69 エスコートなんて ―沙羅―
いくつかの教会で休ませてもらい、何日もかけてやっと目的の教会にたどり着きました。
だいたい、召喚された国の形も大きさも知らないのに、他の国に来ちゃったものだから、今、自分がどこにいるのかなんて全然分かる訳もなくて。
向かってる先だって、何て言う国の中の何て言う街か、なんて知りもしない。
見せてもらった地図も、やっぱり日本の物とは違って、かなり大雑把な物だったし。
あ、知らないとは言っても、話としては聞いてはいるの。馬車の中での会話に上がることもあるから。
でも。この世界の言葉は、話せてるし意味も分かるんだけど、国名とか地名、人名もだけど、聞き慣れない音が多いからか、なんとなく聞き流してしまうばかりで。
いつか、慣れる日が来るのかな?
とにかく、日の明るい時間の内に、目的地である教会に辿り着くことが出来たので、この教会の司祭様に、早速案内をしてもらうことになりました。
「こちらの塔になります」
案内されたのは教会の敷地内に建てられた、3階建てとか4階建て位の高さの塔の前で。
何でも扉に魔方陣が組み込まれているらしく、普段は開けようとしても決して開かないんだとか。
「聖なる魔力の有る方にしか、開けられないと聞いております」
そう言って、ふいに扉の前に立たされた私は、なんだか心細く感じて。思わず助けを求めて周りを見渡した。
私の様子の変化に気が付いたのか、マットさんが司祭様に声を掛けてから、すぐに近くに来てくれて。
「どうやら手のひらをこの位置に触れさせるようですね。沙羅様、心の準備は大丈夫ですか?」
ドアノブの上に、装飾の無い四角くて平らな部分があって、ここに手のひらで触れればいいらしい。
マットさんがニコニコしながら手を翳す動作をして見せたので、私もちょっと落ち着いてその場所に手を触れたみた。
すると、魔力を吸われる感覚が、と思った時にはカシャンカシャンと扉の向こう側で、何か金属製の物が動いた音がして。
最後にもう一度カシャンと音がして、扉がスッと内側に開いた。
「おお、伝承は真実であった」
なんだか大げさに感動してる司祭様を見て、思わず笑ってしまったけど、仕方がないですよね。
開かずの扉が開くなんて、開けた本人だってわくわくするもの。
「沙羅様、足元が悪いといけないので」
そう言って、マットさんが左手を差し出してくれたけど、これはもしかしてエスコートってやつかしら。
今思い出してみると、馬車の乗り降りや、普段の扉の明け閉めの時にも、いつの間にかマットさんが手を差し出してくれてた気が。
子供の頃に読んだ、外国のおとぎ話に出てくる、王子様にエスコートされるお姫様なんて、ちょっとだけ憧れてたからね、意識すると恥ずかしいかも。
照れもせずにサッとエスコート出来るなんて、マットさんって意外と大人。
普段がふわふわしてるからか、すごくギャップを感じてしまった今日この頃でした。




