5 噛み締めた唇の痛み
あいつ、今、なんて言った?
邪魔なら消して?消して?何を?命を?
私の、命を?
命を消す?
どくん、と大きく脈打つ鼓動を感じた。
お腹の真ん中の奥の奥がすごく熱くなって、その熱くなった場所がキリキリと痛んだ。
「う、くっ」
痛みが増すと共にお腹の真ん中の奥の熱は、私の中でどんどん膨らむ様に大きくなる。
それは命を軽んじられたことに対する怒りなのか、なんなのか、収まる気配は少しもなくて、どこまで大きくなるんだか、自分でも分からなくてちょっと怖い。
はらわた煮えくり返るって、こんな怒りのこと言うんじゃないの?
噛み締めた唇の痛みには、少しも気が付かなかった。
穏やかな春の夕暮れに、三人で手を繋いで桜並木を散歩した、あの日のことをふと思い出す。
「ママたちね、お腹にあなたが宿った時から、ずーっと幸せなの」
妊娠中のふとした出来事や、面白かったこと、ビックリしたことを話してくれる両親は楽しそうで。
生まれる前の月に逆子になって焦ったこと。産まれた時に感じた驚くほどの幸福感。
生まれてからの大変だけど楽しくてキラキラ輝く日々。
私の手を優しく包み込んで、二人が聞かせてくれた色んな話。
「これから大きくなる途中で、辛いことや悲しいことがあるかもしれない。でも、パパとママはずっとあなたの味方だからね」
「どんなことがあっても、自分で命の火を消してはいけないよ。必ずパパとママが力になるから」
やっと私たちの元に来てくれた、大切な命だから、大事にしてね、って微笑む二人。
両親が大切に大切に育んでくれた私の命。
消えた命の火は、どれだけ泣いてもどれだけ願っても、二度と灯らないと言うのに。
は?
あんたたちの都合で、あんたたちの勝手で?私の命の火を?
じょーだんじゃないっての。
こんなとこで、簡単に、あっけなく、意味なく消してたまるか。ふざけんな。あんたたちに勝手される筋合いないわ、ハゲ。
お腹の奥で何かが弾ける感じがして、体が跳ねた。
ドクンドクンと耳の中で大きく音が響いて、一ヶ所にたまっていた熱が身体中を駆け巡った。
それはまるで、怒りの炎が全てを焼き尽くすような勢いで体を包み、目の前が真っ赤に染まった気がした。
「まずい。暴走した」
「あー、落とすわ。悪い」
誰が何を言ったのか。
目の前の真っ赤が、一瞬でブラックアウト。