06 きっかけ
ビルは私と同い年で貴族だが学園の同期ではない。どこかは知らないが、他国の学園に行っていたそう。美形で文武両道のビルは瞬く間に注目の的となった。
「ミック。いつの間にこんな美形と仲良くなったの?」
「ついさっき。剣術の授業で初めて手合わせしたんだよ。ついでに負けた」
「え!? ミックが?」
ミックは同期の中でも上位三名の中に入るくらいの実力者。だとすればビルは相当な実力者なんだろう。「神は美形に二物も三物も与えるのかな」と思ってしまう。
「何ボーッとしてるの、ホリー?」
「いや……才能溢れる人って居るんだなって思っただけ」
すると男二人でコソコソ話始めた。
「な? ホリーは普通だろ?」
「あぁ……驚いた」
「何二人で囁きあってるの?」
「なんでもない。それより紹介まだだったよな?」
「ビル・ロッドフォードだ。ビルと呼んでくれ」
「ホリー・コリンソンです。ロッドフォード様」
私の言葉を聞いて、ビルは不貞腐れた顔になる。
「……ビルで良いと言った」
「あのね。付き合ってもいないのにそんな呼び方したら、さらに私は周りの女騎士に睨まれるの」
「あー……俺らの同期の女って、ねちっこい女ばっかなんだよな」
私と同期の令嬢達は、令息と気軽に話す事が恥ずかしくて出来ない人が多い。そんな中私だけが話しているのを見て、イラついているのだ。
「だからしばらくは家名呼びね」
「……ホリー。俺と付き合おうか」
そう言われ、私とミックは一瞬言葉を失った。
「「……は!?」」
「だって、恋人同士にならなきゃ、名前呼んでくれないんだろ? それに俺、ホリーみたいな子が好みだから」
私はちょっとイラっとした。
好みだからという理由で簡単に告白する様な奴はお断りだ。上から目線で愛人になれと言っている様にも聞こえる。
「……あのさ。そんな事、軽く決めないでよ。私、愛人になる気はないよ」
「本命に決まってる」
「え? 決まってるって……そんな事をあっさり決めていいの? 思ったよりも真剣な表情だけど、こんな告白の仕方ある? たった今会ったばかりの人にいうセリフじゃない」と私は困惑した。
驚き過ぎて固まっていたミックがやっと動き出し、口を開いた。
「いや……ビル? 本気?」
「ミック。俺が軽く言ってるように見えるのか?」
私は正直「見える」と思ったが、それはミックも同じだった様だ。ミックと目が合うと小さく縦にうなずいたから。
「と……とにかく、私はそんな取ってつけた言い方で恋人にならないからね! 私は尻軽じゃないから!!」
内心とても動揺していた私はとにかく告白を撤回しようと、ただでは落ちない女を必死に演じる。
私だって彼は欲しい。しかもビルの顔は正直好みだ。でも取ってつけた様な告白は嫌だし、何より周りに人がいる前で言う人は嫌だった。しかも初対面で言うなんて不審過ぎるに決まってる。
最初はそう言ってビルから逃げまくっていたが、だんだんミックとビルと三人で食事をする事が増え、そのうちビルと二人で会う機会の方が多くなっていた。
そしてあの日。
いつもの様に二人で食事に行き、街から王城へ戻る帰り道。
王城を入ってすぐの木陰で、お互い何も言わずにキスをした。
どちらが先に動いたかは分からない。ただ、したいという気持ちが勝っていた。
いつの間にかビルの事を本気で好きな自分がいた。その時に自覚した。
「……ホリー。俺の恋人になって欲しい」
「……本当に私で良いの」
「ホリーじゃなきゃダメだ」
ビルはまた私にキスをして、そのまま濃厚なものへと変わる。この日から私は、ビルの恋人になった。
付き合ってからやっと「ビル」と呼ぶ様になる頃、新人の配属先が正式に決まり、私は王族警護隊に所属する事に。その隊だけ隊舎以外の場所にあるため、隊舎を歩く事がめっきり減ってしまったのだ。
「あの頃はなかなか『ビル』って呼んでくれなかったもんな。……俺、これだけ待ったの初めて」
「……今までどれだけの人と付き合ったの? 入隊当時、まだ十六だったじゃない」
「……知りたい?」
ちょっと色気のある声と妖しい笑顔を向けたビルになんだか聞いてはいけない危険な香りがした。
「……遠慮します」
「じょっ冗談だから。実際には女性に言い寄られただけで付き合ってないって」
「……」
「……本当! 本当だから」
「あ、着いた」
「え? もう?」
いつの間にか目的地であるダーシーさんの旦那さんの部隊がある部屋に到着していた。するとビルが路地へと私を無理矢理引っ張る。
「ちょ……何するの!」
「ちょっとくらいいいだろ?」
そう言って、ビルは私の唇に優しく口づけしてから抱きしめた。
「これから……忙しくなる気がしてさ。……ちょっと満たしたい」
「……一分」
「短っ! ……でもいいや」
ぎゅっと抱きしめる腕は意外と優しくて、私の方が満たされる気がした。




