30 解決
防御壁が壊れるのは時間の問題。
セリーナの防御壁よりは丈夫そうだが、男達が一心不乱に防御壁を斬りまくり、思っていたよりも早く異変が起きる。男達が斬っていたところから小さい水の泡が浮かび始め、それがポンポン消え始めると、斬ったところから無数の泡が吹き出しポンポン弾けて消えてしまった。
防御壁が破られ私はその瞬間を狙って騎士団長の足を攻撃……しようとすると、どこからか無数の蔓が私を襲う。
「何!?」
気付いた時には私はその蔓に捕まり、立ったまま縛りつけられてしまった。あまりの痛さに木剣も手から落ち、蔓がそれをはたき遠くの床へと転がる。
「ぐっ……」
一瞬目をつむってしまったがなんとか踏ん張り薄っすら目を開けると、蔓は騎士団長の手の平に繋がっているのが見えた。
「早くこうすれば良かったなぁ……」
そう言いながら蔓を操り、一瞬私ごと宙に浮いたと思ったらいきなり急降下し床へと叩きつけられた。
「がっ! ……痛っ」
「足りないな。もう一回」
また蔓に絡められた私ごと宙に浮かび、床に叩きつけられる……かと思ったら床に着く直前で止まり、突然蔓が緩んで床へ少し落ちるだけで済み、蔓から解放された。
「あ? ……んだよ」
「どうしたんです?」
「なんか上手く操れねぇんだよ。ちっ。戻れ」
蔓はスルスル騎士団長の手の中へ帰っていった。
私は身体を動かそうとすると、叩きつけられた衝撃で立ち上がる事も出来なかった。仕方なく這いつくばって逃げようと試みるが、周りにいた男達に阻まれる。
不味い。どうしよう……誰か……
「やっぱり蹴るのが一番だよな」
私は身体に力を入れ、少しでも痛みを緩めようと身体を丸める。ゆっくりと騎士団長が私に近づき思いっきり蹴られ……そうになるが、その瞬間恐ろしいくらいの殺気が場をまとい、息が苦しくなった。
するとなぜか水に溺れる様な声が聞こえる。
気づくとまた私の周りに水の防御壁が現れると同時に、周りの男達の頭に被せ物をする様に水がまとい、苦しそうに溺れ、床に転がり苦しんでいた。
「シェリル!!」
血相変えた顔で駆け寄ってきたのはフィランダーだった。防御壁もフィランダーが張ったものだからか阻まず中へと入って来る。
「あ……」
私の様子を見てフィランダーは一瞬固まった。
「シェリル……お前ら!!」
その瞬間私は慌ててフィランダーの服を掴む。
「シェ……シェリル?」
「苦し……殺気……」
すぐに気づいた様で、殺気を抑えてくれた。
「ごめん。苦しかったね。怪我もすぐ治す」
私の身体に水がまとうが、以前捻挫を治してくれた時の様にすぐに弾けてはくれなかった。
「しばらくこのままにしてて。思ったよりも酷い」
辺りを見渡すと、いつの間にか男達の頭から水は消えており、その代わり失神して床に横たわっていた。
「シェリル様! 側を離れてしまい申し訳ございません!!」
「いいの。呼んできてくれてありがと、セリーナ……」
「シェリル様……」
ホッとしたせいか私は一気に眠くなり、意識を手放してしまった。
「ん……」
目を開けると、そこは夫婦の部屋ではなく私の部屋のベッドの上だった。怪我したところを触るともう完治している様だ。鏡を見ようと起き上がってベッドから降りる。洗面所に向かい鏡をみると、いつも通りの私の姿がそこにあった。すると誰かが入ってきて私を呼んだ。
「シェリル様……シェリル様がいない!?」
「あ、ここ」
洗面所から顔を出すと、セリーナがそこにいた。
「よかった……」
「ごめんね」
「もう! 起きたなら呼び鈴を鳴らしてください」
「ごめん。実家にいた時もなれなくって……」
どうも呼び鈴は性に合わない。
「三日も眠っていたのですよ。体調は大丈夫ですか」
「平気。むしろ快調」
「……それは良かったです」
そう言ってセリーナは私をベッドに寝かせると呼び鈴を鳴らす。するとなぜかフィランダーが飛んできた。
「シェリル! 目覚めたんだね? 体調は?」
「平気です」
「良かったぁ」
フィランダーはへなへなと脱力し床へと這いつくばった。
「そういえば……ネルとルースは?」
「休んでいるだけですよ。本日のシェリル様番は私ですから」
セリーナが胸を張って言った。
「って事は……今何時?」
「今? 早朝だね」
「そっかぁ。だからか。ありがとうセリーナ。夜、世話してくれていたのでしょう?」
「はい。ネルとルースもですよ」
「あとで言っとく。……それで、騎士団はどうなったの?」
「……次期領主夫人暴行で捕縛。シェリルに直接手を出していない者も計画に加担したとして全員監獄行きだよ」
「今、領民達の間で歓喜に湧いている話題ですよ」
「そうなんだ……」
「ありがとうシェリル。君のお陰でうちに甘い汁を吸いに来た連中は全て追い出す事が出来た」
それを聞いてホッとする。
痛い思いしたけど捕縛出来て良かった。
そのあとネルとルースがやってきて私に駆け寄り「離れてごめんなさい」と何回も言われてしまった。
「私の指示で動いてくれたのだから」と言っても、「それでも離れてはいけなかった」と二人は後悔を口にした。
ネルとルースは途中で魔獣が襲ってきたという話が嘘だと気づき、操られていた使用人達と交戦し、あとからやって来た騎士団達とも戦ったそう。異変に気づいた他の使用人達が手助けしてくれ、何とか倒して私のところへ戻って来てくれたらしい。しかしその頃にはフィランダーが助けたあとだったそう。
「操られた使用人達は大丈夫だったの?」
「うん。もうすっかり魅了が抜けたよ」
二人は突然騎士団に襲われてしまい、魅了をかけられ操られてしまったという。
「あとで謝りたいってさ」
「ん。場を設けてね」
その二人とは後日会う事が出来、今より一層使用人業を頑張ってくれると言ってくれた。
「シェリル。回復してからで良いんだけど、会ってもらいたい人がいるんだ」
「私に?」
「うん。……実は事前に君を襲うって知ってた人物が現れたんだ」
「……その人は……どんな人?」
「……領民だよ」
フィランダーが向けた瞳は怒りに満ちていた。




