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08 テナージャ王国




 テナージャ王国といえば、国民全員が魔法を使える稀有な国だ。その力を持ってすれば、大陸の覇者になれるとまで言われたそうだが、未だそれには至っていない。好戦的な人が多く、数々の戦争も圧倒的な魔法の力によって制圧して来た。


 一方シランキオ王国といえば、魔法が使える人は一人もいない。なので発達しているのは科学だ。しかし兵器の方はさっぱりで、日用品等の実用的なものしか力を入れていなかった。


 その理由は強力な兵器を開発すると、どこからか嗅ぎつけた他国の間者が「あそこは戦争する気だ」と勘違いし他国へ伝えてしまうのを防ぐためでもあった。国を守るためにはそういう兵器開発も重要なのだが、シランキオ王はそれよりも個々と集団の武力を重視し、鍛えさせてきた。


 しかしテナージャが攻めて来るとしたら、その選択は間違っていたのかもしれない。


……この事を聞けば、どちらが戦争で勝つのか誰でも予想ができるだろう。





「おい。どうする? 田舎に帰るか?」

「帰ってどうするよ。……戦うしかないだろう」


「魔法がなきゃなぁ……どうしてうちの国なんだよ」

「分かる。他にもあるよな。今まで魔力があるところばかり狙ってたし」


 私とダーシーさんが食堂に着くと、皆の顔色が悪かった。


「予想していたけれど、やっぱり皆不安そうな顔ね」

「それはそうでしょう」


 ジェネ様の言う通り、本日正式に通達があったのだ。

「隣国テナージャに不穏な動きあり。戦争の可能性が高い」と。

 なのでどこを見渡しても、話題は戦争一色なのである。






 当然ながら、私達の話題もそれだ。


「魔法に対抗出来る能力が欲しいですね」

「そんなのあったら苦労しないでしょ」 

「シランキオに特殊な能力があるとすれば……魔獣と話せるくらいでしょうか」


 シランキオ王国に住む者で、ごく稀に出るのが魔獣と話せる能力である。とある村でこの能力を持つ者は、魔獣を従えているという話も聞く。本当かどうかは分からない。実際に目にした事はないのだから。


