09 闇魔法
その後昼交代するため、見回りから戻って来た間者二人も拘束し、副隊長を含めた三人にも自白剤を使った。
「全員スタートレット家からの間者に間違いないな。……この領にかなりの数の間者が潜り込んでいるのか。聞き出せたのは幸いかな」
「一旦牢屋に移しましょう」
間者四名は今、床に転がされ気を失っている。フィランダーが魔法で顔を水で覆い気絶させたからだ。
「みんなに猿ぐつわをつけて。あと毒を飲まない様、解毒の魔道具も」
「心得ております」
隊長室には色々な魔道具もあるらしく、すぐに腕輪型の解毒の魔道具を出し、四人全員につけた。猿ぐつわも同様だ。そして四人は牢へ連れていかれた。
「……隊長室って何でもあるのね」
「シェリル。普通は違うからね。ヘインズ領は色々あったから……」
「これらは若からの支給品です」
「……え?」
「自分を付け狙う者もたまにおりまして、いざという時にすぐ拘束出来る様、若が用意してくださったのです」
「俺が信頼しているって周知されてるからね。邪魔だと思う奴は多いんだよ」
「……大変なのね。隊長って」
領主一家の信頼を得ているだけで狙われるなんて……周りが嫉妬深いのかな?
「昔の話ですよ。今はテナージャ系の貴族令息達は一掃されましたし。ここから領都の邸に移った者もおりましたが……領館の元幹部達が手引きしたのでしょう。随分前から楽になりましたよ」
「やっぱり膿を出してよかったな」
「えぇ。本当に」
あぁ。テナージャ系の貴族ね。確かに狙われそう。隊長の座とか欲しいよね。
隊長がうなずくとフィランダーの眉をひそめた。
「一気に捕まえたいな」
「その……天井に潜んでいた人が皆と連絡を取っていたんじゃないの?」
「他にも居るみたいだよ。その人はここ担当だってさ」
近くにいたのに、それは聞き取れなかった。
「って事はだ。少なくとも他のところにも影がいる」
「そう考えると……結構な数の間者が入り込んでたのね」
「うわぁ……。改めて聞くと恥ずかしい……」
「仕方ないじゃない。それより他の間者はどうするの? 使いを出して捕縛してもらう?」
「そうだな……」とフィランダーが言ったところで遠くから騒めきが聞こえた。慌てて部屋の中にいた全員揃って廊下へ出た。
「何があった!」
隊長が廊下に向かって叫ぶと、一人の騎士がこちらへ駆けて来る。
「よっ……四人の間者が……闇魔法に襲われ、全員息絶えました」
意味が分からない。さっきまで生きていた四人が?
「どうしてそうなった?」
「……牢に入れた四人の影から強い闇魔法の気配を感じましたので、慌てて彼らの周りに防御壁を張ったのです。しかし相手が強かったのか一部の闇魔法は防げず、全員の胸を影が貫きました。回復に努めましたが……」
やられた。口封じだ。
心は冷静だったけど、私は手が震えてしまった。思った以上に動揺して居るようだ。
「至急、商業ギルド同盟に使いを出せ! ……念のため冒険者ギルドも! きっと何か動きがあるはずだ」
フィランダーは騎士達を走らせ、そして私の肩を抱き寄せた。
「シェリル、無理しないで。隊長。休憩室があったよな。そこで休ませても良いか」
「どうぞ! こちらです」
隊長自ら案内してくれ、私は休憩室のベッドに横になる事になった。
あぁ! ポンコツな身体が情けない!
「フィランダー……あの、ごめ……」
「俺が悪いんだから気にしない」
「フィランダーのせいじゃ……」
「普通の女性だって卒倒するよ。絶えられて偉いよ、シェリルは。でも無理は禁物だからね。しばらくここで休んでて。ルース、ネル、セリーナ。なるべくシェリルから離れるな」
「「「はっ!」」」
「影達もシェリルの警護を」
『『『はっ!』』』
「俺は隊長と話しして来るから。寝ててもいいよ」
そう言い残してフィランダーは部屋を出て行った。
「眠くはないんだけど……」
「シェリル様。ちょっと失礼します」
ネルが私の両手をそっと掴むと、回復の魔法をかけてくれた。少しいつもよりも長く水が纏ってポンポン弾ける。
「やはり……お疲れの様です。回復はしましたが、少しおやすみください」
「こんな時に……」
「こんな時だからです。起きなくても大丈夫ですよ。若なら喜んで運んでくださるでしょうから」
「ちょっと寝る! 一時間くらいで起こして!」
皆が苦笑したのを見てから、私は目を瞑った。
「う……ん……あ!」
「起きましたか? シェリル様」
そこは先程と同じ光景だった。
「もう一時間経った?」
「それより少し前ですね。起きられないかと思いました」
「やった……!! 運ばれてない」
「普通だったらがっかりするところですけどね」
「いいの。だらしない顔して運ばれる方が嫌なの」
「そうですか」
「そんな事より何か進展は?」
「あった様ですが、こちらに報告はありません。シェリル様を気遣ってくださったのでしょう」
「私が呼びに参ります」
セリーナが部屋を出て行くと、すぐに帰ってきて私を呼んだ。
「シェリル様。若がお呼びですよ」
私に出来る事はないんだけどと思いつつ、私はベッドから降りた。




