34 方向音痴は治らない
レオナードさんは、図書室の使用方法を丁寧に教えてくれて。
借りたい本は、相談すればすぐに見つけてくれるとのことで、早速お願いすることにした。
結界と魔方陣について書かれている本を探していたので、何か言われたり聞かれたりするかな?とも思ったけど、笑いながら、
「アレンと同類?」
と、そんな一言だけで。
なんて言うか、不安にさせない距離感を作ってくれる人だなぁと感じつつ、借りる手続きをして図書室を後にする。
「今度はゆっくり遊びに来てね」
と、レオナードさんは言ってくれた。
お茶もあるよ、本だけじゃなく少し話し相手にもなってね、なんて一見ナンパか、ってセリフも、レオナードさんがふんわり言うと、優しい言葉に聞こえるから不思議。
休みの日に行ける場所が増えたことは、単純にとても嬉しいことだった。
本を3冊抱えて歩き出す。
えっと、こっちから来たから、この大きな柱の所でこっちに曲がって。
この辺りをもう一回曲がったよね?それから階段が、あぁ、あったあった。
で、この階にいつもの曲がり角があって、んん?あれ?どの曲がり角?
え、何で?こんなに曲がるとこがあるの?
あれ?いつも一回曲がるだけじゃなかった?
え、待って。ドアがみんな同じなんだけど。あれ?こんな窓、あったかな?
ここかな?と、ノックをしてドアを開けようとしたけど、鍵が掛かっていて開かなかった。
私の部屋は、私が開ければ鍵が解除されるようになってるから、ここじゃないってこと。
あれ?これヤバくない?
同じような曲がり角に、同じドアの部屋がいくつもあるなんて知らなかった。
さっきも、レオナードさんが、
「侍女はいないの?アレンのヤツ、さすがにダメだろう」
と言っていたけど、そうなのかも。
なんせ、目が覚めたらすでに城だったからね、城の入り口も知らないし、大体何がどこにってことも、知らないんだよね。
案内してくれる人を頼まなきゃいけなかったんじゃない?
自分の部屋から、アレンさんの執務室か、殿下の執務室、それから沙羅様と一緒に勉強を教わる応接室、後は食堂以外に行ったことがないんだもん。
圧倒的に城内を知らないし、加えてまさかの方向音痴なんだよー。
城って、行ったらダメなところとかあるんじゃないの?あれ、ここ大丈夫かな?
誰か聞ける人、通らないかな?
壁にもたれ掛かって、深呼吸をしていると、左の奥からカツンカツンと足音が聞こえた。
これでやっと、尋ねることが出来る、と一瞬喜びかけて、大変なことに気が付く。
自分より身分の上の人とすれ違う時は、低い人が避けてとにかく頭を下げてやり過ごす(カテリーナ意訳)ってルールがあるんですよ。
けどね、私ってここの人じゃないじゃないですか。だから、誰が偉い人なのか全然分からないんだよね。そもそも顔を知ってる人が少数だし。
アレンお兄様のバカバカバカー。
とにかく。
やり過ごすしかない。だって、足音は確実にこっちに向かってきてるし。なんとなく早足っぽいから急いでる人かな?
姿勢を正して、お腹から45度だったよね。きっと、大丈夫。サッと通りすぎてくれるハズ。
本を抱えたままで、お腹の前の手をギュッと握りしめて、ついでに歯もグッと噛み締めて。あぁ、なんてこと。息まで止めてたよ。
なのに。
何で私の前でピタッと止まるかな?え、何。私、何かした?やっぱり、ここって来たらダメなところ?捕まっちゃう?
心臓がバクバクして、どうにかなりそう。
「カテリーナ、すまなかった」
声が聞こえて、え、って思った時には、ギュッて強く抱き締められてた。




