2 巻き込まれるとかあり?
ふと、手でも足でもなく、後頭部が痛いと気が付く。ん?後頭部?
後頭部に意識が行った瞬間、後頭部を激しく打ち付けて転がり、ミラクルフィットな感じで溝にはまった、マヌケな私の姿から始まった記憶が、一瞬で巻き戻された。
巻き戻った記憶のスタートは、近所のスーパーでの買い物の途中の場面だった。
「あとは、食パンと冷凍ブロッコリーと冷凍コーンでOKだな」
メモ帳をチェックしながら、独り言を呟いた私は、冷凍食品の並ぶコーナーを曲がった時に、立ち話をしている人にぶつかり、ボールペンを落としてしまった。
「あ、すみません」
謝りつつも転がったボールペンを追いかけた先に、近所の女子高の制服を着た女の子が立っている。その後ろ姿を横目に床のボールペンに手を伸ばしたら、目の前の床に光る線が現れた。
光る線を視線で辿ると、女子高生を中心に綺麗な円を描いていることが分かった。
なんだアレ。目を擦っても消えない光りに目を凝らす。
すると円の内側に文字が出現しギョッとする。何、何?何が起きてるの?
不思議な現象に驚きながらも、増えていく文字の内容が気になっちゃって、女子高生の周りに何本かの輪になって模様の様に描かれていく、光る文字に見とれてしまう。
だから、自分がその光る文字を踏んでることにも、光る文字が示す条件に、偶然自分が当てはまってしまったことにも全く気付かずに、女子高生と共に落っこちた。
そこまで思い出して。あー、急に体が浮く感じがあって、その後、突然落下したわ、と現実に引き戻された。
強く印象に残っているのは、キラキラ光る、彼女の後ろ姿。
落下して尻餅ついたな、お尻痛いな、と思ったら、そこからさらに転がって後頭部を打ったんだった。
目の前に銀色のチカチカが飛んだから、結構な衝撃だったんじゃなかろうか。
「確か、聖女となりうる魔力を持つもの。両親他、親しい親族等、心を通わす相手の居ないもの。元の世界に執着の薄きもの、なんてのも書いてあったな」
あの時、円の内側に最初に現れたのが、聖女となりうる魔力云々の文字だった。他にもたくさんの文字が現れて。
多分、女子高生の足元までびっしり描かれたと思う。光を追いかけたけど、スピードが早すぎて全部は読みきれなかったんだよね。
ライトノベルを好んで読んできた私だからこそ分かる。あの光る輪と文字は聖女召喚のための魔方陣だった。
彼女の足元まで文字が埋まった時に、魔方陣全体が眩い光りに包まれたから、あの瞬間に魔法が発動したんだろう、きっと。
で、私は巻き込まれた、と。