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04 悩み




 いつも通りの勤務の日。

 その日の私は、少し調子が悪かった。


「ホリー」

「はっ……はい!」


 私は慌てて声がする方へ向くと、真っ直ぐで美しい黒髪に猫目の綺麗な美人がそこに居た。シランキオ王国王女、ジェネヴィーヴ様である。


 ここは王女ジェネヴィーヴ様の部屋。私達女騎士は、本来部屋の外で見張っていなければならないのだが、ジェネ様たっての希望で部屋の中で守っている。


 なぜ部屋にいるのが侍女ではないかというと、彼女の侍女は皆母親並みの年齢で話が合わないのだ。しかも若い人をあてがおうとすると本人が全力で拒否をする。


 「だって皆、お兄様狙いなんだもの!」と王太子狙いの令嬢にうんざりしているご様子だった。


 なので侍女はお茶出しやお昼の時以外は隣室に待機している。







 そんな王女ことジェネ様は、扇子で口元を隠しながら目を悪戯に細めた。


「私の騎士なのに、ぼーっとしていたの?」

「申し訳ございません、ジェネ様」


 私が謝罪すると、もう一人が白状した。


「それは私のせいです、ジェネ様」

「ダーシー……さては、連れ回したのね」

 

 呆れ顔のジェネ様は、私の先輩騎士に目を向けた。

 背が男性並みに高く、緩いウェーブの黒髪を高いところでくくっている女性だ。ダーシーさんはジェネ様に指摘されて、バツの悪い顔を作る。


「……最近、旦那が女性の香水の香りをつけて帰ってくる事が多くて……それで喧嘩に。……昨日は……ホリーに愚痴を……」


 内容が内容なだけに、一瞬苦い顔をしてからジェネ様は口を開く。


「……愚痴を言うのは咎めないわ。けれど、連れ回すにしても限度というものがあるでしょう? 皆、貴女ほどお酒は窘めなくってよ」

「はい。反省しております」








 昨日、私はダーシさんと久々に飲みに行った。次期子爵の旦那様と結婚してからは、飲む機会がめっきり減っていたので嬉しかったのだが……


「でね! 香水つけて帰ってきた旦那が言うのよ! お前には関係ないだろうって。だったら潔白って証明してって言っても、口籠るし……。これ、やっぱり浮気よね?」


 がっつり後悔していた。


「……本当に、浮気ではないのでは?」


 ダーシーさんの旦那様、ベンサム次期子爵も騎士団に所属している。女騎士としては、男に匹敵するほどの腕前を持つダーシーさんにベタ惚れで有名な人だから、浮気は考えにくい。


「……それが毎日よ? それでも?」


 つり目をさらに釣り上げてこちらを見るダーシーさんが恐い。


「え……毎日、ですか?」

「そうよ。どうして毎日、そんな匂いつけてなきゃいけない訳!?」








 よくよく聞くと、ある日帰ってきた旦那さんに部屋で抱きついた時にダーシーさんは匂いに気づいたらしい。


「貴方!! この匂い……女性ものの香水じゃない!? 誰につけられたの!!」

「え!? ご……誤解だ、ダーシー!!」

「誤解? なら潔白って証明出来るのよね? どうなの?」

「そ、それは……」

「私より魅惑的な人がいたのかしら?」

「それはない!! 君が一番だ!!」

「ならその匂いは何て説明するの!!」


 ……と口論になったそう。昨日はそんなダーシーさんと何軒も回って夜を明かしたのだ。








 その話を聞いて、ジェネ様はさらに呆れてしまった。


「本当に誤解かもしれないでしょう? ……仕方ありませんね。ちょうど次期ベンサム子爵の上司の方に聞きたい事があったの。手紙にその事も書くわ。誤解を解く様協力してあげてってね」

「ありがとうございます!! ジェネヴィーヴ王女様!!」

「そうしないと、ホリーが潰されるわ。私も馴染みの女騎士がいないと困るのよ。ベンサム次期子爵夫人」

「……はい」

「私のわがままで結婚後も女騎士として護衛してくれるのは感謝しているわ。でもね、貴方も一応貴族夫人なのだから、どっしりと構える事も大切ですよ」


 そうお叱りを受けて、ダーシーさんと私は昼休憩に入ったのだった。







 ダーシーさんと一緒に食堂へ向かうと、そこには仲良く並んで座っている二つの茶色頭があった。すると片方の茶色頭が動いて、私と目が合う。


「ホリー」

「ビル」

「空いてるから、こっち来な」


 ビルが対面の席を差しながら言う。私達はトレーに乗った食事を持ってビル達の下へ向かった。


「私も良い?」

「どうぞ、ダーシーさん」


 私より三年先輩のダーシーさんも、二人とは顔見知り。一応断りを入れてくれるのは、私たちが同期なので気を遣ってくれているのだ。

 当然とばかりにダーシーさんはさっさとミックの対面に座り、私にビルの対面を譲ってくれた。やっと席に着くと、じっとビルに見つめられる。


「ホリー。なんか……疲れてない?」

「あ、さっすが彼氏。分かるんだ」

「それ、ダーシーさんが答えるんですか?」


 すかさずツッコミを入れたのはミックだった。


「ごめんね。実は昨日連れ回しちゃってさ」

「うわっ! ダーシーさんの地獄の酒巡り」

「大丈夫か!? 休んで良かったんだぞ」

「ちょっと何~? すこーし飲んだだけじゃない。手加減したもん」

「可愛く言っても無駄ですよ。飲み会で最後まで飲み比べして余裕で残っている人が何言ってるんですか」


 意外と本気でビルがダーシーさんを非難する。ダーシーさんは片手を顔に寄せて、うっとりとした表情で口を開いた。


「お酒って……いくらでも飲める美味しいジュースよね?」

「そんな人は僅かです」


 呆れた顔でビルがうな垂れた。




※登場人物紹介


名前 ジェネヴィーヴ

年齢 20歳

容姿

・髪 黒のストレート

・瞳 黒

・体型 Cカップ

・顔 猫目の綺麗系美人 

・身長 158cm



名前 ダーシー・ベンサム

年齢 23歳

容姿

・髪 黒のゆるウェーブ ポニーテール

・瞳 黒

・体型 Dカップ がっしり

・顔 つり目にそばかす 貴族の中では平凡

・身長 170cm



名前 ミック・ゴレッジ

年齢 20歳

容姿

・髪 茶のストレート

・瞳 茶

・体型 がっしり

・顔 精悍な顔 貴族の中では平凡

・身長 187cm


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