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食事の後は道具屋さんに行く。温泉で使う椅子と桶を買うためね。

サイードとは、送ってくれた道具屋さんの前でお別れ。


「サイード、忙しいのにありがとう。今日も来られそうならご飯を食べに来てね」

「サイ兄おいでよ!(小声で)温泉も入ろうよ」

「サイ兄待ってるよ!」

「ありがとうございます。それじゃあ仕事を早く終わらせなくちゃ」


サイードは笑いながら午後の仕事に向かっていった。


ちなみにお昼はご馳走してくれたよ。

こっちが頼んだんだし、七つも年下の子に払わせるのもナンだったけど、コハルさんのおかげで大儲けができたからと押し切られてしまった。

サイードは律儀だなぁ。




さっそく道具屋さんで椅子と桶を見る。

椅子は、お風呂使い用のあのタイプは置いてなかった。桶も今間に合わせで使っている、家にあるタイプの様なものしか見当たらない。


当たり前だけどプラスチック製はない。

椅子は木でもいいけど、桶は片手で持てるものがほしいから、木製ならもっと軽いものがほしい。


道具屋のご主人に、こういう物がほしいと説明すると、それなら木工師のところだと言われる。

オーダーメイドになるのか…。


オーダーメイドとなるといくらになるんだろう?

でもまぁ日々の生活が便利になるほうが大事だよね。今のところ大金も持ってる事だし。


ご主人に悪いかなと思いつつ、木工師さんのお店を尋ねると、畑違いだからかすぐに教えてもらえた。


今から行くと時間的にちょっと忙しくなっちゃうけど、明日から二日間は温泉場で作業が始まる予定だ。せっかく温泉環境が整うなら、できれば揃ったほうがいい。

私たちは急ぎ足で木工師さんのお店に向かった。


「こんにちは~!」


教えられた木工師さんのお店を訪ねると、お店中木のいい匂いがただよっている。

売り物が置いてある面積は狭くて、大部分は作業場のような造りだ。販売店兼工房って感じかな?


そこには親方と思われる年配の男の人と、中年の男の人が二人、若い男の子が一人いた。


「は~い!ご注文ですか?」


奥からおかみさんらしき年配の女性が出てくる。


「はい。低い椅子と軽い桶がほしいんです」

「あら、どんな感じかしらね? おまえさん!お客さんの話を聞いておくれよ」


なんてやり取りがあって、やっぱり親方だった年配の男の人に、お風呂用タイプの低い椅子と、片手でお湯が汲める軽い桶を説明する。

言葉だけだとわかりづらいから絵に描いて説明したよ。


椅子と桶は人数分の九個発注した。

あ、サイードの分も買っておこうか。十個ずつになった。

料金の話になったところで、私の希望する椅子と桶は今まで作った事のない物だから、作ってみないとわからないと言われる。


とりあえず一つずつ試作するから、それでよかったら残りも作る、という事になった。

ちょっとくらい高くてもほしいものだからかまわないんだけど、物の出来は見てみたい。

伝えたイメージが違ってたら修正してもらえるしね。


「では三日後にまた来ます」


おかみさんに見送られてお店を出る。

三日後から残りを作り始めて、どのくらいで出来上がるんだろう。


お店に行けばすぐに手に入る、元の世界の生活は便利だったなぁ。

オーダーメイドを楽しみに待つという暮らしはしていなかったし、この世界では全部手作りだもんね。


「さあ、帰ったら夕ご飯の支度をしなくちゃ!」

「「うん!」」


とりあえず、温泉呂環境は整いつつあるからよしとしよう!




次の日の朝。


「そういえば、ジダンはお弁当を持っていく?うちでの仕事なら、お昼はこっちで一緒に食べられるの?それならこっちに作っておくけど」

「弁当頼む。うちでの仕事でも仕事中だから、親方たちと食べるよ」

「そうだね。了解」


そうだよね。仕事中だもんね。そういうもんだよね。

 

いってらっしゃいと、いつものように上の子たちを見送る。

ジダンもここでの仕事だというのに、一度お店に行ってから、みなさんと戻ってくるという。

面倒だけど、まぁそういうもんだよね。


見送った後は、昨日に引き続き急いでご飯を食べる。

この世界の朝は早い。

日本だったら考えられない時間から起き出して生活が始まる。

当然夜も早い。たぶん明かりがないからだろう。


いや、ない訳ではないな。ロウソクがあるしね。ロウソクだけで色々するには、庶民には明るさが足りないんだと思う。

そういう訳で早く寝る。早く寝れば早く起きる。

まぁ…、健康的な生活といえるわね。




工務店のみなさんは、お洗濯を始める前に来たよ!早いな!!


