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51 優しい王子様 ー沙羅ー

 


「本当に少しだけ、顔を見るだけでも、どうしてもダメですか?」


 急に会えなくなったカテリーナさんが心配で、侍女さんに聞いてバルトール殿下の所を訪ねて来たけれど、


「すまない、カテリーナは流行り病にかかって静養していてな。今は会わせることが出来ない」


 と、面会はあっけなく断られてしまった。

 明日、私は結界修復の旅に出る。だから朝には出立のための儀式みたいなのが行われることになっていて。

 多分、ゆっくりカテリーナさんやミレー様に会うことは叶わないはず。だから、その前にどうしても会いたかったのに。


「カテリーナから、沙羅様に渡してほしいと、と手紙を預かっている」


 そう言って懐から一通の手紙を出した。




 バルトール殿下は身長が多分180㎝位あるんじゃないかな、背が高くガッチリした肩幅で、整っているお顔なのになんというか迫力が。

 低くて響く男らしい声の感じと、整っているけど凛々しい感じからか、余計にちょっと怖く見えるのよね。

 聞けば、武に秀でているらしく、本来は軍を率いてあちこち忙しくしている、すごい王子様なんだって。




 けれど今は。

 この人がとても優しい人だということを、私は知っている。









「沙羅様、すまないがカテリーナのことはカナではなく、カテリーナと呼んでいただけないか」


 ある日、教会で毎日行っている祈りの時間が終わった時に、バルトール殿下からの訪問を受けた。

 これまでも何度も訪問はしてくれていて、王家は聖女を守る立場にある、と言ってあれこれ気を使ってもらっている。

 カナさんと一緒に勉強が出来るようになったのも、王家の方々の気遣いからなんだって。後でミレー様から教えてもらったの。


 異世界から来て何も知らない私と、急に貴族になって何も分からないカナさんが一緒に学ぶことで、お互いに足りないことを学べるとの配慮だったと聞いた。

 しかも、一人よりも二人の方が、学ぶ辛さも減るだろうって、それって優しさだよね。教会の人達だったら、こんな楽しい勉強会はしてくれなかったと思う。

 この優しさのお陰で楽しい時間がたくさん増えて。だから周りの人達とも徐々にだけど、打ち解けられるようになったと思うの。


 だから正直に言うと、どうして今更そんな事言うの?って思った。


「カテリーナは貴族がどういったものか、を分かっていないのだ。そして、教会の一部から、自分がどう見られているか、も分かっていない」


 そう言ってバルトール殿下は言葉を選びながらも伝えてくれたんだ。


 聖女である私と親しくする、新米貴族令嬢の立場の脆さを。そして、これまでにあった内密に処理した様々な出来事を、説明してくれた。


 物を知らない私にでも分かった。カナさんがどれだけ危険な状態だったのか、を。


「私のせいですね」


 気落ちしてしまって、なんだか声が弱々しくなってしまうけど、仕方ないよね。大好きな人を、自分のせいで危ない目に合わせるとか、ショックです。


「いや、沙羅様をまるで妹のように可愛がっているのは、こちらも承知している。距離を置いてくれと言っている訳ではないんだ。それでは沙羅様もカテリーナも、寂しいだろう」


 少し慌ててバルトール殿下が言葉を足した。


「ただ、人目のあるところで、親しすぎる言動は止めて欲しい」


 と。

 言われて気が付く。

 どれだけ親しくなっても、侍女さん達はある一定の距離を保ち続けているってことを。

 もちろんお願いしたから、緩めに対応してくれてるけど、元の世界の友人達とのような距離感では全くなかった。


 カナさんが、カナさんだけが、私の願いを聞き入れて、距離を詰めてくれてたんだって、改めて気が付かされて。


「二人の時だけカナさんって呼んでもいいですか?他は気を付けるので」


 そう伝えれば、難しい顔をしていたバルトール殿下が、意外なほどの柔らかい表情で、


「もちろん。カテリーナも喜ぶだろう」


 と言って。

 それで私は気が付いたんだ。

 この人は、もちろん私のことも心配してくれているだろうけど、カナさんのことがすごく心配だったんだなって。







 だからカナさんを大切にしているバルトール殿下が言うなら、今、会えないのは仕方がないんだと理解して、でも。


「絶対に絶対に、カテリーナさんを治して下さいね」


 カテリーナさんからの手紙をしっかりと持って立ち上がり、一礼をして退室した。

 外で待っていてくれた護衛の人と教会に戻って明日の準備をするために。






 流行り病は教会で治すなんて、異世界人の私だって知ってるんだからね。

 絶対に守ってよねって心の中で思いながら、お城を後にした。




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