22 魔法はオマケ
シェリル視点に戻ります。
※
目を覚ますと、心配そうに見つめるフィランダーの顔があった。
「シェ……シェリル!? シェリル!」
「……フィランダー……どうしたの?」
「良かった……三日も寝てたから心配で……」
「え……うわー……一週間以上確定」
「何それ?」
「前にも同じ様な事があって、その時も三日は寝っぱなしだったの。しかも回復に一週間以上かかった」
「……とにかくこっちは目を覚ましてくれただけで嬉しいよ」
「あー……初めての人はびっくりするよね。ごめん」
「いや、謝るのこっちだから。シェリルの事を何も理解していなかったんだ。俺も周りもね。本当にごめん」
すると、私のお腹から「グゥ~」と気の抜けた様な音が鳴った。
私は恥ずかしくて思わずフィランダーから目をそらす。そんな私を見てフィランダーは嬉しそうに口を開いた。
「良かった。寝てる間は水しか飲んでくれなかったから……今、持ってくるよ。スープ飲める?」
私は目をそらしたままうなずくと、フィランダーは「待ってて」と言い残して部屋を出て行った。
はぁー……やっちゃった。
イベントのあとに倒れるのは私にとっては日常茶飯事だった。それでも安心出来たのは、周りの皆がすぐ対処してくれるという確信がどこかであったから。でも私の信頼していた侍女はここには居ない。私がもっと自分の事について言えれば良かったのに、それをしなかった。
……結婚式の事で頭がいっぱいだったし……って言い訳だよね、それ。
「もっとしっかりしなきゃなぁ……」
私は一人、反省した。
しばらくしてフィランダーがニール特製のスープを持って来てくれた。妙に早いので問い詰めると、いつでも食べれる様、毎日朝早く作って温めるだけにしてあるのだという。
「勿論、昨日以前の分は皆で美味しく頂いたよ。具は無理じゃなかったら、食べなくていいから」
それは野菜や肉を小さく切った具が入ったスープだった。いつも思うがニールの料理は目でも楽しませてくれる。
食べようとスプーンを持とうとするが、フィランダーがそれを静止する。
「俺が食べさせてあげる」
そう言ってスプーンを持ってスープをすくった。
この国ではスープの熱を冷ます時、かき混ぜて温度を下げる。なのにフィランダーはそれをしなかった。……という事は私の口に運ばれるのは熱々のスープ。
「口の中が火傷するだろうな」と思っていると、スプーンの下に何やら見覚えの小さい泡がびっちりついている。
「フィランダー……それは?」
「ん? ……あぁ。冷ましているんだよ。水魔法の特権」
「……便利だよね。水魔法って」
「他の魔法も便利なものもあるけど、水が一番応用力が高いかもね。他の魔法だと風魔法とか……氷魔法で冷ます事もあるなぁ……」
「……一度、使ってみたかったなぁ……」
「使えたとしても、大して使えない人もいるよ?」
「知ってる。……でもちょっとでも良いから使ってみたいじゃない。私にとっては夢みたいなものだし」
すると、泡が消えた。食べるのにちょうど良い温度になった様だ。
「はい、アーン」
恥ずかしかったが、それよりも食欲の方が優っていた。渋々口を開けて食べると、優しい味が口の中に広がる。
「美味しい」
「でしょ? ……これは魔法の力じゃなくて、ニールの努力の証なんだ」
私がキョトンとした目でフィランダーをみる。
フィランダーはニールの過去を教えてくれた。
※
たまたま炎魔法が使えたテナーキオ人のニールは、料理に興味を持って料理人の道に進んだそう。シランキオ人の師匠の元で修行をしていたある日、その師匠を凌ぐ料理を作ってしまった。
その事について師匠は何も言わなかったが、弟子達は炎魔法が使えるからだと言い出したらしい。だんだん現場の空気が悪くなり、ニールは辞める事を決め師匠に申し出た。
「ここを……辞めさせてください」
「……やっと決意したか」
「え……」
「実はもう、お前に教えられる事は何もないんだ。だが、俺からそれを言われても『出て行け』と言われていると思うだろう?」
「そ……それは……」
「お前に足りなかったのは、覚悟だ。俺なんかとっくに超えているよ。炎魔法があってもなくても関係ない」
「え?」
「お前には済まなかったが、あの場で俺が否定しても、あいつらは俺が『炎魔法が使える奴を優遇する』とか言い出しそうでな。俺は魔法なんてなくても、お前の技術を認めていたよ」
「本当……ですか?」
「嘘は言わん。俺を超えているのも事実だ。……これは役に立つか分からないが俺からの推薦状だ。……まぁ、俺のなんてあまり効力はないと思うがな」
「師匠……」
「お前はもう、お貴族様の家で働ける力量がある。お貴族様の求人があったら、すぐに応募しろ。お前なら受かる。俺が保証するよ」
「師匠……!!」
「魔法が使えても、技術がなきゃ美味い料理は作れない。驕らず初心を忘れるなよ」
「……はい」
このあとニールはヘインズ家の料理人の求人を見つけ、新人として採用され、今では料理長を任されている。
※
「だからね。魔法はオマケなんだよ。結局何でも努力しないと身につかないのさ。魔法に頼り過ぎてダメになる人も多い。だから魔法の有る無しは些細な事なんだ。それに気づかないのが、テナージャ派とか中立のテナージャ派なんだよ」
「……さりげなく派閥をこきおろしたね」
「嘘じゃないし」
「それよりいいの? ニールの過去を私が知っちゃって」
「許可は貰ってるよ」
「……そう。……魔法があっても大変なんだね」
「シェリルはそのままで十分魅力的だから、頑張り過ぎないでくれよ?」
「……その時によるかな」
「シェリル……」
「私ね。身体が弱いからって区別されるの、本当は大嫌いなの。負けず嫌いだから努力するのよ。……でも疲れたら、なるべく訴える様にする」
「そうして」
「フィランダー。それよりスープを……」
「あ、ごめん」
フィランダーは私にスープを食べさせ終わったあと、ユーインに連れていかれ職務に戻った。




