はキャリーケースの上にのせているケンタの袋を指差した。


「美味そうだ」


めっちゃ催促な声色してる…。

十本入りのパックだから、子供たちが八人いてもちょうど一本ずつ食べられるな…。


「夕ご飯を食べる時間はありますか?すぐ帰らないと(魔王様が)ヤバそうですか? 食べていける余裕があるなら、みんなと一緒に食べましょう」


というか、紹介だけされてすぐに丸投げは厳しいよ。


「食べていく!」

「それなら私、食材がたくさんあるので夕食を作りますね」

「おぉ!異世界の料理か!楽しみだ」


子供たちとは初めて会うんだしね。

第一印象は大事!

私は胃袋を掴む気でやる気満々だ。




「ただいま」

「「おかえりー!」」

「ばあちゃーん、どこいってたの?」

「誰?その人?」


家の中に入ると、子供たちがワラワラやってきて、みんなスーさんにまとわりつく。

慕われているんだな~と微笑ましい。

 

子供たちは十歳前後?赤ちゃんや幼児は見当たらなかった。

でもあれ? 一、二、三、四……。

八人と聞いていたけど四人しかいない。


私の顔を見たスーさんは


「上の四人は仕事に行っている。見習いだがな。夕方の鐘には帰ってくるよ」


ほぉほぉ。

あとどのくらいで帰ってくるかと聞けば、一時間くらいとの事。

それではそれまでに夕ご飯の支度をしちゃいましょうか。


「ユーリン、シリン手伝っておあげ」


スーさんに言われた女の子二人が台所に連れていってくれた。

さてさて、異世界の台所はどんな感じなんでしょかね~?




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