08魔石の譲渡禁止令
「何だ……こりゃ?」
俺は驚きでぽかんと口を開けた。
「何だとは何ですか!」
「なんかこう、焚き火でもするの? みたいな?」
「失礼ですねぇ! まぁ、でもその通りですけど」
エリサの『家』は太めの木の横に、ただ葉っぱを重ねて寝床を作っただけ、というようなものだった。屋根も壁もない。
「よくケモノに襲われなかったな」
「ケモノ?そんなもんいるんですか?」
「ああ。何回もやべぇのに会ったぞ。この辺りはいないのか?」
「僕は見てないですね」
それは素晴らしい。安心して眠れるっていうだけで天国だ。
「それはいいな。食い物はどうしてた?」
「川に魚がいるのでそれを捕まえってたのと、この辺にある木の実を食べてました」
「水は?」
「近くにきれいな湧水があるんですよー」
食料もある、と。
「翔一、しばらくここに滞在しないか?」
「ここに?」
「ああ。なんせ、ケモノが出ないってだけでも素晴らしい」
「水源もあるし、か。しかし、ここにずっといても、しょうがなくないか?」
「それなんだが、俺も考えたんだ。移動するにしても、もっとレベルを上げたほうが良い、ってな」
「なるほど。危険があるかもしれないしな」
「当然、有ると思ったほうが良い。そのためにはもっとステータスを上げて、使える魔法も増やさないと」
「魔法!? 魔法あったんですか?!」
エリサが魔法というワードに反応し、軽く飛び跳ねた。カワイイ。
「おう。エリサは見つけてないのか?」
「僕はまだです。どこにありました?」
「俺は石の中で見つけた。木の中にもあったな。どうやらそういう何かに埋まっているものらしい」
「ほぇ~そうなんですね! で! で! どんな魔法です!?」
「俺のはバクテマ。2キロ四方をぶっ飛ばす魔法。翔一のはホイアル。治癒魔法だ」
「え~!! バクテマってヤバくないですか!?」
「ヤバいんだけどな。使えん。MP不足でな」
「なんだぁ。それじゃ宝の持ち腐れじゃないですかぁ」
「うっせぇなぁ! だから使える魔法を探そうって言ってんの!」
「あ~なるほどぉ」
エリサはポンと手を打った。それもまたカワイイ。
「エリサはレベルいくつだ?」翔一が言った。
「レベル? さぁ? 知らないです」
「ステータス見てみろよ」
「どうやるんです?」
「なんだ、聞いてないのか? ただ『ステータス』って言うだけだよ」
「ステータス」
エリサのステータスウインドウが開く。エリサは「わぁ」と声を上げ、目をキラキラさせている。カワイイ。
レベル 1
HP 50
MP 50
筋力 5
体力 5
敏捷性 5
知力 5
精神力 5
魔力 5
運 50
「ちょ! おま! 運に全振りかよ! ピーキーすぎんだろ!!」
「いや、思ったんですよ。人生なんて所詮、運ゲーなんですよ」
「いや、コイツ、マジかよ!!」
「異世界転生したら、ギャンブルで食っていこうって。それで見た目美少女ならもう、勝ち組でしょ?」
冷静になると、エリサの言うことも一理あるかもしれない。俺はすっかりRPGをやるつもりになっていた。けどこれは、人生なんだ。別に戦って、魔王を倒すってわけじゃない。生活して、生き抜く人生ゲームなんだ。
「まぁ、それも人それぞれか……」
極端すぎて呆れはするが、他人様の生き様にとやかく言う権利はない。
「銀~!翔一~!」
川にて魚獲りに興じていた俺たちのもとにエリサが駆け寄ってきた。手を振りながら満面の笑みだ。カワイイ。
「おう。どうした?」
「見てください~ホラぁ!」
そう言って差し出す彼女の手には光る石が握られていた。
「これは! 魔石じゃないか!」
「おお~! やっぱこれがそうなんですねぇ!」
「良かったな! どこにあった?」翔一も他人事ながら嬉しそうだ。
「いつもの木の実を割ったら、中に入ってたんですよ~」
「ほ~! やっぱ何かの中にあるんだな。じゃ、早速使ってみなよ」
「それなんですけどね。これは銀にあげようかと思って」
「へ? 俺に? 何でだ?」
「えへへ。だって銀、魔法使いなのに、使える魔法ないじゃないですか」
「うっ」
「僕はMPも低いし、だったら銀が使ったほうが良いって思ったんです」
「そっか……優しいな」
俺はエリサの思わぬ気遣いにグッと来た。ちょっとウルッとしてしまったほどだ。まったくカワイイ奴め。
「あれ~? まさか、泣いてます?」
「ちっ、ちげぇよ!」
「だっはっは! まぁ銀! 良かったじゃねぇか! 貰ってやんな」
「ああ。エリサ。ありがとう」
「うふふ。どういたしまして」
『はい! ちょっと待ったぁ!』
「うぉ!」
「あっ! 神様だ」
また突然の出現に俺は驚いてしまった。みんなにもヤツの声が聞こえているらしい。
「今度は何だよ!」
『いや~麗しい友情! 感動のシーン! なんだけどさぁ。それ、禁止にしようと思って』
「それ、とは?」
『魔石の譲渡』
「はぁ!? 何でよ!」
『いや、今のシーンは良かったんだけどさ。考えてみ? そんな綺麗な話ばっかりじゃないと思わない?』
「というと?」
『鈍いなぁ~。そんな譲り合いみたいなのばっかなら良いけどさ、奪い合いだって起きうるってこと!』
なるほど。それは言えてる。今はまだこの3人だけだが、もっと人が増えればそういうことはありうる。取り合い、奪い合い、横取り、盗み……。貴重な品だけに、間違いなく、いずれは起こるだろう。
『あと、ネットオークションで転売したりぃ?』
「んなもん、この世界にねぇだろ!」
『この先はわからないじゃん? でさ、そういうのイヤだから。禁止ね』
「まぁ。お前がルールだからな。しょうがない」
『おっ! 物分りが良いねぇ。で、今後、魔石は見つけた者の所有物となって、譲渡は不可となるんで、よろぴこ~!』
「はいよ!ったく。なにが『よろぴこ~!』だっつの。なぁ?」
「え?『よろしくねっ☆!』でしたよ?」
「いや、『よろしくたのんだぞ!』だったが?」
相変わらずどういう仕組みか謎だが、それぞれに神のあり方は違うらしい。もう、それはそういうものとして納得するしかあるまい。
「ま……まぁ、そういうことだし、エリサ。早速それ使ってみろよ」
久々の魔法取得。今度はどんな魔法が出るか……。