03中山翔一との出会い
せっかく転生したのだ。なんとしても生き残らねばならない。
だと言うのに、再びゴリラと出会ってしまった。しかも、今回は最悪なことに、バッチリと目が合ってしまった。
「ゲッ!」
声を出してしまったことも迂闊だった。これで余計な刺激までしてしまった。
ヤツは体のほとんどを草むらに隠していたが、顔だけをひょっこり出していた。草がガサガサ動きだす。飛び出して来る気か!?
戦うか? 逃げるか? 一瞬の判断を迫られれる。
一応、お手製の簡易ヤリは持っている。だが、これであんなデカブツと戦えるとは思えん。
ならば逃げるか?
しかし、相手はゴリラだ。足の速さで勝てるとは思えない。それに、肉食獣というものは逃げる相手を本能的に追うものだ。
万策尽きたー! と、思った瞬間だ。
「おい! そこにいるのは人か?」
「えええ!? ゴリラが喋ったぁぁ!?」
俺らが転生したのは知的生命体のいない星のはずだぞ。人語を解するゴリラがいるとは聞いていない。あの自称神、またしてもやらかしやがったか。
「おい! 誰がゴリラだ!」
「お前だよ! お喋りゴリラ!」
「よく見ろ! 俺は人間だ!」
え? 人間? 待望の、俺以外の人間かぁ!?
改めて草むらから出てきたソイツをじっくり見てみれば、たしかにゴリラより毛は薄いようだ。ヒゲはボーボーだが額から目の周り、そして鼻周辺には肌が見えている。
何より、お喋りゴリラはちゃんと服を着ていた。俺が最初に着ていたのと同じ、白いTシャツとジーパンだ。どうやらそれが初期装備らしい。こんな格好で大自然に放り出しやがって! もうちょっと、なんかあるだろう。
「おおお! よく見れば! あんた人間か!」
「そうだ。俺も初めて自分以外の人間に会えたよ」
お喋りゴリラはそういうと「わっはっは」と豪快に笑いながら近づいてきた。デカイ。2メートルはある。
異世界って、普通は美少女に囲まれるもんじゃないのか? ウハウハハーレムじゃないのか!? 最初に会うのがお喋りゴリラって……。
「お前、名前は?」
名前? そういやなんだっけ? なぜか元の名前を思い出そうとしても思い出せない。
『そうそう。せっかく転生だから、新しい名前で再出発してもらおうと思ってさ。元の名前は忘れてもらったよ~』
「うお! びっくりした! 神か!?」
『そうだよー。なんとか人間に会えたねぇ、このラッキーボーイ!』
「そのラッキーボーイはやめろ!」
『やめるよー。だから、自分で名前を決めてほしいんだ』
「名前を? 自分で?」
『そそ。カッコいいの考えてよ!』
そう言われても……どうしたもんか。
「おっさん、あんたの名は?」
「おいおい! 誰がおっさんだ! 俺らみんな、同じ18歳なんだぞ?」
「そうだけど、その見た目じゃ30代にしか見えんぞ」
「実際、俺が死んだときは35歳だったからな。まぁ中身はおっさんよ」
そう言ってお喋りゴリラはまた笑った。
「んで? 名前は?」
「俺は中山翔一だ。よろしくな!」
「普通の名前だな。それって元の世界の名前?」
「いや、やっぱり俺も元の名前は全く思い出せん。なんとなく思いついたんだ」
「そっか……」
俺の名前。
何にしよう? あらためて好きに付けていいって言われると、案外困るものだ。
「俺はまだ、考え中」
とりあえず、そういうことにした。
「ふむ? そうだな。焦って付けることもあるまい。じっくり考えれば良い」
翔一はそう言って腰に手をあて、うんうんと頷く。
「しかし、良いのが思いつくまで不便だしなぁ。とりあえず銀と呼ばせてもらおう」
「銀? ああ、髪の色か」
「うむ。随分変わった色にしたもんだ」
そうあらためて指摘されると恥ずかしい。俺の厨ニ趣味全開の見た目だからだ。
「おしゃゴリも随分と、ムキムキにしたもんだよなぁ」
「おい! そのニックネームは何だ?!」
「お喋りゴリラ、略しておしゃゴリ」
「それは分かってる! 中山翔一だと言っただろう! それは止めろ!」
だってなぁ。なんかあんまりにも普通だし。
「んじゃぁ翔一でいいか?」
「ああ。それで良い」
「翔一はどういうステ振りにしたんだ?」
「それは見ての通り、筋力に全振りよ!」
翔一はそう言うと、両手を肘から曲げ、力こぶを作ってみせた。
「おっさん、せっかく魔法が使えるってのに、筋力に全振りしたのか!?」
「筋肉こそ男の最高のファッション。そうは思わんか?」
知らん。
完全に知らん。
「あと、おっさんじゃねぇ! 同い年だ!」
「元年齢は35だろ? 俺は18だ」
「18ピッタリだったのか。危なかったな」
「ああ。運が良いんだか、悪いんだか」
「17以下はこれから産まれてくるらしいからな。それまでに、俺達は子供を育てられる環境を作ってやらないと」
確かに。翔一の言う通りだ。だが、生き延びるだけで精一杯の俺は、そこまでは頭が回らなかった。
「確かにそうだな。だが、まずはどっかに定住しないことには。環境もクソもないな」
「銀の言う通りだ。ここに来て、どこか住むのに適した場所はあったか?」
「いや、まったく。ケモノから逃げ回るのに精一杯だったよ」
「俺は洞窟を見つけた。ひとまずはそこに行かないか?」
「それは助かる。まだまともに熟睡できてねぇんだ」
ベッドをくれ、とは言わないまでも、ゆっくり眠っていられる状況ではなかった。夜行性の肉食獣だって、絶対いるはずだ。眠ることなど命取りになる。
「それは俺もだ。二人いれば、一人休んでいる間に見張ることもできるな」
そう。それができるのがデカイ。
俺たちは早速、翔一の住処としている洞窟へと向かった。