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顔色の戻った サイードは、食卓に革袋を置くと、ザッと中身を出した。

すごい金貨の数だ!どうした?強盗でもしてきたのか?!


「昨日お預かりした塩とコショウの代金です」


また泣き笑いの顔で言った。


ええぇぇーー!!

こんなになったの?!

いったい、いくらになったんだろう?!


「塩が金貨二十枚。コショウは金貨百枚です」


コショウ一グラムと金貨一枚が同じ価値!!

元の世界の昔話がここにもあてはまったのか!!

私も子供たちも呆然……。


「塩とコショウが高額になると思っていたので、ここに来る直前にギルドに行った方がいいと思ってました。だけど一日中、どんな高額な取引になるかと気もそぞろで仕事にならなくて…」


ちょっと恥ずかしそうに言う。


「これはもう今日は諦めようと仕事にきりをつけてギルドに行ったんです。そしたら塩は百グラム金貨二枚!貴族が使う一番いい塩でも百グラム銀貨一枚なのにですよ?!」


二十倍か……。


「コショウに至っては…、俺もコショウはよく知りませんでしたけど!それにしても一グラム金貨一枚って!!

俺、昨日金貨二~三枚分舐めましたよ……」


そりゃまぁ、何とも…。


「当たり前ですが出どころは聞かれるし。

あぁ、心配しないでください、コハルさんの事は言ってません。商人ですから守秘義務も通ります。

でもこんな大金もった事がなくて、ここにくるまで気が気じゃなかったですよ~!!」


と締めくくって、サイードはテーブルに突っ伏した。……お疲れ様。


私は甘めに入れたコーヒーを出した。


「だいぶお疲れですね。すみません、私が頼んじゃったばっかりに。昨日と同じものですが甘めに入れてあります。どうぞ」


「ありがとうございます。……頼まれごとはいいんです。端くれとはいえ俺も商人ですから。

ですが金貨百二十枚…。こんな大金、一生持つ事はないと思ってました」


というか、この人ずっと泣き笑い顔してるな…。


「サイ兄、疲れてるの?疲れた時は甘いものがいいってコハルさんが言ってたよ。

はい、あ~ん。私のチョコレートあげる」


私のも、おれのもと、子供たちが一欠けらずつ差し出した。


ええ子や~!

なんていい子たちなんでしょ!!


大事に大事に食べているチョコなのに、惜しげもなく差し出すなんて!

明日からもうちょっと多くあげよう! 

あ。違う美味しいものにしようか。


とりあえず、十二枚を残して金貨を革袋にしまう。

それから残した十二枚を並べて、声に出して数えた。


「十二枚。確認してください、ありがとうございました。昨日約束した通り、一割がサイードの仲介料です。どうぞ」


サイードは、本当に泣きそうな顔になった。


「……ありがとうございます。

仲介っていっても俺、ギルドに持って行って売ってきただけなのに…。こんなにもらっちゃって…。俺が十年で貯めた半分以上が、たった一日で…。なんだか…」


あぁ…。 

うん。そっか。 うん。


サイードがどんな思いでお金を貯めたのかはわからない。

けど、テオスの言葉やジダンの乾いた笑い声を思い出す。それはけっして簡単な事ではなかっただろう。


私も働いていたから辛い事も大変な事も知っている。

どっちがなんて比べようもないけど、きっと孤児のサイードは、そうじゃない人の何倍も何十倍も大変な思いをしてきたんじゃないかな…。

それがあっさり苦労もなく手に入っちゃったら…、そりゃあやるせないよね。


私は、この泣きそうな顔の若者に、どうにか元気になってもらいたかった。

昔、何かのドラマか映画で、そういうものかと感心したセリフを思い起こす。


「ないところから利を生むのも商人の才覚ですよ」


サイードが、ハッと顔を上げる。


「ないところから…、利を生む…」

「そうです。物の売り買いだけが商売じゃないでしょ?形のないものの売り買いも商売だと思うんです」

「形のないもの……」

「はい」


私は、笑顔で力強く頷いた。


サイードは何やら考え込んでしまった。

でもさっきまでの泣き笑いの顔じゃなくなったから…、大丈夫かな? 

考える時間も必要だよね。




私は子供たちに、夕ご飯の支度まで休憩ね~!と告げて、裏の林に向かった。


一応周りを見回して、源泉に話しかける。


「スーさん、スーさん。聞こえますか?ど~ぞ」

『……コハル。また何かあったか?』

「そうなんです!最初からある問題もまだ色々解決していないってゆーのに!新たに問題が起きました!」


そこで私は、昨日サイードが来た事。(独り立ちした報告に来たと言うと、スーさんは喜んでいた)

塩とコショウを売ってもらうことになった事。

さっき、売ってもらった代金を持ってきてくれたけど、それが予想以上に大金だった事。


「こんな大金、家に置いておいて大丈夫ですかね?泥棒とか…。ここには私と子供たちしかいませんし」

『おぉそうか。それならコハルが許可した者しか入れないように、結界を強化しておこう。許可した者でも悪心を抱いている者も入れないようにしておく』


それは心強い!


「ありがとうございます!それなら安心ですね! 

あ、それとお礼が後になってしまいましたが温泉もありがとうございました!とても嬉しいです!」

『喜んでくれてよかった。コハルには子供たちの世話を頼んでいるからな。わたしにできる事はしてやろう』


それだった!

私は脱衣所と洗い場と仕切りの話をした。

それとできれば椅子と桶もほしい。


『それならばジダンのところに頼めばいい。すぐに作ってくれるだろう。椅子と桶は道具屋だ』


その手の発注は大工さんか!

それから道具屋さんね!

幸いお金ならたくさんある。

 

わかりましたとお礼を言いつつ、さらに相談は続く。

頼りっぱなしに、ちょっと声が小さくなっちゃう。


「もうひとついいですか?」

『なんだ?』


何とかしたい洗濯機だよ!

この世界に家電がないのは想像つく。洗濯機なんてないし作れないだろう。でも同じような性能の物はできないだろうか?

全自動なんて言わない!二層式の物で十分です!!


『そうだな…』


お!何とかなりそうだ!


『洗濯用のたらいに水流をおこさせる水属性の小型の魔獣を入れておこう。よく言い含めておくからしばらく使ってみろ。脱水の方はいらぬだろう。その国の陽気なら、手で絞っただけでも十分乾く』

「ありがとうございます~~!!温泉の次に嬉しいです!!もうもう、洗濯めっちゃ大変だった~~!!」


私は大大感謝をしつつ、では夕ご飯の支度に戻りますと通話?を切った。

 

スーさん神!! 

じゃなくて魔王妃だったか!


何でもいいや!

これで洗濯の重労働から逃れられるぞ~!

手荒れや腰の痛みを気にせずたくさん洗えるしね!!




家に戻るとサイードが子供たちと遊んでくれていた。


「サイードもご飯食べていくでしょ?きっとお風呂も誘われますよ」


笑いながらそう言うと、子供たちも

「サイ兄食べていきなよ!コハルさんのご飯美味しいよ!」とか

「一人で食べるのは淋しいよ!」と合唱が始まった。


「すみません。二日続けて…、お世話になります」


子供たちの圧に負けたサイードは、ちょっと申し訳なさそうに言った。




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