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08 怒った理由



 フィランダーは私をエスコートしながら私の部屋の方へと向かう。


「応接室とかじゃないの?」

「それも考えたんだけど、やっぱりまずシェリルには部屋に慣れて欲しいからね。ソファーもあるし」


 私の部屋に入ると二人で話すためソファーに座ると、フィランダーはなぜか対面ではなく私の隣に腰を下ろした。


「え!?」

「だって夫婦だし」

「……まだ結婚していません」

「でも婚約はもうしているんだよね。だからくっついても問題なし」

「私は気にするので対面にお座りください」

「え~……」

「……」

「わかったよ……」


 苦笑いしてフィランダーは渋々対面に腰を下ろした。







「……手紙の件よね。あれには侍女が来れない理由が書いてあったの」

「来れない理由?」

「……私の侍女がね、妊娠してベッドから動けない状態なんだって」

「え……それは……」

「普通だったら喜ぶけど……私から見たら誓約違反だったのよ」

「誓約?」

「そう。その侍女が結婚する時にアストリー家が交わした誓約」


 私専属侍女という事は将来的に嫁ぎ先に来てくれる侍女という事でもある。なのでお父様が誓約書を作成したのだ。

 テナージャ人やテナーキオ人なら魔力縛りの誓約が可能だが、シランキオ人は魔力がないためただの紙に誓約を交わす。それでも効力はあり、違反すれば誓約書に書いてある内容を実行に移すことも可能なのだ。

 アストリー家と侍女とその旦那の間で決められた誓約は、違反すると最悪アストリー伯爵家から追放出来るというものだった。


「それが……妊娠?」


 私が縦にうなずく。


「彼女達が結婚する時に『子作りは私が二十歳になってから』って条件を出したの。……私は身体が弱い上にシランキオ人でしょう? 将来はテナージャ人かテナーキオ人に嫁がせたいって父が言うからそういう条件を出したのよ」

「それは……」

「彼女は私の二つ上だから、そこまで待っても十分産めるわ。……正直不安だったのよ。私は魔力がないから嫁ぎ先で嫌がらせされるんじゃないかって。しかも私は身体が弱いから、嫁ぎ先で無視されたり、食事を抜かれたり、放置されたらすぐに天に召される気がして……」

「そんな事しないよ! でも召されるって……」


「大げさな」と口にするフィランダーに私は苦笑いを浮かべた。


「……フィランダーが思っているより、この身体は厄介なのよ。熱を出しても薬じゃ少し楽になるくらいだから、根気よく看病してくれる相手が必要だったの。……この前の建国パーティーの後なんて一週間も寝込んだから余計にね。……いつもは二、三日くらいなのに」

「え……そんなに?」

「そうよ。だから、私の行動パターンを把握している侍女に側にいて欲しかったの。ここは優しい人ばかりで安心したけれど、彼女より私の事を知らない。私の侍女の旦那はその誓約を知っていたにも関わらず、彼女を唆して妊娠させたの。最悪のタイミングでね」


 そう。まるで計った様に。


 侍女の旦那は私に着いて行くのを心の底では反対していたのだろう。だからと言ってこれは誓約違反でもあり、アストリー家としては裏切りでもある。しかし侍女の様子を見ると追放とまでは出来なかった。なので、お父様は唆した旦那を執事から下男に降格させる事しか出来なかったのだ。


「気付いた時には手紙を握り潰してた。……もう過ぎた事だけど、どうしても許せなかったの。……こんな私で幻滅した?」

「……いや。当然だと思う。契約違反を犯したのは彼だ。……それに俺にも罪はある。『婚約』のままにしていれば、君はまだ学園で友人達と一緒にいれたし、心の準備も出来たと思う。その機会を奪ったのは俺だ。だからその使用人を許せとは言わない」

「……てっきり『ガッカリした』って言うと思ったのに……」

「言わないよ。俺は本気で君に惚れているからね」

「……貴方の美的感覚を疑うわ」

「俺は見た目だけで人を選ばないだけだよ」

「よく言う……」

「本当だって。……まだ俺が遊び人って信じてるの?」

「軽薄そうな人が嫌いって言ったでしょ」

「……認めてもらうのはまだ先のようだね」


 困り顔になるフィランダーが小さくため息をついてから、真剣な顔に変わった。


「シェリル。結婚式の事なんだけど、急遽、一ヶ月後に行う事が決まった」

「知ってる。昨日ネルから聞いた。ついでに明日ウェディングドレスの試着がある事も」

「……」

「フィランダー。貴方、黙っている事がまだあったのね。こんな事なら馬車の中でもっと根掘り葉掘り聞くべきだったわ」

「すみませんでした!!」

「それで? あと何を黙っているの?」

「そ……それが明後日から一週間くらい、俺は主要の領主達を訪ね歩かなければならないんだ。しばらく留守にするけど、使用人達にはシェリルに良くするように言っておくから、君の負担になる事はないと思う」

「……理由を教えてくれる?」


 私の目が怖かったのか、フィランダーはどんどん小さくなった。








 今回の私との結婚はネルが言っていた通り、中立のテナージャ派からテナーキオ派に移るというもの。下位の貴族が移るのにここまでする必要はないのだが、ヘインズ家は貴族の中でも二番目に上位の爵位を持つ侯爵家。しかも騎士団長の家がテナーキオ派に移るという事は騎士団の上下関係にも関わってくるそう。


 加えて私というシランキオ人特有の身体の弱い女性との結婚。そんな女性との結婚には特別配慮があるのだという。


 どちらにせよ事前に挨拶に行かなければならないのだ。


「普通結婚式の時は参列者に一人一人挨拶をしなければならないんだけど、そんな事をしていたら身体の弱い女性は体力が持たないんだ。だから、当日はそれを免除する事ができる。その代わり事前に挨拶しに行く必要がある。それに今回は同じ中立派ではあるけど、中立のテナージャ派からテナーキオ派に移るからその挨拶もあって……」

「私も行った方が……」


 するとフィランダーは横に首を振った。


「シェリルが行くと攻撃される可能性もあるし、かなり過密スケジュールで動くつもりだから体力が持たないと思う」

「分かった。留守番してる」


 それを聞いて私は大人しく引き下がった。






「私との結婚はかなり大変なのね。……お世話かけます」

「いや! こちらこそ無理言ってるから。それに、結婚式にはアストリー家以外のシランキオ派は今回は出席出来ないんだ。その事も併せてごめん」

「もっと簡素な結婚式と思っていたから構わないです」

「簡素?」

「ほぼ身内しか居ない結婚式だと思ってたの」


 その言葉にフィランダーが固まった。


「シェリルとの結婚はもっと大々的にやる予定だったんだよ。うるさい外野が居なければもっと呼べたのに!」

「そうなの?」

「あぁ。君の同級生達を招待する事も考えてはいたんだ。なのに派閥問題がうるさくって……」

「あー……確かに呼びたかったなぁ……」

「その代わり結婚式が終われば、シランキオ派の家も呼べる様になるから、来年の春のうち主催のパーティーにシェリルの友人のバーリス伯爵令嬢も呼べるよ」

「エイダも呼べるの?」

「あぁ。問題ない」


 それは嬉しい。またエイダに会える!!


 フィランダーとの結婚も悪くないとこの時初めて思った。




手紙を握り潰した理由は明かされましたが……。


ちなみに侍女の旦那はアストリー家で針のむしろ状態です。

その描写を書くかは決めてないためここで言っておきます。


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