表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/80

14




初日は洗い場と、仕切りができた。早っ!

洗い場ができたから、今夜から足元を気にせず身体が洗えるよ!

めっちゃ嬉しい~~!!


それにしても…。

仕事の後始末をして、また明日と帰る親分たち。

皆さん汗だくだ。温泉で汗を流してほしいけど着替えがないでしょうし、汗で濡れてる服をまた着るのは気持ち悪いよね。


「親分さん、よかったら明日は仕事終わりに温泉で汗を流していってください。着替えも持ってきてくださいね」


親分たちは本日三度目のポカン顔だ。

理由は…、以下略。


親分は複雑な顔をした。

でもムリに?笑顔になって(それがものすごく怖い!)


「重ね重ねのお心遣い、ありがとうございやす」


お礼を言うと複雑な顔のまま、お兄さん二人と帰って行った。

ジダンはここでいいって。


そのジダン、今夜のお風呂に心ウキウキの私に


「コハルさん、気持ちはわかるけど…、親方はあんな顔をしてても堅気だぜ」

「うん?知ってるよ?」

「言いたくなるのもわかるけど、せめて親方って呼んでやってくれないかな」

「うん?呼んでるよ? …え?私呼んでなかった?」

「親分って呼んでた」


ノォォーー!!

脳内で親分呼びしていたら、声にもしっかり出ていたなんて!!

……明日どうしよう。




この日の夜は、かなり快適に温泉を満喫できた。


床張りで作られた洗い場の出来はかなりよかった!

やっぱり足元を気にしないで髪や身体を洗えるのはいい。綺麗に洗い終わったのに、足に泥はねがついてるとか、哀しくなるもんね。


後は、脱衣所が出来れば同時に入れる。

夜は早寝のこの世界、時短は大事だ。


そういえば、服を脱ぎながら何か足りない気がしたんだよね……。


……あぁそうか!

温泉や銭湯なんかにある、服を入れておくカゴだ!

あれほしいなぁ…。よし、買おう!




作業二日目も、親方たちは朝早くからやって来た。

今日は脳内でもちゃんと親方呼びをするよ!


「昨日は大変失礼いたしました」


朝一番で謝罪をする。

何をとは言わないよ。大人は暗黙の了解という物がある。傷をえぐるような事はしないのだ。


「気にしないでくだせぇ。慣れておりやすから…」


親方は哀愁ただよう薄ら笑いで謝罪を受け取り、仕事を始めた。


グッ…。気にしてるじゃん。

親方、見た目に合わず傷つきやすいのかもしれない。

困ったな。私は小心者なのよ。

薄ら笑いの恐怖より、罪悪感が勝ってるよ!


「ではお願いします」


昨日と同じに麦茶ポットを湧水の穴にセットして、私は洗濯やら掃除やら子供たちと家事にいそしむ。

とりあえず手は動かそう!

そしてやる事をやりながらお詫びを考えよう。


麦茶を足しにいった時に、どんどん出来上がっていく脱衣所を見る。

脱衣所は屋根つきだけど、足元三十センチくらいと、肩くらいから上に壁はない。

壁といっても板壁ね。公園なんかにある休憩スペースを想像してもらえればいい。


ここは元の世界で亜熱帯のような気候とは前に述べた。

湿気がこもらないようにって、親方が提案してくれたのだ。


お昼になって、今日もお味噌汁の差し入れをする。塩分補給をしてください!

お味噌汁は昨日に引き続き喜んでもらえたよ。


それにしても、昨日に引き続きみなさん汗びっしょりだ。

私は労働の汗って美しいと思うけど、汗だくの方は気持ち悪いよね。

親方たち着替えは持って来たのかな?


あっ!そうだ!

親方たちが温泉に入っていくようなら、最高のお詫びができるかもしれない。

私なら超嬉しいけどな!




