16 養子縁組
市村加奈子、この度異世界にて正式に仕事が決まりました。わーい、パチパチパチ。
だけどその前に、アレンさんの妹になることも決まってしまいました。えーっ、何それって感だよね。
「なんだ、不満か」
アレンさんは不服そうだけど、当然じゃない?いきなり刃物を首筋に当てるような兄、全然欲しくないったら欲しくない。
「不満と言うか、不安と言うか悩むところですね。念のためもう一度話しておきますが、聖女様も私も、ものすごく平和でのんびりした国から来たので、荒事には全く慣れていませんからね」
聖女様の盾になれ、とか言われても本当に困るし。危機管理もなっていませんからね。経験値も足りないから、危険予測も出来ないし。
一応、バルトさん立ち会いのもと、二度と刃物を向けないと約束してもらいましたけどね、念のため重ねて言いました。
こちらの世界の人には、多かれ少なかれ、必ず魔力が備わってるんだって。でも、やっぱり個々の能力と言うか、個人差が存在してて。
だからか、子供の時に魔力は鑑定することが決まっていて、単純に魔力が多い子供や、魔力操作の資質のある子供は、貴族の養子になることが多いんだって。
それが当然の世の中だから、7人とか8人とか養子がいる領主も多いんだとか。
もちろん、実子との差はあるけど、学校にも通わせてもらえて、仕事や嫁ぎ先にも困らないから、親も喜んで差し出すらしいよ。
結局、子供が多くいれば嫁がせたり、婿養子とかで他領と繋がることも、魔力の多い子供同士を結婚させることも出来るし、そもそも魔法を使える人は多ければ多い程、様々な事が出来るらしいから、ウィンウィンの関係なのかな?
んで、今回の場合、急いで体制を整えないといけないし、この世界のこと何も知らないから、フォローも必要だしね。状況を知ってるアレンさんの家が色々と都合が良かったみたいで、円満に話が纏まったんだって。
で、ある程度話を纏めたバルトさんは、忙しいらしく「少し出てくる」と部屋を出ていっちゃった。ご苦労様です。
「それで、魔法について知りたいと聞いたが?」
バルトさんにさっきその話をしたら、魔法のことはアレンに聞いてみろって言われたから、話を振ってみた。
「実は私、髪の毛の色を染めているんですよ。だから、もし魔法で元に戻せたらいいなって思って」
「染めている?手を加えたものを、元に戻すということか?」
そうだと頷けば、アレンさんは胸ポケットから何かを取り出した。
「え、え?す、すごい」
ビックリして思わずアレンさんを二度見してしまった。だってね、胸ポケットから手のひらサイズの手帳みたいのを取り出したのね。で、机の上にそれを置いたら、急に大きくなったの。
「このノートには、開けば大きくなる魔法が掛けてある」
あまりに私が驚いたからか、アレンさんも丁寧に説明してくれて、開けたり閉じたりして、その度にサイズが変わるところを見せてくれた。
あまりの驚きと喜びように、
「本当に魔力のない世界から来たんだな、お前」
と、アレンさんが驚いているのを見て、なんだか笑っちゃった。




