19 帰れないなら
「最初は、同じ世界から来ました、辛いね、寂しいね、帰りたいね、ってお互いに依存して乗り越えるしかないと思ったんです」
と言えば、アレンさんは頷いた。
本当にね、そう思ったんだよ。だって世界にたった二人きりだよ?
きっと一緒にいたらお互いに心強いし、気持ちを分かってくれる人が一人いたら、いろんな事を頑張れると思う。まぁ、相性とかはあるだろうけどね。
だから、結界を直して、元の世界に帰れるなら、多分そうしてた。
お互いに励まし合って、帰るために色々我慢して、早く全部終わらせて、とにかく帰るために頑張ろう、そう言って二人だけで辛いことも悲しいことも嬉しいことも、分かち合って。
で、元の世界に戻りました、良かったね良かったよ、が本当は望ましいよ。
振り返ったら、異世界で聖女やってましたなんて笑えるねって、聖女様が大人になったらお酒でも飲みたいよ。黒歴史だね、なんて言ってさ。
だけど。
帰れないのなら。
「私たちは、この世界に居場所を作らないといけないんです」
アレンさんは何も言わずに私を見ている。
「結界を直したら、聖女様は解放されますか?」
「いや、解放はされないだろう」
ですよね。世界を救った聖女様を、そのままにはしないと思う。教会も、国も。
「聖女様は、まだ未成年なんです。きちんと彼女を保護してくれる人が必要です」
「教会が保護すると思うが?」
アレンさんは、ううん。この世界の人達は皆、彼女を聖女としてしか見ていない。だから、きっと聖女に必要なものはこちらで用意するから、大丈夫だと考えてるんだろう。
もっと言えば。
保護してやるんだから文句はないだろう?ってね。
「何を与えられるんですか?名誉ですか?お金ですか?食事や衣類ですか?家を与えますか?」
畳み掛けるようにアレンさんに問う。
「でも、それが本当に彼女が欲しいものだと思うんですか?本当に?家族は?親友は?信頼できる先輩や後輩、彼女を一人の人間として尊重出来る仲間は?」
だってまだ、高校生だ。知らない世界で、知らない人に囲まれて、この先、聖女様としてしか生きられない?
そんなの、そんなのないよ。
「今までの彼女の置かれた環境と同じような、穏やかで平和な生活を彼女に与えることが、本当に出来ますか?」
ダメだ。感情が押さえられない。
お腹の奥の法で、あの熱がまた、ゆらりと動くのを感じた。