「聞いた事があるだけで、何の確証もないわ。従える事が出来たとしても、ドラゴン何体必要になると思う?」

「ですよね」

「それに魔獣と話す事が出来ても協力してくれるかは別でしょう。そもそもこの国には滅多にドラゴンの目撃例はないし」


 どちらにせよ、シランキオが圧倒的に不利なのは明確だった。






 私が気落ちしているとダーシーさんは話題を切り替えた。


「そういえば、里帰りはするの?」

「あー……はい。頻繁には帰れないので、今回くらいは……」


 実家のある領は王都から片道三日はかかる。なのであまり帰りたくはないのだが、戦争がいつ起こるか分からないため、今の内に里帰りしろと上からのお達しがあったのだ。


「うちは王都に両親が来るそうだから残るわ。留守は任せて」

「はい! 行って来ます。お土産何が良いですか?」

「うーん……食べ物!」

「分かりました」


 「久々に帰るなら、皆にお土産聞かないとね」と思った私は、昼休憩が終わってすぐにジェネ様に聞いたら「ダーシーと同じで良いわ」と言われて動揺した。


「え? レッドバイソンのジャーキーになりますよ!? よろしいのですか!?」


 私がと聞き返すと「ふふふ」とジェネ様が笑う。


「たまにはそういうのも食べたいのよ。あまり口に出来ないから。それに、ダーシーやホリーが食べているものを私も食べたいと思って」


 そう言ってジェネ様は悪戯な笑みを浮かべた。







 今日の勤務が終わると私は騎士寄宿舎を訪れた。

 中に入ると管理人の男性にビルを呼び出してもらう。女性が入れるのは入り口までだ。


「まだ、帰っていない様です」

「……そうですか。では、これをお渡しください」

「はい。お預かり致します」


 手紙を管理人に渡して外に出ると、隊舎の方を見る。


 もし残っているならいっそ隊舎へ……やっぱり今日は良いか。


 私は自分の部屋がある女騎士寄宿舎へと歩いて行った。







 次の日。

 昼休憩に会えるかもと思い食堂に入って目を凝らしたがビルは居なかった。


「残念だね。昨日も会えなかったの?」

「はい。寄宿舎に戻っていなくて……手紙の返信も……」

「夜番だったか……誰かと一緒に飲みに行ってたりして」

「あぁ……可能性ありますね」

「ただ手紙の返信もないという事は……浮気だったり?」


 ダーシーさんはからかい口調で言うが、私は「そうかも」と思ってしまった。


「え? やだ、冗談! 冗談だから、本気にしないで」

「でも……」

「大丈夫。あのタイプは貴女以外目に入らないから。きっと上官に付き合ってるのよ」

「上官……ですか?」

「そうよ。普通の部隊に入れば、上官と飲む事も多いもの。私の旦那がそうだからね」


 私達は王族警護部隊に入っている。ただ、他の騎士と時間が重なる事が少なく、一緒に飲みに行った事があるのはバディを組んでいるダーシーさんだけ。

 確かビルが入っている部隊は、上下関係がはっきりしていると言っていた。もしかしたら隊の上司達に気に入られて、声がかかっているのかもしれない。「ビルの事だから、部隊以外のところからも誘われているのかも」と思うとその光景が頭に浮かんだ。


「こんな時期だし、どこも不安なんじゃない?」


 ダーシーさんが何気なく言った言葉が、なぜか心のどこかで引っかかっていた。




 





 やっと会えたのは、私が領地に帰る日の前日の事だった。一緒にいつもの様に街へ行き食堂に入る。今日入った食堂は庶民的で心地の良い騒がしさが気に入っている、私推薦の所。


「ごめん! 手紙貰ってたのに会うのがこんなに遅くなって……」

「ううん、こちらこそ無理言ってごめん。しばらく会えないから……その前に一度でも顔見たくて……」


 私が申し訳なさそうに言うと、ビルはなぜか嬉しそうな顔を作った。


「コリンソン領だっけ?」

「そう」

「二週間会えない事がザラなのに、俺の顔が見たいなんて……」


 ニヤニヤするビルに私は恥ずかしくなった。


「いっ……一ヶ月休めば良かった」

「待って! 二週間以上はダメ! 俺が持たない!!」

「遠征の時は一ヶ月はザラでしょう?」

「それでも! 一ヶ月離れた時は気が狂いそうだった。もし、遠征中にホリーに男が寄ってきたらと思うと……」

「どうしてたの? その時は」

「……一心不乱に剣を振ってた。ミックに止められるまで時間が経ってた事にも気づかなかった」

「うわぁ……」

「引くなよ!!」






 あまり聞きたくなかった事を知った後、私はビルに聞いた。


「ビルはどうするの? 里帰り」

「んー……俺は帰らないよ。寄宿舎には入っているけど、王都にも家があるからすぐ帰れる」

「そうでした。……なんで寄宿舎に居るの?」

「何かあった時にすぐに駆けつけられるし、正直家って居づらくてさ……」

「家族なのに?」

「貴族の家って色々あるだろ? ……ホリーの所が羨ましいよ」


 うちが平民並みにほのぼのとした家族関係だったから、私には他の家の普通が最初は分からなかった。普通の貴族の家は結構冷えきっている家も多いのだ。特に騎士団に入る者は次男以下がほとんどだから、家での扱いも雑なのだそう。


「二週間楽しんで来な」

「うん。お土産持って帰るね」

「無理しなくて良いから」

「なっ……無理してないもん! せっかくレッドバイソンのジャーキー持って帰ろうと思ってたのに!」

「え!? あるの? 是非」

「どうしようかな~」

「ごめんて!」


 もう! いつまでうちが何もない田舎だと思ってるの!!


 私がむくれるとビルが慌てて私の事を褒めまくったので、今度は私が慌ててビルの口にフォークに刺さった肉を突っ込むと、ビルは嬉しそうにその肉を噛みしめる。すると周りの目には仲が良い恋人と映った様で、私はもっと居た堪れない気持ちになってしまった。




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