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26 はにかむ聖女

 


「では、聖女様も」


 ミレー様の声に肩をピクリと震わせて、


「山岸沙羅です。よろしくお願いします」


 と小さく頭を下げた女の子は、不安そうにビクビクしていて、なんだか守ってあげたくなるような、女の子だった。


 色白で、目はくりっとしたパッチリ二重で、鼻と口は小さくて。眉尻が困ったみたいに下がっちゃってるのも、なんか可愛い。

 髪の毛は黒くてセミロング、ハーフアップにしていて、毛先が巻いてある。背もちっちゃいなぁ。そこもまた、良し。


 この前は、後ろ姿の制服だったから、女子高生って認識だったけど、今日の衣装がゆったりした白いワンピースで、華奢なのが強調されて、中学生って言ってもいい位に幼く見える。


「ミレー様、聖女様を沙羅様とお呼びしたら不敬でしょうか?」


「いいのではなくて?お二人は御学友のようなものですし。聖女様はいかがですか?」


 ミレー様が確認すると、聖女様は少しだけソワソワして頬を染めてから、


「あ、名前を呼んでもらえたら嬉しいです。私、名前を尋ねられたのも今日が初めてなので」


 と、はにかむように微笑んだ。


 は?

 はぁ?

 どーゆうこと?名前を尋ねられたのが初めてって?召喚されてから何日経ってると思ってんの?馬鹿じゃないの?馬鹿でしょ、馬鹿なんでしょ、と聖女様を恭しく迎えたハズの教会のアホどもを心の中で罵倒しつつ、鼻息が荒くなるのをなんとか気合いで押さえる。


 いや、いい。今はそこじゃない。


「沙羅様、私のことはカナと呼んで頂けると嬉しいです。亡き両親が、そう呼んでいたので」


「カナ、様?」


 いやいやいやいや、違う違う、と頭と手を振る。


「でも、私、呼び捨てにするのは出来ないです」


 沙羅様が、辛そうな表情を浮かべた。

 あー、うん。その気持ちはとーっても良く分かります。せめて私が年下だったらなぁ。


「では、学びの場だけですけど、さんをつけるのはどうでしょう?」


 と提案すれば、沙羅様はホッとした様に表情を緩め、「カナさん、カナさん、カナさん」と小声で呟いている。

 何これ、可愛い。可愛すぎる。


「聖女様、私も沙羅様とお呼びしてもよろしくて?」


 ミレー様も沙羅様を見ていて何かを感じられたのか、子供でも見るような暖かい微笑みを浮かべていた。







 結果的に言えば、沙羅様は今日の二時間だけで、ミレー様と私に大分打ち解けたと思う。

 ミレー様も沙羅様に気を使ったのか、今日は授業と言うよりも、みんなで雑談といった感じだった。


 周りの様子を見て、言葉少なだった沙羅様が、こちらに来てからの事を少しずつ話すようになって、ホッとする。慣れてきたら、召喚の時のことも、その後のことも話してくるようになった。でもそれは、沙羅様がフレンドリーだったからじゃない。







 ただただ、沙羅様が孤独だったからだ。









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