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さて、今日も午前中に家事を終わらせ、お昼ご飯を食べたら出発だ。


アイシャが見習いに行っているお店に着いておとないを入れると、店の奥からアイシャと、年配の女性が現れた。ご店主かな?従業員の責任者かな?


「初めまして、アイシャがお世話になっております。子供たちの保護者をしていますコハルと申します。急にお伺いしましてすみません」

「いいえ、ご注文と聞いていますので。おいでいただきありがとうございます。店主のナフィーサといいます」


なかなか上品なおばさま…、といったら悪いかな。お姉さまだ。


「ほんのご挨拶代わりです。どうぞみなさんで召し上がってください」


私は持って来たクッキーを差し出した。

ジダンの時は肉巻おにぎりだったけど、アイシャの職場は女性ばかりと聞いたのでお菓子にしてみた。


窯にもだいぶ慣れてきたし、失敗なく焼きあがったよ!

たくさん焼いたから、帰ったら今日のおやつだ♪


「ご丁寧にどうもありがとうございます」


ナフィーサさんは笑顔で受け取ってくれた。


「ではさっそく採寸をしましょうか」

「お願いします。ほら君たち、言われるとおりにするんだよ」

「「うん!」」


お店には大きなフィッテングルームがあって、奥からもう一人出てきた女の子がアイシャと一緒に計ってくれた。

ナフィーサさんは計った数字を書き留めている。

今は話しかけられないか……。


お洋服もだけど、私のメインはお布団なのだ!

でもまぁ、お店側としたら服を買わないんじゃお客じゃないもんね。ちょっと待つ。


上の子たちのサイズはアイシャがだいたいで伝えてくれている。

そもそもピッタリ合った服なんてないらしいので、それでOKなんだそうだ。


子供たちは特に好みもないのでスタンダードな型にする。

男子チームはシャツとズボン。女子チームは(私も女子に入っていい?)ワンピース。

それぞれ二着ずつ、計十八着。わりと大口発注なんじゃないだろか?

 

子供たちは成長期だ。きっと次のシーズンは着られないだろう。

という事で、季節ごとに新調してもらう事もお願いして(めっちゃいいお客じゃない?)私は本題に入った!


結果からいうと、布団用の布と綿わたは手に入るとの事。やっぱりお貴族様や裕福な商家なんかには寝具はあるらしい。

だけどこの町には寝具屋さんがない。もっと大きな町ならあるだろうからそこで注文するか、自分で作るか…。 


とは言ったけど、ナフィーサさんはちょっと迷い顔で提案してくれた。


「コハルさんにはたくさんご注文をいただいたので、特別に私どもで作ってもいいのですが…、初めて作るものなのでご要望通りに出来上がるか…」

「何をおっしゃいます!お針のプロが作るものなら、私がチクチクやるよりよっぽどいいに決まってます!ぜひお願いします!!」


やった~!!めちゃくちゃ嬉しい!!

私はナフィーサさんの両手を掴んで激しく振った。感謝の握手だよ!


布と綿の料金は、問屋さんに聞かなくてはわからない。料金が決まったらアイシャに伝えるという事になった。

どんなに高くても買う気満々よ!

まぁ言わないけどね。


提示された料金でOKならさっそく作り始めてくれるという事で話しが決まり、お暇する。

服の方は、出来上がったら上の子たちは各自で仕事帰りに取りに行く事になった。

一枚二枚なら持てるけど、十八枚とか持てないもんね。


 

 

「毎日連れ回しちゃってごめんね。帰っておやつにしようね!」

「全然平気よ!洗濯と掃除が早く終わるようになったし。時間があると他の事もできるのね」

「お菓子を作るのも楽しかったわ!」

「こんなに町まで来ることがなかったから面白いよ」

「早く帰っておやつにしようよ!」

 

子供たちと楽しくおしゃべりをしながらの帰り道、何だか人だかりができていて皆さん騒ついている。


「何だろう?何かあったのかな?」

「おれ、見てくるよ!」

「あぁ、待って!みんなで一緒に行こう」

 

あんなに人がいるんだもん、はぐれちゃったら大変だ。

帰り道の分からない小さな子供じゃないけど、姿が見えなくなったら心配だからね!私が!

