27 時間は進む ー沙羅ー
召喚したと聞かされた。
聖女だとも言われた。
この世界の危機を救えるのは、聖女であるあなただけだとも言われた。
これだけの被害が、これだけの犠牲者が、どれだけ大変な状況で、と現状を訴えられても、心は少しも動かなかった。
「今日から魔力の基礎を学んでいただく。師になるお方は王家に連なる高貴なお方だ。くれぐれも弁えて対応されよ」
突然、部屋を訪れた初対面のおじさんは、今回の召喚の意義を一方的に語って、だから学べと、そう言った。
おうけにつらなるこうきなおかたって言葉は、瞬時に変換出来なくて、意味を考えてるうちに、おじさんはいなくなってた。
ぼんやりと、おうけって王家?とか考えていたら、ノックの後に女性が何人か入ってきて、当然のように着替えと髪型を整え始めた。
シンプルで、ゆったりとした白いワンピースは動きやすくて、着心地はいいけれど、そこに私の好みは反映されない。
髪型もそう。特に私の要望も聞かずに、綺麗に纏まっていく。
すべてが誰かの都合に合わせて進んでいた。私の意志なんて全く関係なく、誰かの都合に合わせて。
良く分からないまま連れていかれた部屋に入ると、一人の女の人がいた。私と目が合うと、優しげな微笑みを浮かべて会釈をしてくれた。
目が合って、微笑まれた。ただそれだけのことなのに、嬉しくなって、慌てて会釈を返した。
窓から差し込む光にキラキラと光る髪の毛は、腰まである柔らかそうなストレートで、サイドが編み込まれてて、大人っぽくて素敵。
どんな人なんだろう。この人も聖女に関係する人なんだろうか。
瞳がグリーンなんて、絵本に出てくる妖精さんみたいで、ちょっとドキドキする。
妖精さんをチラチラ見ていたら、ノックと共に扉が開き、ゆっくりとした歩き方で一人の女性が入ってきたの。
「初めまして。魔力制御の基礎を教える魔導師のミレーと申します。お二人とも、よろしくお願いしますわね」
誰に言われなくても分かった。この女性が王家に連なる高貴なお方、なんだって。
大きくないのに不思議と響く声も、優しそうに微笑んでいるのに、何かこう、纏う空気が違うというか。
服装も豪華。白くて艶々のローブ、というかマントなのかな?は、金色の糸で裾に植物の様な刺繍が入っていて、所々に宝石の様な光る石をつけてるのか、動く度にキラリと光る。
魔導師って言ってたけど、それって魔法を使う人ってこと?魔法かぁ、それって私に本当に使えるのかな。教えてもらったら、使えるようになるのかな?
ミレーさん、じゃダメよね。ミレー様って呼べばいいのかな。弁えろって言われたけど、私、大丈夫かな。あれ、もしかして頭下げなきゃダメだった?
もしかして、「無礼者、処罰を」なんてこともあるの?どんな態度が無礼になるの?見たらダメ?しゃべったらダメ?
ちょっと待って。弁えるって、どうしたらいいの?教えてよ。




