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49 聖女様の残したメモ

 


「レオナードさん、聞いてもいいですか?」


 司書のレオナードさんは、調べたい事を伝えると、この本が分かりやすいよ、とか初心者ならこの本かな?と、私に必要な本を素早く探してくれる。

 その上、リーさんと顔見知りらしく、私達とお茶してくれたりするんだよね。


 話しやすい雰囲気で、困ってることとかないか、知りたいことはないか聞いてくれるから、ついつい色々としゃべっちゃうんだ。


「何かあったかい?」


 ほら、今だって手を止めてちゃんとこっちを見てくれる。お仕事中なのにね。


「魔方陣なんですけど、結界の」


「あぁ、沙羅様の心配かい?」


 はい、と頷く。

 だってさ、この世界の陸地がどの位の広さなのか分からないけれど、国を跨いでの結界を作動させる程の魔力って、どうなのって思うんだよね。

 本当に一人でいけんの?とか命、削ってない?とかさ。


「これまでの聖女様って、結界を直した後はどうなったんだろう?って気になって」


 レオナードさんは少し考えてから、立ち上がって、手招きした。


「資料室に行こうか」


 そう言って、カウンター横を通してくれて、奥の部屋の鍵を開けた。

 扉の向こうには圧倒的な量の本と、ガラスケースに入った古そうな本がたくさん並んでいた。


「もう一つ、奥にあるんだ」


 レオナードさんは真っ直ぐに部屋を通り抜けると、大きくて厚みのありそうな扉の前に立った。そして鍵を開けてから、魔法を発動させた。


「ここは機密文章等の保管庫だから、通常は入れないんだ」


「え、私達、大丈夫ですか?」


 リーさんと私、そんな所に入って平気?思わずリーさんと顔を見合わせる。焦る私と違って、リーさんは今日も落ち着いています。


「大丈夫じゃなかったら連れて来ないよ」


 ふにゃっとした笑顔で扉を開けてくれたレオナードさんは、部屋の一角にあるソファーに座るよう合図して、奥の書庫に消えていった。





「お待たせ」


 しばらくしてレオナードさんは、本と額縁を持って戻ってきた。


「聖女召喚と結界修復の魔方陣は、聖ヘレナ教会の秘技だからね、詳しくは分からない。けれど、聖女様が、世界を廻った時の旅行記みたいなものが残ってるんだ」


 そう言って、一冊の本を私に寄越した。あまり厚みのない冊子の様なもので、表紙をめくると、出発した日付と聖女様に随行したメンバーの隊の名前や責任者の名前が書いてあった。


 教会側とその当時の国の王族なのかな?今の国とは違うっぽい。かなり昔のものなんだろう。


「それから、こちらは聖女が残したメモと言われているんだ」


 額に入った紙は、色褪せていて長い時間の経過を伝えて来るけど、書いてある内容が、


「フライドチキンが食べたい!シュークリームが食べたい!グラタンが食べたい!たこ焼きが食べたい!お母さんのカレーライスが食べたい!!!」


 だったから、思わず吹き出してしまった。

 食べたいものリストかな?とにかく、これを書いた聖女様って、それほど私達と時代が違わないんじゃないの?

 まぁ、気持ちは分からなくもない。けども、メモはとりあえず置いておこう。


「やっぱり貸し出しは出来ないですよね?」


「ゆっくり読みたいよね。うーん、ちょっとバルトール殿下に聞いておくね。許可出たら、連絡するよ」


 聖女様関連の本があるってことが分かっただけでも今日は良しとしよう。貸し出しがダメでも、時間作ってくればいいし。

 ちょっとウキウキして図書室を後にした。







「やっぱり読めるんだね」


 レオナードさんが額縁を見て、そんな事を呟いてたなんて、全く知らなかったんですけど。



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