67 ある日のカテリーナ
ミレー様とのお茶会にて
「ミレー様はどうして様々な生活魔法をお作りになったのですか?」
これは私がずっとミレー様に聞いてみたかったことの一つだ。
だって、お姫様だった人だよ?不思議じゃない?
「そうですわねぇ。きっかけは、結婚かしら」
「結婚、ですか」
ミレー様の旦那様と言えば、教会の聖魔導師の中でも群を抜いた実力者で、筆頭魔導師だったって聞いたことがある。
けど、もう亡くなって結構経つって確かバルトール殿下がそんな事を言ってたような。
「旦那様は、本当に研究熱心な方でしたの。ですから、結婚に向いた方ではなかったのです」
あー、脳が筋肉ならぬ魔力のお人だったってこと?それは、ミレー様大分大変だったんじゃ。
「箱入り娘でしたからね、途方に暮れました」
ですよね。いや、旦那さん何してくれてんのよ。大事にしなきゃなんない、お姫様でしょうよ。
「生活を維持することに必要な人材は、お兄様が整えてくれましたけれど、細かなところまで王族の私達ではなかなか、ねぇ?」
今では笑い話ですけれど、と品良く笑われるけど、お姫様の新婚生活としては、どうだったんだろうか。
「旦那様は随分変わったお方でしたけれど、お優しい方でした。なので、わたくしが頑張ればいいのだと思いましたの」
何か楽しいことでも思い出したのか、お茶を飲むミレー様は、優しい笑みを浮かべていた。
「隣国には過去に聖女様と婚姻を結ばれた王族がいましたの。カテリーナ様はご存知?」
え?なんですと?
そこんとこ詳しく、とは言ってないけど結構な勢いで食いついたら、ミレー様は空気を読んで説明してくれた。
隣国であるブリュエール皇国は、建国70年のエインデンブルグ王国とは違い、700年近い歴史を持つ大国なんだそうな。
で、エインデンブルグの建国の際に、国教になった聖ヘレナ教会は、周囲に権威を示すため、ここぞとばかりに聖女様を召喚したんだって。
権威を示すためにとか、どーしょーもな。聖ヘレナ教ってその頃からすでに腐敗してない?
別に天変地異があったわけでも、結界が弱まったわけでもないから、聖女様も立ち位置難しかったんじゃ?
たまたま隣国の王族に年頃も良く、聖女様と結婚することで、地位を確立したい皇子がいたから、両国間で話し合いが持たれたそうな。
建国して間もないからか、持て余してる感が半端ないな。
もちろん教会は大喜びで、聖女様を差し出したらしいよ。本当に酷い。
それにしても、何番目の皇子だったんだろうね。
そんな感じで結婚したけど、二人は相性が良かったのか、仲睦まじく過ごしたそうだよ。それだけは良かったよね。
で、その聖女様。こっちに来て生活面で色々困ったんだろうね。これは作れないかあれは作れないかって、随分アイデアを出したらしい。
切羽詰まってたのか、我儘になるのか、分からないけど、とにかく周りは振り回されて大変だったみたい。残ってる文献にも色々と書いてあったんだって。
みたい、って言ったけど。
ミレー様がお姫様時代に隣国へ留学して、見たり聞いたり、感じたことを、柔らかくオブラートに包んで話してくれた事を、私が意訳したってことで。
まぁ、多分そんな感じなんだと思う。
でも箱入り娘だったミレー姫にとって、その多岐に渡る数々のアイデアは、ものすごいカルチャーショックだったんだって。
で、結婚して決意した、私が頑張れば、って努力の方向性が、生活魔法の開発に振り切ったと。どうしてそうなった。
「旦那様が研究に没頭する気持ちを、わたくしも理解出来てしまいましたの」
ミレー様は、ふふふと軽やかに笑われた。