「すべて終わりやした。確認してくだせぇ」


夕方、といっても昨日より少し早いくらいの時間に作業は完了した。


出来上がったばかりの脱衣所を見に行く。

屋根の下に入れば日がさえぎられる。風も通ってとても涼しい。

木のいい匂いがして、私は目を閉じて深呼吸した。

子供たちは秘密基地のように思っているのか、キャッキャと楽しそうだ。

洗い場も仕切りも、全部がちょうどいい感じに出来上がっている。


「とても素敵です!ありがとうございます!」

「「ありがとうございます」」


子供たちと笑顔でお礼を言うと、親方たちもちょっと誇らしそうに笑顔になった。

 

……殴り込みに行って勝利してきたような顔に、私は笑顔を張り付けたまま踏ん張った。子供たちは引きつっていたよ。

二日ではまだ慣れないな……。


「お着替えはお持ちですか?ぜひ汗を流していってください!」

「ありがとうございやす。お言葉に甘えさせてもらいやす」


ちなみに、昨日から作業中はシャンプー類をしまってある。この世界にはないであろうプラスチックボトルは見せられないよね。

石鹸で身体は洗えないけど、汗を流せれば少しはさっぱりはするだろうし、温泉効果で疲労回復だ♪




「ありがとうございやした。おかげさんでさっぱりしやした」


温泉にゆっくりつかる習慣がないからか、それ程たたないうちに親方たちは上がってきた。


「よかったです。 

親方はお酒はお好きですか?お好きなようなら一杯どうぞ。お風呂上りには最高ですよ♪ 

お兄さんたちは成人してるんでしょ?お兄さんたちも飲める?」


親方たちはゴクリと喉を鳴らした。 

お。いける口ですね!


コップもちゃんと冷たい湧水で冷やしてある。

親方たちが出てくるのに合わせてそこに冷たい缶ビールもいでおいたのよ。缶を見せる訳にいかないからね。


ジダンが恨めし気に見ている。

わかってるわかってる。

君には冷えたミルクがあるから!


「くーーー!!!」


親方たちは一気にビールをあおると、恍惚とした表情になった。

それから興奮気味に


「こんな美味いビールを初めて飲んだぜ!」

「冷えたビールがこんなに美味いなんて!!」

「火照った身体が一気に冷えた!また熱くなってきましたけどね!」


めちゃくちゃ喜んでもらえた。

よかったよかった。やっぱ、お風呂上りの一杯は格別だよね!


陶器でできているコップは中がザラザラしていて泡がきめ細かく立つ。

コマーシャルで見た事のある神泡ってやつじゃないだろか?

我ながら美味しそうに注げたわ。今夜サイードが来たら一緒に飲もうかな。


「飲み足りねぇ!オメーら!飲みに行くぞ!」

「「うっす!!」」


後金もお支払して、お礼を言いつつお見送りする。

親方たちは上機嫌で帰って行った。


「コハルさん、冷たいミルクって美味いんだね!俺ミルクってあんまり好きじゃなかったんだけど、これは好きだわ」

「そっか、よかった。ミルクは栄養があるからたくさん飲みなさい♪」


そういえば、朝は野菜&果物のミックスジュースを出してるから、ミルクは下の子たちのおやつの時しか出してなかったわ。夕ご飯には麦茶だったしね。

今夜から選べるようにミルクも出してみよう。


この日の夕食時、上の子たちにも冷たいミルクは大好評だった。

冷たいっていうのがミソみたい。

私的には牛乳が冷たいのは当たり前なんだけど。

ホットミルクは別としてね?


サイードも冷えたビールを大絶賛していた。

今後も缶チューハイやスパークリングワインなんかで驚かしてあげよう♪


この世界がなのか、この国がなのか、冷凍保存とか冷蔵保存なんてものはない。と思う。

冷たくして食べる、飲むという事もね。

食堂で働いているマリカや、外食をしてるだろうサイードも驚いていたから。

そういえば、元の世界でも冷蔵庫なんてだいぶ近世になってからできた物だったような…。




翌日、仕事から帰ってきたジダンが 


「親方たちが、もう温いビールが飲めなくなったって落ち込んでたよ」 


と言っていた。


うん、まぁ。 だって温いビールって…、ねぇ?

あれ? 私、なんか余計な事しちゃった?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