81 光の柱ー沙羅ー
「沙羅様、体調はいかがですか?」
心配そうに声を掛けてくれる、侍女のターシャさんは、塔から帰るといつも脹脛のマッサージをしてくれます。
毎日あの階段を昇るから、鍛えられて筋肉痛も軽くなってきたけど、どうしても脹脛がパンパンに張っちゃうの。
「大丈夫です。あと一日でここの魔法陣は起動させられそうですし」
大きな大きな魔法陣は、起動させるのに必要な魔力量が多くて、結構な回数、注ぎ込まないとダメでした。
それで少し体調を崩して、皆に心配させてしまったの。
一つの魔法陣を起動させるのに、こんなに時間掛かってたら、結界を修復させるなんてどれだけ時間が掛かるのかなって、すごく不安だったな。
「明日に備えて、ゆっくり休んで下さいませ」
「マッサージありがとうございました。おやすみなさい」
ターシャさんは扉の向こうの部屋に待機してくれてるんだ。本当は部屋の隅で待機が普通なんだって。
でも部屋に人が居ると、なかなか寝付けない私のためにそうしてくれてるみたい。なかなかこっちの普通には慣れないなぁ。
「最近は少しずつ体力も魔力が増えて、魔法陣に込められる魔力量が増えてきてるみたい。もっと増えて早く魔法陣を起動させられるといいんだけどね。
今日も頑張ったからよく眠れそうです。明日も頑張ります」
この旅が始まった頃に、マットさんからもらった日記帳にこんな事を記して眠りについた。
今日は、朝からたくさんの信者さんが集まってるそうで、なんだか教会全体が賑やかです。
私は呼ばれたら出ていって、女神様に祈る様子を皆に見せる、と。そして寄付金を募るのよね。
まぁ、旅するだけでもお金がかかるんだから仕方ないって、最近は割り切ることにしています。
食費だってタダじゃないもんね。
なので、せめて、来て良かった、寄付して良かった、と思ってもらえるよう真剣に祈ります。
子供達が、
「聖女様、キラキラしてたよ」
って喜んでたから、良かったのかも。
毎日続いたこの階段の登り降りも、やっと今日で終わりと思うと嬉しくて。心なしかスピードも上がるような。
「こちらの魔法陣が起動しますと、次はセレスの町にある魔法陣になります」
司祭様もなんだか嬉しそうにしています。
「魔法陣が起動する瞬間を見れるなど、幸運ですので」
と言い、修道女の皆さんもにこにこしながら首を縦にカクカク振っている。
楽しみにしてくれてるのを感じて、私も少しだけワクワクしてきました。
「さぁ、聖女様、お茶をどうぞ」
儀式の前に、必ず戴くこのお茶は冷たくて香ばしくて。
美味しい上に、お腹がポカポカして魔力が出しやすくなる気がするから、飲むと「よし、やるぞ」って気合が入ります。
手のひらをグーパーグーパーさせてから、呼吸を整えて、窪みに手のひらをかざします。
お腹の中心から体を巡って指先へ、意識して魔力を流していきます。
「あ、」
スッと体から魔力が抜けていきます。
魔力が満ちて、魔法陣の大きな円が繋がりました。魔法陣は淡く光り、ゆっくりと回り始めます。
そしてそのまま1階の広間に降りていきました。
私もマットさんも、もちろん司祭様、修道女の皆さんも、手摺りから顔を出して見守ります。
回っていた魔法陣がピタッと止まり、床に定着したように見えます。そして、さっきよりもクッキリとした輪郭を描き、強い光を放ったのです。
「おぉ」
「あぁ」
それは光の柱でした。
キラキラと光り輝く柱は、天井の円錐形で光を束ねて、とんがった屋根の一番高いところにある、大きな魔石を通り真っ直ぐに天へと放たれたのです。
皆さん、しばらく口を開けたままで、光を見つめ固まっていました。
私も、なんだか感動して動けなかったです。
こうして、やっと1つ目の魔法陣を起動させることが出来ました。




