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30 雲は同じように流れた

 


 窓の外をぼんやり眺めてみる。

 こじんまりとした庭園が見えるけど、そこに知る花は無かった。

 その先には城壁があって、外の世界がどうなっているのか、私には分からない。

 沙羅様には、庶民の生まれと話しているのに、恐ろしい程何も知らないなんて、いっそ笑えるよね。




 聖女である沙羅様と、初めて会ってからもう1ヶ月になる。


 最初はこの世界になかなか慣れず、眠れなかったりと不安定になることが多かった沙羅様だけど、最近は大分落ち着いてきたみたい。


 バルトール殿下とミレー様に相談をして、沙羅様の周りの侍女を入れ替えてもらった。

 教会側の、変に聖女様を崇拝しているような侍女は外して、沙羅様自身を見てくれるよう面倒見の良い人を選んでもらって。

 誰も知る人の居ない沙羅様の話を、親身になって聞いてくれるよう頼んだりもした。


 やっぱり、自分の日常に起きた細かなことを話せる相手と、それに共感してくれる相手が絶対に必要だと思うんだよね。

 家族は作ってあげられないけど、友達って訳にもいかないけど、心安らぐ一時くらいは、どうにかしてあげたかった。


 それは、私にとっても欲しくて欲しくてたまらないものだったから。






「あーぁ」


 家族も、友達も、知り合いも居ないってことが、どれだけ孤独を感じるかなんて、こっちに来なかったら私だって知らなかった。

 両親を亡くした時に、世界の誰とも繋がってないような、絶望的な気持ちになった時があったけど、そんな事なかった。


 学校に行けば友達も居て、みんな普通に接してくれて、先生方も声を掛けてくれてた。親戚も、近所の人も、今思えば私のことを気にして声を掛けてくれてたんだなぁ。

 なんなら市役所の、担当の人だって毎月電話くれてたしね。仕事だとしても、そうやっていろんな人が、私と繋がろうとしてくれていた。





「はぁ」


 今日は魔力の基礎の勉強がお休みの日だった。だから、私にはやることが何も無い。


 一応、私ってアレンお兄様(公の場ではお兄様って呼ばないといけないんですって)の執務補佐みたいな扱いになってるのね。

 実際はそんな仕事してないけど、沙羅様に関わることが仕事だからいいんだって。

 だからか、大人しめのドレスの様な普段着は、いつの間にか洗濯されて補充されているし、部屋の掃除も、いつの間にか誰かがやってくれてるんだよね。


 こっちに来てから、何だかんだで休みもなくて、バタバタしてたから、急に時間が出来ると、困るってことにすら気がつかなかった。


 ものすごく静かなこの部屋の中で、テレビもスマホも、パソコンも無くて。暇をどうつぶせばいいのか。

 次の週の為の、作り置きの料理の準備も必要なくて。それはそれで楽でいいか、なんて少しも思えなかった。

 普段、中々会えなかったけど、部活の仲間とか学校の友達も、会社の先輩、可愛い後輩も、何だかんだで私と繋がりのあった人達は誰も、ここには居ない。

 だから、休みの日に約束する相手も、待ち合わせする相手も、電話やメールの相手も、誰も、1人も居ないことに強制的に気がつかされて。





 気がついてしまえば、椅子に座っていても、落ち着かなくて。寝転がることも出来ないこの部屋で、何もすることがなくて。




 仕方がないから、窓にもたれ掛かって流れる雲を見ていた。

 雲だけはあちらもこちらも同じように見えるなぁ、ってぼんやりと。








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