42 ある魔導師の呟き
私は聖ヘレナ教所属の聖魔導師の中でも、一番位の低い魔導師です。
なので、位の高い聖魔導師からは、研究助手や書記官として、いいように使われています。
聖女様を召喚する日には、書記官として立ち合うことが出来ました。多分、自分でやるのが面倒だったのでしょうね。まぁ、予想通りだったので良いのですけど。
召喚の間に降り立った女性は、神々しく、キラキラと眩いばかりに輝いていて、そのお姿は、まさに聖女様といった感じでした。
ただ、こちらの世界のことも、今の状況も何も分からないのでしょう。かなり戸惑っておられる様に見えました。
それなのに。
あの金の亡者で、卑劣で性根の腐った教皇と、未だに権力を求めて隙あらば王家に仇なそうとする王弟、それから教皇の元で本来の在り方を忘れた筆頭魔導師どもが、聖女様に暴言を浴びせたのです。
あまりの一方的な物言いに、聖女様はショックを隠せず、顔色を青ざめさせて、立ち竦んでおられました。その上、
「聖女なんかじゃない」
とまで言わせてしまいました。
やはり、ご先祖様が懸念し、心配した通りになりました。
この国の在り方は、ずっと昔から変わらないのです。歴代の聖女様の犠牲の上に立つ世界など、無くなってしまえばいい、とまではさすがに思いませんが、これ以上の聖女様への負担は、なんとしても避けたいところです。
もう、時間がありません。この度の聖女様のことは、全身全霊でもって御守りしなければ。
特に、今の教皇は、質が悪すぎます。野放しにすれば、どれだけ聖女様を傷付けるか、本当に分からないのです。
聖職者としてあるまじき事ですが、お金にも権力にも、女性にもだらしのない輩なのです。
なので、聖女様のお心だけでなく、お体への無体も考えられなくはないのです。今のところ、その様な気配は無いのですが、考えるだけで不敬で、恐ろしい話です。
そして王弟の動きも不気味さを増しています。王弟の奥方の実家で何やら動きがあるようで。これからは気を引き締めて事に当たらないといけません。
一族の長へ、文を認めます。
時は来た、これだけで全て伝わるようになっています。
ようやく我が一族の祖が聖女様から託された役目を、果たす時が来たのです。
なんとしても。
聖女様を元の世界へと帰さなければ。




