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38 聖女じゃなくても ーバルトー

 



 おかしい。

 図書室からカテリーナの部屋に戻るには、ここを通るしかないというのに、カテリーナが見当たらない。

 2往復して、もしかして迷っているのか?と思い付く。

 報告書にあったように、カテリーナはこの城に慣れていないし、頼れる侍女もいないのだから。


 そこまで考えて、忙しさを理由に、どれだけカテリーナを蔑ろにしてきたか、自分の愚かさに改めてため息を吐いた。


 迷っているのなら、と思い当たる所をいくつか探すと、曲がった先にカテリーナの姿が見えた。

 声を掛けようとして、ハッとする。

 カテリーナが姿勢を正し頭を下げたからだ。

 俺に対してか?と一瞬考えて、違うと分かった。カテリーナが、緊張したように体を強ばらせ、本を抱きしめ、指をギュッと握りしめていたからだ。




「カテリーナ、すまなかった」


 声を掛け、カテリーナが顔を上げる前に、思わず抱き締めた。

 なぜか、なんて分かりはしない。ただ、体が勝手に動いただけだ。

 誰が通るか分からない場所で、相手を見ても誰だか分からないカテリーナが、どうにかやり過ごすための行動だと気がつけば、体が衝動的に動いたとしか言いようがない。

 どれだけ心細かったろう。

 見つかって良かった、と告げれば肩の力が抜けて、ゆっくりと指の力が抜けたことが分かった。


 


 これまで感じていた様々な事を、ずっと貯めてきたんだろうカテリーナが、少しずつ少しずつ想いを吐き、言葉にした。

 この世界の事だけを優先に、聖女のことさえまともに守ってやれなかった俺達に、カテリーナが何かを言えるはずもなかったと気が付かされて。


 聖女じゃないから、と全てを我慢させ諦めさせた。これまでのカテリーナの寂しさや辛さを思うとこんなにも胸が苦しい。

 怒り、嘆き、怨みも全部、俺にぶつけていいのに、カテリーナは涙をこぼして嬉しそうに笑ったのだ。

 この世界に居場所を見つけてもいいか、と。その笑顔を見て余計に、胸がギュッと軋むように痛くなる。


 もっと望んでいいんだ。そう、思う。

 もっとカテリーナの笑顔を見たい。

 もっとカテリーナの喜ぶ声が聞きたい。

 カテリーナの震える肩を抱き締めたい。

 カテリーナが泣きたい時は、暖かくそっと包んでやりたい。


 柔らかく滑らかな髪を掬えば、カテリーナがこちらを真っ直ぐ見て、そっと頬に触れて涙を拭えば、恥ずかしそうに笑みを浮かべた。




 聖女じゃなくても、と考えその先に続く気持ちには、今は蓋をする。




 どれだけ謝った所で、これまでの事は無かったことにはなりはしない。これからは行動で態度で、カテリーナを守っていくしかない。


 カテリーナの居場所を、安らげる居場所を、俺が絶対に作り上げて見せる。


 強く決意して、カテリーナと共に部屋へと戻った。




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