61 旅は始まったばかり ―沙羅―
「カテリーナさん、どうしてるかな」
見慣れない風景を眺めながら呟けば、レイラさんとターシャさんは、
「きっと、沙羅様をとても心配されているのでしょうね」
「ミレー様と一緒に、沙羅様が喜ぶ魔方陣を考えているかもしれませんね」
と楽しそうに笑って言った。
カテリーナさんは、この前、魔術師の資格を取ったんだって。
今は魔導師の資格を取る準備をしてるって言ってたけど、本当にすごい。
ミレー様と二人、いたずらみたいな魔方陣とか作っちゃうから、少しだけ心配だなぁ。
でも、旅に便利な物も作ってくれたから、ありがたいことだよね。
慣れない世界で、初めての馬車での長距離移動はとても不安だけれど、レイラさんとターシャさんが、ずっと側に居てくれることになって。
これもバルトール殿下が、心細いだろう、と手を回してくれたんだそうで、この気遣いは本当に嬉しかった。
それから、なんとこの馬車にはマットさんも、同乗しているのです。
と、言ってもお仕事なんだそうです。結界を修復する時や、その間の移動中の事などを、書記官として記録に残さないといけないんだそうで。
「沙羅様、出発の儀はどういった感想を持たれましたか?」
なんて、いちいち聞いてくる。仕事だから仕方ないけど、取材されてる芸能人みたいとか思ったら、なんだかソワソワして落ち着かなくなってしまった。
と、言っても。マットさん自身は、気さくないい人で。これまでも、色々とお世話になってるし、大分、打ち解けられたと思うの。
それに、こちらの世界の常識を聞きやすいから色々と助かるんです。
「道中は、地域によって食べられる料理も違うので、すごく楽しみですね」
なんて、マットさんは早くも観光客みたいな事を言って、楽しそうにしている。
「ちゃんとお仕事してくださいね」
「もちろんです。でも各国を廻る旅行など、そうそう出来る事じゃないので、楽しんだ方がお得ですよね」
なんて、私より年上の男性に対して、可愛らしいと思うなんて失礼な話だけど、やっぱり可愛らしく感じて笑ってしまいました。
馬車の中から見える景色は、遠くに高い山々が連なっていて、雪が被っている所もあった。手前は牧草地って言ってたけど、若い緑に覆われた小高い丘とかがあって。
のどかだなぁ、遠足で牧場に行った時に見た風景みたいだなぁ、と懐かしいような不思議な感覚だった。
近くに寄ったら、生えている木も草も、見たこともない物なのかも知れないけどね。
昼間なのに、あの大きな月が良く見える。青い空に、白く輝いて見えて。
「怖いけど、綺麗」
この、始めはあり得ないと思っていた風景も、見慣れれば当たり前になっていって。
こうして少しずつ少しずつ、私はこの世界に馴染んでいくんだな、と思っていました。




