71 石段は1200段? ―沙羅―
塔の中は、切り出した石なのか、形の整った岩なのか分からないけど、とにかく大きな物が綺麗に積み上げられて出来ているようでした。
いくつかの窓があって陽が入るからか、思ったよりは暗くなくて、少しホッとします。
入ってすぐ円形の大きな広間があるだけで。他には部屋も物も、何もなくただただ広い感じです。
建物自体は、筒状に吹き抜けていて、一番上の天井まで良く見えます。
壁に沿って螺旋状に階段があり、上へと繋がっているみたい。
「最上階に、魔力を注ぐための場所があるようですね」
護衛の人の後を、私とマットさんが進んで行く。何段あるんだろう、この階段。
しばらくして、ちょっと息が切れそう、と思った頃に、
「沙羅様、大丈夫ですか?」
マットさんが所々にある踊場みたいな所で止まってくれた。
「体力なくて、すみません」
一気に登ったつもりだったけど、入り口の真上ってことは、まだ一周しかしてないってことかぁ。あと二周ちょっともありそうなのに。
「この階段、ちょっと歩きにくくて。段差が低くて歩幅も狭いから」
「そうですねぇ。私は二段ずつ上がっていますから、気にならないですけど、沙羅様には微妙ですよね。先程から小動物の様で、可愛らしく思っていました」
私の言い訳めいた言葉に、マットさんがクスクスと笑って答えてくれました。
「しょ、小動物ですか?」
「はい、ちょこまか足を動かす様子が、可愛らしく微笑ましいかと」
後ろに続く、司祭様とお付きの女性の方たちも、微笑ましくこちらを見ている。
なんだか、恥ずかしいです。
何度か休憩を入れてもらい、なんとか最上階へ辿り着くと、祭壇の様な物がありました。
「聖女様、お茶をお入れします」
司祭様のお付きの女性たちは、テキパキと椅子や、テーブルを用意し始めました。
何でもバケツリレーの要領で、色々な物を運んでくるらしいです。
司祭様が、
「こちらのお茶は、結界を修復する際に、必ず聖女様が頂くお茶なんだそうです。何でも、血行を良くし、魔力の流れが整うそうです。普段は、私たちも儀式などの前に頂くお茶ですよ」
そう言って勧めてくれたお茶は、麦茶のような芳ばしい香りがして、しかも、わざわざ冷たくしてくれたから、すごく美味しかった。
「あ、本当だ。お腹の中心がポカポカします」
「では、早速始めましょう」
司祭様は祭壇の前に立ち、私では聞き取れない言葉の様な何かを発しました。そして両手を挙げて、叫びます。
「聖ヘレナ様に祈りを捧げます」
頭を下げ振り返り、私の前まで来ると、
「参りましょう」
と、私の手を引いた。
祭壇の前には両手を置くようなプレートがあって、どうやらそこに手を置き、魔力を注ぐようです。
手を置く前に、一度だけ横を向くと、マットさんがニコニコと笑顔を浮かべて立っていました。
「始めます」
自分に言い聞かせるように呟き、手をプレートに置き、お腹の奥を意識して、魔力を込めると、先程のお茶でお腹が温まっていたからか、いつもよりスムーズに、しかも多くの魔力が流れていくように感じます。
けれど、大きな力を発動させる魔方陣だからか、いつまでたっても満たせる気配がありません。
しばらく続けると、ようやく目の前の魔方陣の一部分だけですが淡く光りました。
「今日はここまでですね」
司祭様が「お疲れ様でした」と私に声を掛けてくれました。何でも、大きな魔方陣は1日どころか何日も掛けて、魔法を注ぐんだそうです。
光った一部分は魔力が残るので、「明日またお願いします」と言われました。
そうですよね。よく考えたら、そんなすぐに魔方陣を起動させられるわけないか。
マットさんが、下りもちゃんとエスコートしてくれたけど、なんだか降りきったら膝がカクカクしちゃいました。明日、筋肉痛になっちゃうかも。
これを毎日繰り返すなんて、足腰鍛えられそう。




