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タイトル詐欺じゃありませんが、お宿の開業はだいぶ先になります。
ゆっくりお付き合いくださいませ。
ボーナスが出た最初の週末は、梅雨の晴れ間のお買いもの日和になった。
基本ひきこもり、休日は家でダラダラ最高!の私だけど、毎月お給料日後の週末と、年に二回のボーナス後の週末だけは重い腰を上げている。
行くまでは面倒だけど、いざ買い物を始めればそこは女性ですもの、だんだん楽しくなってくるってものよ♪
晴れの予報は今日だけだし、今日中に終わらせるぞ!と、大型ショッピングモールにて、まずはドラッグストアーに行く。
カートにはカゴを二つ。
愛用のシャンプーとトリートメントをポイポイ。
ボディソープはそろそろデオドラント系にしようかな。
極度の冷え性の私は夏でもお湯につかる派だ。
入浴剤もローズ系、ハーブ系、シトラス系とポイポイポイ。
お月さん用品も少なくなってたな、ポイ。
洗剤と柔軟剤もポイポイ。
歯ブラシと歯磨き粉…、おっと愛用のメーカーからファミリーセットが出ているじゃないか。一本で買うより割安だ、これにしよう。
一人暮らしだけどね!
歯磨き粉にも携帯用のおまけがついている。ラッキー♪
コスメコーナーに移動する。
愛用のメーカーの基礎化粧品のいくつかをポイポイポイ。色系はまだあったからまた次回にする。
おっと!忘れちゃならない日焼け止め。
冷房って意外と乾燥するんだよね、リップクリームと、ついでにハンドクリーム。
ヘアーブラシもだいぶ痛んでいたな、ポイ。
最後は薬コーナー。
これから汗をかく季節だからね、ビタミンとミネラルのサプリも買っておこうかな。
毎月お世話になっている痛み止めと胃薬、常備していると安心の風邪薬と冷却シート。
あっ、虫刺されも忘れずに!
その他少なくなってきていた物を追加でカゴに入れていく。
……こんなもんかな~。レジに行く。
次は食品だ。
入り口近くのドラッグストアーから奥に進む。
食品コーナーに行くまでに魅力的なショップがたくさんある。
まだ梅雨も明けていないというのに、すでにサマーセールをやっている。
○%オフ!なんてポップが乱舞していて、ついフラフラと吸い寄せられてしまう。
ボーナスも出たし、必要なものだしな~なんて、セールマジックにすっかり乗せられてルームウェアーをお買い上げ。
某大手ファストファッションで大人気のリ○コの類似品を色違いで三着、色を合わせてTシャツも三着。これでこの夏はOKだな。
仕事では当たり前だけどきちんとした格好をしているんだし、家でくらいユルく楽に暮らしたい。
ついでに下着と靴下もお買い上げ。冷え性は夏でも靴下必須なのだ。
そういえば、この前の大雨の日にベランダのサンダルが片方飛ばされちゃったんだっけ。サンダルもお買い上げ。
ワゴンセールのタオルを発見!夏らしい涼しい色のセットをお買い上げ。
寄り道しすぎた。食品コーナーに向かう。
食品コーナーでもカートにカゴを二つ乗せる。
まずは調味料系。お醤油にお味噌にお砂糖にお塩をポイポイポイ。
私は料理には飲酒用のお酒を使っているので、箱酒もポイ。
顆粒のダシ系と、カレーやシチューなんかの箱系もポイポイ。
オイスターソースに豆板醤に甜麺醤、香辛料類もいくつかポイポイ。
サラダ油にオリーブ油、ゴマ油もポイ。
ずいぶん細かいじゃないかって?自炊してますから!
お米とパンと乾麺類、缶詰類と瓶詰類をポイポイ。
麦茶パックと紅茶パック、インスタントコーヒーの瓶もポイポイ。
バターにチーズにヨーグルト、牛乳もポイポイ。
生鮮食品コーナーに行く。
ニンジン玉ねぎじゃが芋なんかの根菜類と、きのこ類、葉野菜類もいくつかポイポイ。
これからは冷奴が美味しいね~、お豆腐もポイ。
日持ちするベーコン、ソーセージ類もポイポイ。
生肉系も鳥豚牛とポイポイポイ。お魚の切り身もいくつか選ぶ。
下準備をして冷凍しておけば平日の夕ご飯が楽なんだよね。
おっ、冷えたビール……。買っちゃいますか?
