05魔法とステータス
俺は早速、魔石に魔力を込めた。この魔力と言うやつの存在には、転生してすぐ気がついていた。体を流れる謎のエネルギー。いままで無かったものが急に現れたのだから、最初は驚いた。
それは体の中心、胃の辺りから湧き出るような何かだった。それを操作し、手から放出する方法はなんとなく身につけた。初めはその辺の物に魔力を込めてみたが、特に異変はなかった。分かったのは、あまりやりすぎると疲労するということだけだった。
「ようやくこの魔力が役立つ時がきたか」
俺は恐る恐る、魔石に魔力を流し込む。いきなり爆発とかしないだろうな、などと思っていると、なにやら頭の中に言葉が流れ込んできた。
『魔法名、バクテマ。魔法レベル10。自分を中心とした半径2キロメートル四方に強烈な熱波と爆風をたたきつける。消費MP900』
『うおおおお!』
「うお! なんだよ神か! どうした? 何驚いてる? ひょっとして、これ、すごいのか?」
『すげー! これ、僕の考えた最強の魔法だよ! こんなに早く出るとはなぁ。ユーアーラッキーボーイ!』
「え? そう? へへ。確かに、すごい威力がありそうだな」
『そりゃ~もう。範囲内の全てを吹っ飛ばすほどの威力だよ』
「え? その威力が2キロも届くっての?」
『そそ。ヤッベーでしょ?』
「ヤバすぎんだろ! んなもん、いつ使うんだよ!」
『あはは! でも消費MPもパないから、君じゃまだまだ使えないから安心して』
「MP? それってどこで分かるんだ?」
『ステータスって言ってごらん』
「ステータス」
言われた通りやってみると、目の前にボウッとウインドウが浮かび上がった。なんでこんな大事なこと、今まで言ってないんだよ……。
そこに書いてあるのがどうやら俺のステータスらしい。まさにゲームだなこれ。
レベル 1
HP 50
MP 250
筋力 5
体力 5
敏捷性 5
知力 25
精神力 20
魔力 25
運 0
レベルが上がっていないので、最初に決めた状態から変わっていない。
「なんレベルになればこの魔法が使えるんだ?」
『レベルが1つ上がるごとにポイントが1貰えるよ。それを好きなステータスに振ればいい』
「MPを上げるには?」
『MPは魔力値の10倍になる。だから今の君は250あるわけ。で、バクテマは900必要だから、あと65レベル上げないと駄目だね』
「レベル66にしてやっと使える魔法ってわけか……。レベルの上限は?」
『上限は設定してないよ~』
なるほど、理論上はどこまでも強くなれるってわけだ。
『でもさぁ。その間、魔力値しか上げないつもり?』
「そうだが?」
『極端だなぁ! それって結構、大変だと思うよ?』
悔しいが、一理ある。
魔法が使いたいが故のこのステ振りだったが、今のサバイバル生活を乗り切るには苦労しか無かった。
『もっと世の中の文明レベルを上げてからでないと。今は生きるだけで大変でしょ?』
「ああ。だが、使える魔法が見つかれば? 一気に俺の時代にならないか?」
『そりゃ、まぁ……』
「だったら俺はそれに賭けるぜ。せっかく魔法が使えるんだから、魔法を鍛えないとな!」
『ま~自分の人生、好きにしたらいいよ。それじゃ、がんばってね!』
「おい! 神! おい!」
チッ、行ったか。まだ聞きたいことがあったんだが……。
「おかえり、銀」
「ああ。実は、ちょっと報告がある」
「ん? どうした?」
俺は、さっきあったことを翔一に話した。
「ステータス。おー! 本当だ!」
レベル 1
HP 300
MP 50
筋力 30
体力 20
敏捷性 5
知力 5
精神力 5
魔力 5
運 10
翔一のステータスは俺からも見えた。他人からも見えるんじゃ、あまり簡単に出さないほうが良いかもしれない。
「なるほど、俺とは全く違う方向性だな」筋肉バカ、という言葉は飲み込んだ。
「実は俺も報告があってな」
「なんだ?」
「俺も魔石を見つけた」
「なんだと!?」
「邪魔な木を折ってたんだが、その木の中にあってな」
「なるほど、俺のイメージでは宝箱かなにかに入っているものだと思っていたんだが、どうやら自然に存在する物の中にあるものらしいな」
そうなると、探すのに苦労しそうだ。
「で、何の魔法だった?」
「ああ。ホイアルってんだが、回復魔法らしい」
「おお! それは良いじゃんか!」
「そうか?」
どうも翔一はピンときていないらしいが、この状況では回復魔法は重要だ。
「必要MPは?」
「ええと、10だな」
翔一のMPは50だから、5回使えるってわけだ。俺のバクテマより遥かに実用的じゃねーか。
「俺が怪我でもしたときは、頼んだぜ」
「任せろ。銀はその、バクテマだっけ? それは使わんでくれよ?」
「心配すんな。MP足らずで使いたくても使えねーよ」
俺もすぐ使える魔法を見つけねば。
そして数日後。俺たちは手作りのカヌーを完成させていた。
良い太さの倒木を見つけ、それをコツコツと削っていった。それはもう、気の遠くなるような作業だった。同様にパドルも作った。
水に浮かべる実験は無事成功。二人で操舵する練習をして、いよいよ明日、ここを離れて行けるところまで行ってみよう、ということになったのだった。