28 女性は強し ーバルトー
聖女と共にこちらの世界に渡って来た、市村加奈子は不思議な雰囲気を纏う女性だった。
アレンの見た目に赤くなり、少女の様にソワソワしたかと思えば、次の瞬間にはまるで女官長の様な態度を取った。
こちらの世界と自分達が召喚された状況を知れば、即座に頭を切り替え、自分が今、何を求められているかを悟り、それを請け負うとは、なんと言うか潔い。
ラムダス家の養子になる、となった段階で過去の名をあっさりと手放したことにも驚かされた。目的を達成するためには手段は厭わないと言う。心根が男らしすぎないか?
まぁ、とにかく。カテリーナの部屋や当面の生活に必要なものを、侍女達に揃えさせ、急いでミレー様に繋ぎをとり、直接会いに行った。
王族の限られた者のみが使える転移魔方陣の組まれた部屋があるのだ。
元筆頭聖魔導師の奥方だったミレー様は、現在は教会とも、王家とも、一定の距離を置き隠居していて、城から離れた居住地で悠々自適な生活をしておられる。
そのため、この度の聖女召喚のことは何も知らなかった。が、聖女が引きこもっている状況を知り、教会の責任を感じたのか快く調査を引き受けてくれた。
転移魔法を操り、教会の本部にいた現筆頭聖魔導師さえも吊し上げ、あっという間に全てを吐かせた。
教会上層部が皆、顔色を悪くしていた。
ミレー叔母上怖い。
最終的に、最後まで聖女に付いていた、低位の聖魔導師が書記官だったようで、自動書記の魔法で全てを記録していた事が分かった。
マットと言うその聖魔導師から魔導書を受け取り、中身を確認すると、
「これは、ヒドイ」
なんと言うか、カテリーナが心配していた通りの事が起きていた。お読みになったミレー様も、
「さすがにコレは無いのではなくて?」
と呆れていた程だ。
結果、次の日に、教会側と王家との協議をすることになり、このままでは聖女が肉体的にも精神的にも衰弱し、聖なる魔力を使うどころか、倒れてしまうと王家側が主張し、中立であるミレー様を魔法制御の教師として、こちらの予定通りお迎えすることが出来た。
そして、今日。これから魔力の基礎を習ってくる、と挨拶に来たカテリーナの色合いに驚き(いや、アレンから報告は受けてはいたが)、どうしてだか直視出来ず、視線が泳いだ。
目的を達成するために手段は厭わなかった結果、この見た目なんだと分かっているのに、こちらの様式の服装を纏ったカテリーナは、本物の、しかも深窓の令嬢の様に見えた。
「殿下、ちょろ過ぎます」
と、カテリーナに怒られた。
いや、うん。確かにな。
アレン。顔がひきつってるけど、お前の妹だからな?ちゃんと面倒見ろよ?と視線で物言えば、面倒くさそうに舌打ちされた。




