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07 不穏


 大体一分経ったところでビルと別れ、私は無事手紙を渡す事が出来た。


 その数日後。


「色々とお騒がせしました」

「と言う事は、仲直り出来たのね、ダーシー」

「はいっ!」


 跳ねる様な声でニコニコ顔で答えるダーシーさんがそこにいた。

 事の顛末はこうだ。







 旦那様のベンサム次期子爵は今から二ヶ月前、調査部隊に配属され、初めての調査任務に臨んでいた。

 調査の一環として、先輩騎士と普段着で様々な娼館へ行ったのだという。そこでは娼婦達から他国を行き来している商人達の話を聞き出していた。

 

 邸に帰る時は必ず着替えてから帰っていたのだが、残り香がついていたらしく、それをダーシーさんに気づかれてしまう。

 それをきっかけに喧嘩してしまい、しかもその話が王女にまで届き、上司から注意を受ける羽目になってしまった。


 しかもダーシーさんが食堂で香水の話をしてしまったため、騎士団内でもベンサム次期子爵の浮気が話題に。本人は慌ててその火消しに追われたらしい。







 今回の件でベンサム次期子爵は調査部隊から外れる事になった。何でも、ちょっとした事で疑ってしまうくらい仲が良くて、情熱的な奥方がいるからだそうだ。

 また、香水の匂いを消す努力はしていなかったのも問題だったらしい。調査部隊は周りに調べている事を悟られないようにするのも仕事だからだ。


 本人もこの仕事は向いていないと思っていたらしく、外れる事になったのは僥倖だったそう。ただ、調査部隊に迷惑をかけた事で減給も検討されていた。しかしジェネ様の恩情で、厳重注意としばらくの間事務作業に励むだけで済んだという。






 ダーシーさんはその件で旦那様にお仕置きを受け、現在禁酒中なのだそう。


「その程度で済んで良かったですね」

「今回だけだからね」

「ありがとうございます!! ジェネヴィーヴ様!!」


 ジェネ様は小さなため息をついてから、ダーシーさんの方を向いた。


「それにしても……食堂で話すなんて迂闊(うかつ)過ぎます」

「……申し訳ございません」

「貴女の裏表ない性格は好きだけど、常識をもうちょっと……いえ、しっかり身につけて欲しいわ」

「……義母にも注意されました」

「貴女も大人になりなさいね。罰として、私からマナーを学んでもらいます」

「えー!?」

「私も暇だったからちょうど良いのよ。ついでにホリーも学びましょうね」

「え……はい」


 私は顔を引きつらせながら答えた。







 そのすぐ後、ジェネ様は咳払いをして真剣な目を私達に向けた。


「それは無事済んで良かったのだけど……今回調査をしていたのは、隣国テナージャに不穏な動きがあったためです」


 その言葉に、私とダーシーさんは目を見開いた。


「調査の結果、シランキオに攻め入るために、テナージャが戦争の準備をしていると報告がありました。すでに手紙を出し、こちらに戦う意思がないと伝えているとの事ですが、どうなるかは分かりません」


 どうして手紙なのかというと、以前弁明するためテナージャを訪れた他国の使者が人質となり、戦争に急発展したという経緯があるからだ。

 そのため王はテナージャ以外の魔力のある国から、魔力を含んだ手紙を取り寄せており、その手紙を使ってテナージャに送ったのだという。

 魔力を含んだ手紙を私は見た事がないのだが、何でも行き先と届ける人物の名を告げると白い鳩に変わり、その人物に届けてくれる代物らしい。

 





 そんな事よりも私達は戦争という言葉に一時呆然とした。


「え……戦争になるのですか?」

「テナージャは元々、国を奪って大きくした国。建国から五十年しか経っておりません。これは私個人の考えですが、食料が不足していると考えられます」


 テナージャ王国は、我がシランキオ王国の北に位置する国。特に北部では雪深いという話も聞く。シランキオ王国は雪とは無縁な温暖な気候の国。食料も豊富だ。


 しかし、今年は違う。シランキオでも今まで感じた事のない寒さが襲っている。という事は、彼の国ではかなりの被害が出ていてもおかしくはない。


「なら、食糧支援をすると言えば……」

「それで引き下がる相手ではないでしょう。彼の国の者なら『貰う』のではなく『奪う』方が手っ取り早いと考えるはずです。……早ければ、春には大きな動きがあるでしょう」


 私達は言葉も出なかった。

 二十歳の私は、戦争を経験した事がない。それだけシランキオは平和な国だったのだ。この国が戦場になるなんて……。


「明日、正式に通達されるはずです。貴女達も覚悟をしてください」


 ジェネ様の言葉が、重く頭に響いた。



 


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