23 奇跡の瞬間 ーバルトー
その瞬間は、奇跡の様だった。
魔力に満ち、魔方陣が強く光り魔法が発動した瞬間、キラキラと光り輝く粒子が舞い、それまでそこに存在しなかった聖女が突如現れたのだ。
光り輝く粒子はすぐには消えず、聖女の周りを漂い続けた。
立ちすくむ聖女の後ろで、トスンと音がして何かが後ろへと転がったのが見え、召喚の儀に立ち会っていた、王弟エインデルド公爵閣下の近衛と素早く目配せをし、俺ともう一人がすぐに動いた。
そこには召喚の間を清浄に保つための魔方陣の組み込まれた溝が掘ってあり、女が見事にピッタリと嵌まっていた。
「何者だ?」
一応声を掛けては見たが、気を失っている様で、少しも反応がなかった。
「地下牢へ」
アレンが言うと、近衛が肩に女を担ぎ上げ、聖女に見られぬよう裏口から速やかに退出した。
グッタリとしたままの女を鎖に繋ぎ、牢の外で沙汰を待つ。しばらくすれば、近衛2名と共にアレンと教皇ヘレナルードが地下へ降りてきた。
アレンが連れてきた近衛に外で待つよう合図し、俺ともう一人が中に入る。
教皇は特に女に興味を示さず、
「力がないなら捨て置け。邪魔なら消しても構わん」
と近衛を引き連れ退出していった。
少しして、急に女が呻き声を上げた。見れば女が苦しみもがいている。
なんだ、これは。
大抵の小さい魔力の暴走は、ユラユラと空気が揺らぐように見え、体の魔力が出やすい場所、例えば手のひらや指先、まれに口から出る者もいると言うが、その内の数ヵ所から魔力が漏れてしまう。
なので応急処置として、体全身を薄い膜のような魔力で覆い、出口を塞ぐことで魔力の放出を防ぎ体内に循環させるのが一般的だ。
だが、女の体から立ち昇るのは赤と青、それから緑、黄、紫の揺らぎに見える。それも部分的ではなく、全身から放出される激しい揺らぎ。まるで色のついた炎の様だった。
激しく絡まり合う揺らぎが、大きなうねりとなり、まるで美しい絵画の様だと思った。
気付けば見とれていたんだ。
「まずい。暴走した」
アレンの慌てた声にハッとする。
「あー、落とすわ。悪い」
首に手刀を落とす前に、一応声は掛けたが聞こえたかどうか。
意識を落とした上で、全身から漏れる魔力を押さえるために、膜でグルグル巻きにする、が正しいらしい。アレンが面倒臭そうに隙間なく膜を張り巡らせていた。
安定した上で、魔力を循環させる道筋を構築するのが大変らしく、全力の暴走は面倒だ、とブツブツ言っている。が、お前も起こしただろうと言えば、バツが悪そうにしていた。
後でこの時の話をアレンにしたら、驚いていた。アレンには色は見えず、音が聞こえたんだそうだ。何種類もの音だと言っていた。
「魔力に音なんかあったか?」
と聞けば、
「色だって無いだろ」
と返って来た。そうだよな。
俺達は何を見たんだろうか。面倒なことにならなきゃいいんだけどなぁ。
そんな事を思いながら、城へと急いだ。




