45 アレンお兄様のお父様
それはあの夜が始まりだった。
初めての夜会です。来て早々、別室に移動した、私と殿下とアレンお兄様(今回は公式の場なので、お兄様と呼ばなきゃなんだよね)を待っていたのは、この方でした。
「君がカテリーナだね」
「はい。この度は色々とご配慮頂き、ありがとうございました。お父様とお呼びしてもよろしいですか?」
アレンさんに顔立ちはよく似た、けれど優しそうな雰囲気の、ダンディーな壮年を目の前にして、少しだけ緊張しています。
この方はアレンさんのお父様で、ラムダス領の領主であらせられるオスカー・ディ・ラムダス様、つまり私の新しいお父様なのです。
「あぁ、綺麗な女性にお父様と呼ばれるのは、いいものだね」
と、にこやかに微笑んで下さいました。アレンさんと違って口調が柔らかいのも素敵。
「アレンの不手際で、心細い思いをさせたと聞いたよ。すまなかったね」
会ったこともない、押し付けられた娘に対して、頭なんか下げないでと心の中で盛大に慌てつつ、でもその優しい気遣いが嬉しくて、思わず笑みが零れてしまう。
「何かあれば、手紙を寄越しなさい。出来る限り力になるから」
そんな暖かい言葉を掛けて下さった。ダンディーな上にジェントルマンとかありがたい事です。
「アレン、君ももう少し人に対しての思いやりや、気配りを覚えた方がいい。このままでは結婚相手が泣くことになってしまう」
おおぅ。夜会の会場から出た客室にいるとはいえ、お父様に本気で怒られる正装のアレンさん、とか。
イケメンな上、キラキラしい格好をしているだけに、ぷぷぷ、笑える。
そして、私をエスコートしてくれているバルトール殿下にも矛先は向かい、
「殿下には、うちの娘となったカテリーナの虫除け位はしていただかないと。余計な物を寄せ付けるような、愚かな行動は慎んで頂けますな?」
おっと、お父様は殿下にも強かったよ。
聞けば、幼少の頃、アレンさんのご実家で過ごした時期があるんだそうで。いわゆる幼馴染ってやつですね。
今は亡くなられた奥様と共に、殿下をずいぶんと可愛がってくれたんだとか。
なるほど。それで殿下に対して気安い態度だし、殿下も素の状態なのね、納得納得。
「オスカー殿にはいつまでたっても敵わないな」
殿下はなんだか嬉しそうに笑っていた。お父様を信頼していることがありありと見える表情に、なんだか私も嬉しくなった。
いいご縁を戴いたんだなって思って。
その後は。
超厳しい特訓の末、なんとか修得したダンス(踊れるのは同じリズムの曲のみ)を殿下と踊り、アレンお兄様と踊りました。
今、考えれば、あれは罠だったと思うけど、出なきゃいけない夜会のルールを覚えるのに必死で、あの時は殿下にエスコートされることの意味なんて分からなかったし、アレンお兄様がいつになく笑顔を振り撒いて、私と連続で踊ったことなんて、ただの嫌がらせか、位に思ってた。
夜会後に、お年頃の令嬢達やその家族から、本当の嫌がらせを受けるようになるまでは。




