73 エマージェンシー、なのかな?
「ゲインです」
「入っていいよ」
部屋の中から返ってきた声は、想像したものより若くて軽い声だった。
勝手に村長さんとかを想像してたから、お爺さんぽい人が待ってるのかと思ってたんだな、私。
中に入ったら、もっと若そうな人がいてビックリしたんだけどね。
「やぁ、ゲイン君。お疲れ様」
そう言って、椅子から立ち上がった人は、驚くほど背が高かった。
見上げるくらいって、あれ、なんか前にもこんなことあったな。
「あれ、聖女ちゃん日本人じゃないの?」
「え、」
突然、日本人なんてワードが出たから肩がビクッってなっちゃったけど、仕方ないよね。
それよりも。
何でだか隣のリーさんが妙に緊張してる気がする。普段あんまり無いことだから、ちょっと、怖いんですけど。
私が気が付く程って、よっぽどじゃない?何が緊張させてるのか。
「うーん、おかしいなぁ。しずよちゃんが言ってたのと違うのかな?」
「あ、半分日本人です」
とりあえず、話が進まなそうだから、自己申告しとく。だって、なんか色々と知ってるっポイもんね。
「あー、そーゆーこともあるのか。なるほど」
そう言って、目の前の人はふにゃって笑った。デジャブ。ん?デジャブ?
「初代聖女様と同じ国から来てるハズだからさ、おかしいと思って。でも、それなら納得だね」
柔らかい雰囲気のその人は、私とリーさんに椅子を進めると、テーブルを挟んだ向いの椅子に腰掛けた。
リーさんが、
「結構です」
そう言って、座らずに私の側で立ったことには何も言われなくてホッとする。
リーさんの警戒心が、えらい剥き出しになってるような。え?そんなに危険な状況なの?
「あー、もうここまで来てもらったからさ、聖女ちゃんは逃げられないんだ。ごめんね?でもさ、危害を加える気はないから、少し警戒は解いてくれると嬉しいなぁ、護衛のリーちゃん。さて君は、どっちのリーかな?」
って目の前の人が言った瞬間、斜め後ろにいたハズのリーさんが、目の前で降参って言うように両手を挙げた男の人の後ろにいた。
ん?どーゆーこと?
「レオのとこの子って聞いてるよ。害はなさないから元の場所に戻ってよ」
えっと、目まぐるしい展開に、情報処理が追い付きません。待って、ちょっと待って。どーゆーことよ?
とりあえず。
今、私は聖女の里に居ます。で、目の前のこの人は、シオンさんと言って、お城の図書室の司書、レオナードさんの弟さんなんだって。
そして、この組織の長らしい。
それを知った時点で、リーさんがものすごーく怒った。
「隊長が裏切り者と言うことですか」
って。
なんでも、レオナードさん、あんな雰囲気の人だけど、国の暗部に関わるお仕事の人らしく、こうやって私を連れてきたことは、情報の漏洩だし、国に対するいろんな意味での裏切りなんだそうな。
あぁ、そうか。そもそも聖女召喚に巻き込まれた人がいるって事は、国家機密なんだっけ。
巻き込まれた時、鯰のおじさんは「捨て置け」って言ったから、教会的には私の存在が無かったことになってるって、バルトール殿下から聞いてるし。
んでもって。ここの人達って、国に内緒の組織なんだよね、多分だけど。
なんかさ、少しヤバいかもって、移動の途中で気が付いたんだ。
あの、たくさんあった、転移の魔方陣。明らかに国に認められてない魔方陣だった。
違法だよ?ヤバくない?




