05 出会い
私はこの掛け合いがいつ終わるんだろうなと言う目で眺めていると、ダーシーさんが気づいてくれたのか私の方を見て言った。
「せっかくの食事が冷めちゃうから、そろそろ頂きましょう」
「そうですね」
この国の貴族は目下の者から食事に手をつけてはいけないという暗黙のルールがある。目下というのは身分の時もあるが、騎士団の場合は役職であったり先輩であったりする。
なので私はようやく昼食にありつける事ができてホッとしていた。
食事を摂りながら会話をしていると、ダーシーさんの旦那様の話になった。
「女ものの香水の匂い……ですか」
「しかも毎日……」
ビルは興味なさそうに真顔で、ミックは話を聞いて眉を顰めて聞いていた。ただ、二人とも周りを気遣って小声になっている。ダーシーさんの旦那様は同じ騎士なので、この食堂で聞いていたらと思うとゾッとするのだが、ダーシーさんはしれっとした顔で話す。
「ダーシーさん……」
「ん? ……あぁ。大丈夫よ。旦那はしばらく外だから」
「……そういう問題でしょうか?」
「だって、男の意見も聞きたいし……」
そう言って前に座っている二人を見ると、ダーシーさんは真剣な顔を作って聞いた。
「毎日香水つけて帰ってくるって事は……浮気よね?」
すると二人の男はきょとんとした顔をしてお互いに目を合わせる。
「それは……何とも……」
「聞き込みの可能性もありますからね」
「それが毎日よ? おかしいと思わないの?」
「俺、旦那さん知ってますけどそんな人じゃないですよ? ダーシーさん一筋って人ですし」
ダーシーさんはそれを聞いてムスッとした顔になってしまった。「え? それを言われて、どうして?」と思った私は口を開いた。
「ダーシーさん? どうしてそんな顔を?」
「……私だって疑いたくないわよ。でも毎日そんな匂いさせてたら……疑いたくもなるわ」
微妙な空気になってしまったのを打ち破ったのはビルだった。
「まず、本当に浮気をしているのか、確かめるべきですよ」
「そうそう。本当に誤解かもしれないですし……」
男二人がそう言うとダーシーさんは口を尖らせる。
「……男はそうやって男の肩を持つんだから」
「ダーシーさん。ジェネ様に手紙まで書いてもらったのですから、今は信じましょう?」
私の言葉に男二人は目を丸くした。
「ホリー。手紙って?」
「旦那様の上司宛に『誤解を解くように』ってジェネ様が手紙を書いてくださったの。この後届けるんだ」
「なら途中まで一緒に行こう」
ビルが嬉しそうに微笑むと、ミックは引きつった顔になる。
「ダーシーさん。王族の力も借りたんですか……」
「持つべきものは優秀な主人よね」
「……なんか、すごいですねー」
棒読みのミックに、ダーシーさんは笑みを浮かべたままだった。
食事が終わるとミックとダーシーさんが同時に立ち上がる。
「え……もう?」
「食べ終わったし、あとはお二人で」
「俺も」
「邪魔する気はない」という顔で二人は一緒に食堂を出て行った。
「俺らはもう少ししたら行こう」
「ビル。私より早く居たからもう行かないといけないんじゃ……」
「ちょっとくらい平気だよ」
「本当かなぁ」と疑ったが、上司に気に入られているビルだったら大丈夫かと心の中で納得した。
そして数分後。
「そろそろかな」
「行こっか」
私達は同時に立ち上がった。
「隊舎に入るのいつぶりだっけ」
「王族警護は別に部屋があるもんな」
私が所属する王族警護隊は、隊舎内に部屋はない。その代わり王族の方々のお住い側に部屋があるのだ。私がここを歩くのは何年振りと言っても良いくらい。
確か新人の時以来で、あの時十六だったから……四年振り?
「懐かしい。新人の時はよく一緒に通ったよね」
「ちょっとだけな」
ビルは不満そうにすると、思い当たる事があった。
「そっか。ミックとは最初から一緒だったけど、ビルは違ったっけ」
「俺も幼馴染だったら……!!」
「でもミックのお陰で知り合えたでしょ?」
私とミックは領が隣同士の関係で、幼い頃からよく顔を合わしていた。同い年で目指す場所も一緒だったため、よく剣の鍛錬を二人でしていたのを覚えている。
騎士団に入団する時、学園で一緒だった女騎士志望の人達とはなぜか馴染めなかった私は、ミックと一緒に過ごす事が多かった。そんなミックが新人教育終盤の時に引っ張ってきた相手がビルだったのだ。
「ビル。俺の幼馴染のホリーだ。ホリー、こいつはビル。顔だけじゃなく剣術もなかなかだぞ」
連れて来た時は目を思わず見開いてしまった。なぜならビルは、当時謎に包まれていた人物だったから。
それが私とビルの初めての出会い。
まるで王子様の様な容姿をした彼も、初対面は私と同じ顔をしていた。