お洗濯は子供たちに任せて、工務店のみなさんを裏の温泉場に案内する。

ジダンがいるからさっさと向かってくれてもいいんだけど、常識ある大人としてそういう訳にもいかないよね。


ジダン以外には、親分と二十代くらいのお兄さんが二人が来てくれた。

昨日の、同じ年くらいの先輩はいなかった。雑用の見習いは一人で十分なのかな。

あの先輩がいないなら、様子が見られないじゃないか…。


「これが温泉になります。この辺に身体を洗える場所と、こっちに脱衣所と、ここに男湯と女湯の仕切りをお願いします」


ほしい場所を提示して、いったん家の中に戻る。

それから麦茶のはいった陶器のポットをもって戻る。


「あそこにお茶を置いておくのでお好きな時に飲んでください。今日も暑くなりそうなので、水分はたくさんとってくださいね!」


そういうと、ちょっと離れたところにある湧水を指差す。

ポットがちょうどいい具合に冷たい水につかるように湧水の周りを掘ってあるのだ。

トレーにコップも人数分のせてある。

これでいつでも冷たい麦茶が飲めるよ!


あれ?私なんかおかしなことを言ったかな? 

親分たちはポカン顔をしている。


後からジダンに聞いたところ、仕事先で飲み物が出されるなんて初めてだったとの事。

汗だくで力仕事をしている身体に、冷たくて香ばしいお茶はめちゃくちゃ美味しかったって、みんな喜んでいたそうだ。


「お気遣いありがとうございやす」


親分が悪巧みを考えついたような顔で言った。

…たぶん笑顔だ。

私は悲鳴を飲み込んだ。ジダンの職場の親分だ、お付き合いはつづくだろう。

いつか慣れるかな……。




お洗濯をしながら、時々麦茶の減りをチェックしに行く。減っていたら足しておく。

麦茶チェックをしに行くたび作業が進んでいるのがよくわかる。

日本ではある筈の、家屋の基礎工事なんてない。

どんどんスイスイ進んでいる。


昨日、二日でできるって聞いたときは、二日?と思ったけれど、これなら二日でできるわ。


お昼になった。

親分たちはその辺に適当に座ってお弁当を食べ始める。

お弁当といってもパンだけのようだ。調理パンですらない、私がグーにしたくらいの大きさの固そうなかたまり。

口の中の水分が吸われそうだな…。

ジダンのおにぎりを珍しそうに見ているよ。


という光景を、お味噌汁を差し入れしに行って見た。

初夏の陽気と外での力仕事、すぐ近くに温泉があって湿度もあるだろう。

みなさん汗びっしょりだよ。塩分補給してください!


「よかったらお弁当と一緒にどうぞ。私の国のスープなのでお口にあったらいいのですが」


そう言って、お味噌汁のはいったカップを置くと(お風呂用に使っている桶をテーブルにした)親分たちは本日二回目のポカン顔だ。

訳は朝と同じ。でもその時はまだジダンから聞いてなかったので、またもや焦る私。


「あいがたくいただきやす。 おう、オメーらも礼を言え!」

「ありがとうございます!」

「ごちそうになります!」

 

笑顔で言う親分さん。凶悪な顔に一瞬固まる。


……よかった。

ポカン顔は解せないけど、まぁよかった。

お兄さん二人とジダンもお礼を言ってくれて、みんなカップをとる。


一口飲むなり


美味うめぇ!」

「何だこれ!初めて飲む味だ!」

「美味い…」


うんうん ジダンは頷いている。


どうやら大丈夫だね。

お醤油はいけてもお味噌はどうかと思ったんだ。

まぁ、子供たちもサイードも大丈夫だったから出してみたんだけど。

喜んでもらえたなら、よかったよかった。




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