 

人だかりの端の方に行ってみた。

やだ、これって野次馬ってヤツかな。


わっ!


そこには血だらけの、兵士みたいな男の人たちがいた。二十人くらいだろか?

やっぱり傷を負っている騎士っぽい人たちの後をついて歩いている。

肩を貸されて息も絶え絶えに歩いている子もいた。

まだ十代に見えるよ! 何々?! 何なの??


「金をもらって仕事をする冒険者のくせに満足に依頼も達成できねーのかよ」

「普段威勢のいい事ばかり言ってるくせに大した事ねぇな」

「依頼達成ができなかったんなら金返せよ」


嫌な雰囲気のヒソヒソ話を要約すると、町の外に魔獣が大量発生したと。

町長のところの騎士さんたちと、それだけでは足りなかったので冒険者さんたちも雇って魔獣討伐に行ったけど、退治しきれずに戻ってきた…、と。


はあぁぁぁ?!何言ってるの?!

そりゃあお金をもらっての仕事だろうけど、見なよ!あんなに傷だらけになって、文句を言っているおまえらができない危険な魔獣討伐なんてものをやってくれたんだよ!


あんたの息子くらいのあの男の子を見ろ!

あんたの息子が命を懸けてがんばった姿に同じ事が言えるか!!

 

テオスやジダンと(ジダンは見た目がおっきいからね)同じくらいの男の子を見て、血だらけの恐怖とか心配とか、必死にやってきただろうに聞こえるように文句を言っている野次馬への怒りとか、聞こえているのに耐えているだろう悔しさとか、何かもう、そんなものが色々一気に爆発してしまった。


私は普段そんなに怒りっぽくはない。

だけどこれは我慢できなかった。

目の前を通り過ぎようとしていた冒険者さん達に、よく通るよう声を張り上げた。


「私たちのために戦ってくれてありがとう!私たちを守ってくれてありがとう!!」


突然大声を上げた私に驚いた子供たちも、一瞬の間の後お礼の言葉を連呼する。


「ありがとう!」「ありがとう!」


通り過ぎようとしていた冒険者さんたちがバッとこちらを見た。


血だらけの屈強な男たちに一斉に見られてビビった! 圧がすごいよ!!

子供たちは固まってしまった。 


えぇい!ビビるな!! 

 

『グッジョブ!』 

少々パニくった私は笑顔で親指を立てた。

  

やってしまってから焦る!

これ、私が知っているのと同じ意味ならいいんだけど!

こちらではまったく別の意味だったらどうしよう!!

私は頭を抱えたくなった。


……ん?


焦っていて気づくのが遅れたけど、何やら私たちの周りから「ありがとう」が広がっていっている…?


最初は小さかった声はだんだん大きくなっていって、たぶんその場にいた野次馬達全員が感謝を声にしていた。


何というか…。いい意味での手の平返しだよね。

ここのところ町の人たちと接していて思ったのは、きっとこの町の人たちは悪い人はいないんだろうという事。


もちろん人間だから悪い気持ちがあるのも当たり前なんだけど、だいたいのみなさんは単純で純粋なハートの持ち主なんじゃないかと思う。

こんな風に悪びれもせず、すぐに正反対の言動に覆せるところとかね!


冒険者さんたちも、わずかに表情が緩んだ。

痛みがあるだろうから、顔をしかめてる中でだけど。


そのまま何となく、騎士さん達と冒険者さん達を見送ってから私たちは家に帰った。


それにしてもすごい血だらけだったな…。

きっと傷だらけなんだろな。

大丈夫なんだろか。


できるだけ早く治りますように!!




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