たまにはいいかと六本パックと、ついでに柑橘系の缶チューハイをいくつかと、白のスパークリングワインも選んでみる。炭酸系が好きなのよ。
そうなるとチョコレートとかスナック菓子もほしくなるな。好きないくつかをポイポイ。
カゴ二つは山盛りになってしまった。
レジに行く。
レジを通す音を聞きながら、これでしばらくこんなに大量の買い出しに来なくてすむぞと喜ぶ。
お買い物は楽しいといっても、やっぱり疲れるもんね。
さてさて、こんなに大量の品物を一人で持てるのかって?持てるんですね~♪
海外旅行ですか?と言われるような大型のキャリーケースをゴロゴロ押してきたうえ、大きいリュックも背負っているのだ。
なぁに恥ずかしいのは詰める時だけ。
詰めてしまえば、海外旅行の帰りです~♪みたいな顔をしてゴロゴロ歩けばいいのだから。
最後の最後にケン○ッキーをお買い上げして、帰ったらもうこれとビールでダラダラするぞ~!と帰路に着く。あ~、疲れた!
家で軽くブランチをしたきり、飲まず食わずで一日買物したもんね。
夕方の込み合う前にバスに乗れて一安心。
こんなに大きなキャリーケースとリュックを背負って混んでるバスになんて申し訳なくて乗れない。
バスに揺られて三十分、着いた最寄りの駅から徒歩十五分。やっと自宅マンションにたどり着く。
あ~、疲れた!って、これもう一回、部屋に入ったら心から思うんだろな~と自分ツッコミに笑いつつ、エレベーターに乗り込んだ。
いつも通り五階のボタンを押して、ドアが開いたから普通に降りたーーー――
はて?
マンションの外廊下では…、ないな…。
目の前は……、林?
森という程うっそうとはしておらず、爽やかな高原のような風景が広がっている……。
疲れてバスの中で眠ったのか?
いやいや、私は立っていた。立ったまま眠れるほど器用じゃないし、なにより右手にはキャリーケースの取っ手の感触と、肩に食い込むリュックの重みが、これは夢じゃないと告げている。
「「困った…」」
ん? 声が被った?
周りを見回すと
「「わっ!!」」
すぐ後ろに誰かがしゃがんでいて驚いた!
その人も驚いたようで、また声が被った。
「気配も感じさせず現れるとは、そなたよほど力のある者…、か? いや、そうは見えぬ…」
「わあ、美人!」
すっくと立ち上がったその人を一言で表すなら、妖艶な美女だった。
思わず声に出してしまった程、今まで周りにはいなかったタイプだ。
艶やかな黒髪は長くまっすぐで、綺麗な二重の瞳は…、銀色?!こんなカラコン初めて見たよ!
薄い布地のぴったりしたドレスは、ありきたりな表現だけど、ボンキュッボンのセクシーボディーを際立たせている。
胸の谷間とか深いスリットなんかが超エロい。
何かもう、女の私から見ても目のやり場に困るというか!
困るとかいいつつ、チラチラ見ていると(だって、めっちゃ美人なんだもん!)
「まあ、何度言われても悪い気はせぬな」
美人さんはまんざらでもないご様子だ。
「ところでそなた、変わった格好をしておるな。 ……黒髪に黒い目。 ……そなた転移者か?」
はっ?
……えっ? え…? えーーー!!!
「転移者!! 転移者って、異世界転移ってヤツの、転移者?!」
引きこもりには大好物の(勝手なイメージ!)異世界物ですか?!
もちろん私も大好物ですよ!異世界物!ワクワクドキドキ、文字を読みながら空想を広げたもんですよ!
だけど私?何故私??
というか現実?ほんとにほんと??
「異世界。異なる世界か…。なる程、うまい表現だな」
美人さんは妙に感心している。
「それで、そなたは何に困っているのだ?」
ひとりパニックになっていると、美人さんの質問が続いた。
美人は声まで美人だな。イケボって男の人の事をいうんだっけ?
いけてるボイスだから、女の人でもいいのかな?
いや、この声はいけてるっていう風じゃないな。
……これはいわゆる現実逃避ですかね?
「わたしも困っておってな」
美人さんは質問をしておきながら答えを求めないタイプらしい。どんどん話が進んでいく。
聞くともなしに聞いている、困っている内容とはこういうものだった。
美人さん、お名前をエアスタースさんとおっしゃる。なんと魔族だと言う。
魔族!ファンタジーで定番の悪役?の魔族!
まぁエアスタースさんからは全く邪悪なものは感じないけどね。
エアスタースさん、夫婦ケンカをして人間界に家出してきてたんだって。
それがこのたび四百年ぶりに(四百年!!)ダンナさんから詫びが入り、魔界に戻る事になった。
戻るのはいいけれど、子供好きなスーさん(長いから勝手に縮めた)この四百年ばかり孤児を拾ってきては育てていた。
今も成人前の子供を八人育てていて、置いていくに置いて行けない。
だけど帰らなければダンナさんが乗り込んできてしまう。
ダンナさんが暴れたら、国か、もしかして大陸を滅ぼしてしまうかもしれない。
で、困った……と。
なにそれ怖い。
なんでそんな力をお持ちな方がダンナさんなの。
「スーさんのダンナさんってどんな人よ…」
私は力なくつぶやいた。
「魔王だ」
そりゃ滅ぼせるわ……。