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全員転生  作者: 加藤カトル
1章 転生
6/29

06初川下り初レベルアップ

 出立前夜。


「食料、あれで足りるかなぁ?」俺は寝ずの番をしている翔一に話しかけた。

「なんだ、銀。まだ起きてんのか?」

「ああ。なんか緊張してな」

「ま、俺もだ」


 緊張、というか不安があるのはしょうがない。ここでの生活は、なんだかんだいって安定してきていた。そこを離れるリスクを負って、移動した先に何があるかはまったく予想できないのだ。一か八かの大冒険。そりゃ眠れなくもなる。


「人がいればいいな」翔一は、俺を安心させようとしてくれているのだろう。希望のあることを言った。

「ああ。男二人じゃな。むさ苦しくていけねぇ」

「おいおい。そりゃ俺のせいか?」

「ん? そりゃそうだろ。ゴリラみたいな見た目して」

「そりゃヒデェぜ」


 俺たちは声を上げて笑った。

「でもさ、なんでそれにしたんだよ。見た目は自由に決められたのにさ」

「ひでぇ言い方だなぁ。俺はコレに憧れてたんだよ」

「プロレスラーだっけか?」

「ああ。なんせ体が弱いのが俺のコンプレックスだったからな」


 転生してからこっち、こうして日々の生活には苦労させられているが、なりたい自分になれる、というのは大きなメリットだった。

「銀は? 何かモデルでもいるのか?」

「俺? 俺はゲームキャラだな」

「ほ~。なるほど、確かにそれっぽいな」


 なんせ、ゲームの中の俺は最強だった。日々、学校にも行かず、没頭していたのだから当たり前だ。他のサーバーまで俺と、俺達のギルドの名前は知れ渡っていたくらいだ。それが現実になるかも、とワクワクしたのは事実だ。だが、実際はそれほど甘くはなかったわけだが。


「ま。明日は早い。とっとと寝とくわ」

 翔一は返事をよこさない。おや、と思うと寝息が聞こえてきた。おいおい、一体いつの間に寝たんだよ。ったく、俺も早く寝ないと。

 俺は左手を枕代わりに横を向き、まぶたを閉じた。

「いや待て! 見張りはどうすんだよ!」



 幸いにもこの川は流れは穏やかだ。だが、茶色く濁っていて底が見えない。俺たちがいた場所の川幅は約10メートルほど。川の中央あたりでは足がつかないほどの水深があった。

 万一転覆したとしても、泳げば難なく川岸まで行けるだろう。だが、まったく川底が見えないこの状況であれば、荷物は諦めねばならない。絶対にそうなることはゆるされない。

 俺たちは細心の注意を払ってゆっくりと下っていった。

 しばらく代り映えのしない景色が続く。


 その時だった。


『ちゃっちゃら~~~ん!』

「うお!」

「なんだ!?」

『ハロー。お二人さん。神だよ~』

「今度はなんだ!?」

『やったねぇ。二人共、初のレベルアップだよ!』


「「なに!?」」

 レベルアップと聞いて俺たちは顔を見合わせた。

「なんだ? なんで上がったんだ?」

 上がるのは大歓迎だが、一体何がきっかけだったのか。俺は不思議に思って聞いた。


『レベルを上げるには様々な経験を積む必要があるんだ』

「それは、魔物を倒すとか?」

『魔物~? あっはっは! 流石にそんなもんはいないよ!』


 そうか。ゲーム要素あり、と言ってもここはどこかの惑星なんだった。現実に魔物はいねぇか。

「じゃ、じゃあ危険生物とか?」

『それも、ある』

「も?」

『そそ。様々な経験を積むって言ったでしょ? 今回、君たちは手作りでカヌーを作ったこと、そして初の川下りに出たこと。それがレベルアップにつながったってことだよ』

「なるほど。そういうことか…」

『その調子で、色んなことにチャレンジすると良いよ! じゃ、上げるステータスを選んでもらおうかな』


 たしか、1レベルで貰えるポイントは1だったな。どれにしようか悩むところだ。

「俺は、筋力で!」

「早っ! ちょっとは悩めよ!」

「悩む必要などあるか? 男は筋力よ!」

 そう言って翔一は大胸筋をピクつかせた。何なんだコイツ。


 俺は……肉体系にすれば確かに便利そうだ。というか、そうしなければ命の危険すらある。しかし、魔力を上げなければ、せっかくの魔法が使えない。どうすれば……?


『悩むねぇ。早く決めちゃおうよ~』

「うっさい! こっちは命がけなんだよ!」

「銀よ。迷ったら筋力だ! 筋肉こそ正義だ!」

「お前も黙れ!」



「んんんんん……魔力!」

『おっけー! 魔力だね!』

「銀! 正気か!? 魔力など今のところ役に立たんぞ!?」

「今は、そうかもな。でもお前のホイアルはどうだ?」

「ん? ホイアルか? 俺はまだ使ったことはないが……」


 幸運にも、俺たちは今の所、怪我も病気もしていない。したがって、ホイアルを使う必要もなかった。

「その魔法な、ちょっとした風邪くらいなら治せるらしいぞ。なぁ? 神よ」

『そだよー』

「ほぅ。そりゃ便利だな」


 翔一は知らなかったらしい。相変わらず、神の説明は雑だ。

「考えてみろ。風邪薬なんて、この状況で作れるようになるまで一体何年かかると思う?」

 この星は知的生命がいない。ということは文明がないということ。風邪薬などという高度なものは、俺達が生きている間は無理かもしれん。


「そうか……なるほどな」

「そのホイアルも重要だし、それくらいの役立つ魔法が今後見つかるかもしれないんだぞ? その時、使えなかったら意味がないだろう?」

「確かに」

「だから、俺は魔力に全振りする。翔一は肉体系を任せる」


 そうやって役割を分担してこそのパーティーだ。

「うむ! 筋肉は俺に任せろ!」

『お~。方向性が決まったねぇ~。そいじゃ、神はまた観察にもどるよ。バイバ~イ!』


「チッ! 相変わらず、軽いノリの神だぜ」俺は吐き捨てるように言った。

「は? 軽い? どこがだ」

「え? 軽いだろ。今だってバイバ~イ! だぞ?」

「何を言っている。さらばじゃ! だっただろ」

「「へ?」」


 またしても俺たちは顔を見合わせた。どうも話が噛み合わない。

「まて、神はどんな見た目だった?」

「そりゃお前……あれ? どんなだっけ? 銀も見たよな?」

「最初に説明されたとき確か……駄目だ。俺も思い出せん」

 確かに見たはず。その記憶はある。だが容姿が全く思い出せない。


「でも、ガキみたいな声で軽いノリだよな?」

「いや。ジジイみたいな、しゃがれた声だぞ」

 全員に同時に話しかけている、確か神はそんなことを言っていた気がする。それぞれに違う神像があるということか? わけがわからなくなってきた。


「ひょっとして、あいつ、マジで神なのか?」

「いや、銀よ。それは疑いようがないだろう」

 これほどの所業。神以外、考えられないということか。


「たすけて~~!」


「「ん?」」

 今、何か、声が聞こえたような? てか絶対、聞こえたぞ! 俺たちはキョロキョロと辺りを見回した。

「おっ! おい! 銀! アレを見てみろ!」

 翔一は下流の方を指差している。

「ん……? あれは……ひょっとして人か?」


 20メートルほど先の川辺。そこに何やらバシャバシャと水しぶきが立っている。その中に、助けを求める二本の白い人間の腕が見えた。

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