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11 娼館ギルド支部長と昔話





 鍛冶屋をあとにし、本日最後の場所はなんと娼館だった。

 普通貴族の妻を娼館へは連れて行かないのだが、騎士団からの被害も多かったため娼館ギルドの支部長の娼館に行く事に。


「まさか娼館に行くと思わなかった」

「俺もだよ。でも俺一人で行くと変な憶測が生まれるし……」

「私と行っても生まれると思うけど……」

「俺と一緒だから問題ないよ。『貴族女性立ち入り禁止』って訳じゃないからさ」


 私は若干躊躇したが「領主夫人の務めを果たす」と意気込んで、娼館に足を踏み入れた。







「ようこそ、お待ちしておりました」

「久しいな、イーノック」

「お久しぶりでございます。こちらへどうぞ」


 案内されたのは応接室だった。

 私はフィランダーの隣に腰を下ろすと、イーノックはニコニコ顔で私に接してきた。


「お初にお目にかかります、次期領主夫人。私はこの娼館を経営しておりますイーノックと申します」

「初めまして。シェリル・ヘインズです。この度はヘインズ家の騎士団の者達がご迷惑をお掛けし、大変申し訳なく思います」

「これはこれは……ご丁寧に感謝致します。奥様のお噂はかねがね。私もあの野蛮な人達を追い出してくれた方に是非お礼をしたく思っておりました」

「……私は何も出来なかったのだけど……」

「いいえ。きっかけはシェリル様でございます。娼館ギルドの支部長をしている私ですが、皆を代表してお礼申し上げます。他の娼館には足を運ばないのでしょう?」

「あぁ。シェリルも居るからな。申し訳ないと思うが……」

「それで結構でございます。次期領主夫婦が娼館に謝りに来たというだけでも大きな出来事なのです。慈悲深い次期領主夫人に感謝致します」


 イーノックは恭しく頭を下げた。






 普通娼館に領主夫人やそれに連なる女性は来ないに等しい。何かあっても挨拶に来るのは領主か領主代理の男性のみだ。なのにわざわざ次期領主夫人が足を運んだのは前代未聞でどんな領民達も平等に見てくれると人々の目には映るらしい。


「お礼は何になさいますか? 男娼の紹介も出来るのですが……」

「男娼?」

「わー!! シェリルにそんなの勧めなくて良い。シェリル、寧ろ知らないでくれ!!」

「……娼婦の男性版って事?」

「左様でございます」

「シェ……シェリル……」

「紹介はいらないわ。それよりも情報の方が大切だから、何か情報が入ったらすぐに知らせて欲しいの」

「……なるほど。さすがフィランダー様の奥様ですな。同じ事をおっしゃる。はい。何か情報が入れば逐一ヘインズ家に伝えましょう」

「ありがとう。それより女性達は大丈夫?」

「えぇ。彼等もそれはわきまえていた様で、迷惑ではありましたが、女性達は無事でございます」

「良かった……殴られてたらどうしようかと……」

「私は中程度の力ではありますが、土魔法が使えます。回復、治癒も出来ますのでご安心を」

「あ、そうだったのね」

「奥様は本当に心優しいですな。娼婦の事まで気遣う人はあまりおりませんよ?」

「でも領民でしょう? それに、心が病んでしまった人もいるかもしれないじゃない」

「……幸い、そういう話は聞いておりませんので、大丈夫かと思います。……この様な方が次期領主夫人で安心致しました」


 イーノックは常に情報をヘインズ家に渡してくれると約束してくれた。


「イーノック。これは見舞金だ。……ここを利用して金を落とす訳にはいかないからな」

「これはこれは。ありがたく頂戴致します」

「他の娼館には使いをやるからそのつもりで」

「はい。……奥様の手前、またとは言えませんね。ヘインズ家を訪れたお客様がこういう所をご希望の際には是非、当店をお勧めくださいませ」


 これでここでの話は終わり、私達は娼館をあとにした。






 本日の訪問が終わり、私達は馬車へと乗り込んだ。


「お疲れ様。さぁ、回復魔法かけるよ」


 さすがの私も慣れ、魔法も珍しいものではなくなったが、自分で使えない歯がゆさも感じる様になった。


「いつもありがとね」


 水が弾けた瞬間に言うと、フィランダーの顔が真っ赤になった。


「よかってですね」

「感謝されてますよ。若」


 トミーとルースがからかう様に言うと、フィランダーは窓側に向いて顔を両手で覆った。ちょっとするとすぐにこちらを向いた。


 ……いつになく真剣な表情だった。


「どうしたの?」

「……シェリルに言っておこうと思って。……祖父母の事」

「……うん。教えて」


 フィランダーはゆっくり語り始めた。






「俺が小さい頃、まだこの領は平和だったんだ。でも父上が若くして騎士団長を拝命したすぐあと、祖父母が毒殺された」

「え……病気じゃないの?」

「それは表向き」

「そうだったのですか!?」

「ルースにも言ってなかったな。この話は邸内でも知っているのは俺の小さい頃から仕えているものだけだよ。トミーみたいに」


 見るとトミーの顔が曇っていた。


「先代は大樹の様などっしりとした人でした。僕達使用人にも分け隔てなく接してくれたのを今でも覚えております。先代夫人も年の割に若々しい方でした。さりげなく毒を吐いて皆を笑わせておりましたよ」


 元王女様はなかなか面白い人の様だ。


「父上が騎士団長になったのが周りは気に入らなかったんだろう。同時に実務の無能さも知られてしまった。父が押しに押されて断り切れなかった使用人を雇う事になってそれが起きてしまったんだ」

「その使用人は?」

「捕まえられなかった。それに余計な事もしてくれてね。いらない人材を次々と採用してここに潜り込ませたんだ」







 それが……ヘインズ領の悪夢の始まり。


「毒で元王族が殺されたのは当時の王も怒り心頭でね。でも周りのもの達に諭され、表向きは病気という事で収まる事になったんだ。……内紛のきっかけになるのを恐れたらしい」

「そんな……」

「犯人はまだ分かっていない。使用人を紹介した家は王によって没落している。……恐らくテナージャ派の公爵の誰かだと思う。三家あるんだけど、有力なのはうちの領にも密接しているスタートレット家だ。ちなみにそこの令嬢とイーディスが友人」


 その場にいた全員の顔が苦い顔に変わった。


「あ! スタートレット家と言ったら、私会ってますよ。うちにも来てました」


 青い顔して言うルース。


「さらに令息は王太子の側近だ」

「最悪じゃない」

「でも今回の事があってそれも駆逐された。……俺もこの話は忘れかけていたよ。もしかしたら、何か仕掛けてくるかもしれない」


 ヘインズ領の受難はまだ終わりそうにない。


 私の中にまた一つ、不安の種が増えた。

 




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